第十話 「愛を叫ぶのはまだ早い?」
心が曇っていくようなジンっとくる雨音が教室内に反響し、心なしか肌寒い季節が今年もまたやってきた。
「——それでは、」
教師の声もそんな音で掻き消してほしいが、願いは叶わず。むしろ、窓を閉められてカーテンまで閉じられて、試験監督の先生の不敵な笑みとともに鐘がなった。
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン……。
途端に響く、問題用紙を捲る音。
動物が威嚇をするように、すらすらと紙を擦りわせる音を鳴らす。そんな低次元な威嚇に僕も対抗することにした。
シュッ、シュッ、シュッ。
お気に入りのシャープペンシルを滑らせて、解くスピードを隣に見せつける————おっと、見せつけるわけではない。音と動きを感じさせて焦らせていく。だが、生憎隣は僕よりも頭がいい。
「ふぅ……、ここはこうで……」
隣を意識してそう声に出してみたが西島咲からの反応はない。
だが、どうやら僕は運がいいらしい。
斜め後方から視線を感じて、これは来たと思ったのも束の間だった。
「——ほうほう、そこはそうやってやるのかな……?」
思わず、シャーペンが手から離してしまった。
野太い声に、机にくっきりと映る奴のシルエット。あまりのデカさゆえに光を遮られ問題を読むことすらままならない。
「……」
ッバ‼
肩に圧し掛かる重圧。
力がぐにゅりと入って、緊張が視界を奪った。いつの間にかふらりと体が回り、僕の肩が木っ端みじんにはじけ飛ぶ未来が見えてしまったがそんな幻想すらも見せてくれる時間はなかった。
「おい、カンニングにするぞ、しゃべんな」
「っはぃ」
「聞いてるのか⁇」
「っはい!」
心臓がはち切れるばかりにドクドクと鼓動する。席から離れてくれた試験監督の体育教師と入れ替わるように、周りのみんなの笑う声。
————☆
「おいおい、柚人、何怒られてるんだよ‼‼」
「っく」
「ほんと、誠也の言う通り、私がそんなこざかしい手で焦るとでも思ったの⁇」
「っぐ」
「ゆずと、そういうのはずるいです」
「っぐぅ」
なんだ、この魔女裁判の様な囲みよう。
先ほどの行為を何とか払拭したくて、単語帳を眺めているのに後ろの席に集まる一同。
「っだぁ、悪かった、ごめんって‼‼」
「見っともないぜまったく」
「どっちがだ? 僕よりも誠也の方がテストとの点数悪いのに、よくまぁそんなこと言えたなぁ!!」
「へぇ~~、私に負けてるくせにあんな手まで使ってるのに、よくまぁそんなことが言えましたね~~」
冷血な瞳が僕を射す。
想像だけで威圧が感じられて四島さんの方は全く見れなかった。
「す、すみません……」
「ほんとだぜ、そんなに勝ちたいんならまともにやれ」
「てめ、うるせっ‼ お前こそ、ちょっとは足掻いてみろくそっ」
「残念ながら俺は、勝てない勝負流行らないたちでね、そんな勝負は絶対しないんだよ」
「それはそれでどうかと思うんだけど……(まぁ、そんな誠也もかっこいい‼‼)」
「……ん?」
「い、いやっなんでもないよ??」
結局、その日のテストには身が入らなかった。
次の時間もなぜだか僕の周りにだけ先生が付き纏って、違和感と緊張でテストどころの話じゃなかった。あの体育教師、まじでゆるさん。僕の学年二十位入りがこれで叶わなくなったら、教育委員会に訴えてやるっ!
意気込みはいかに……、騒がしく身に入らないテスト一日目が終了した。
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