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【魔王陛下の夜伽係】流るる何者でもない流れ者たち

※R18作品 魔王陛下の夜伽係番外編

 

「見ろ、兄ぃ! 索冥!」



 ソレを初めてベルフェヴォールが意識したのは、極北のラーガル湖畔での夜のことだった。


 彼の押しかけの義妹である巨人クヌバ・カルナは片手にもったアザラシの丸焼きで夜空を差す。

 クヌバに促されるまま、焚き火をぼんやりと眺めていたベルフェヴォールは顔を上げ、アザラシの毛皮にくるまっていた索冥はモゾモゾと顔を出した。


「おお、もうそんな季節か」


 索冥が青白い顔で白い息をほう、と吐いた。

 巨人と瑞獣が見上げたのは、オーロラ輝く夜空に流れる数千の流星だった。


「なんとまぁ、このような辺境で暦を跨ぐとは、追放されてみるものだな」

「近いなぁ! この近さで見たのは(オレ)初めてだ! 地中の身体を出して思いっきり飛んだらひとつくらい掴めるんじゃないか?!」

「やめよクヌバ、キミの本体を包める毛皮ない、凍傷になってしまうぞ」


 ちぇっと悔しがる義妹と、寒い寒いと愚痴をこぼしながら毛皮に顔の半分を埋める白麒麟の傍で、ベルフェヴォールは目をまたたいた。


「アレはなんだ?」


 ベルフェヴォールの言葉に白麒麟と巨人は絶句する。


「おまっ、知らんわけなかろう?! 去年も共に過ごしたぞ?!」

「そうだぞ兄ぃ! 去年どころかその前もその前の前も……百年前も3人一緒にいたぞ?!」


 2人にまくし立てられ、ベルフェヴォールは少し考え。


「知らん」


 素直に答えた。

 クヌバと索冥は顔を見合わせ、呆れて笑う。


「参った、兄ぃは大物だ」

「いいや違うぞクヌバ、こやつは常にボケておるのだ、ボケボケだ。ボケ大王だ」

「で、アレはなんだ?」


 ベルフェヴォールは再度問いかける。


 索冥はアザラシの毛皮をきつく身体に巻きつけて空を見上げた。


「世に、暦というものがあろう。星の動きで時を数えるアレだ」

「………」

「アレだ!!」

「……あれか」

「そう、アレ。アレの数えがこの流星群が流れる一夜で数える」

「……」

「わかっとるか?」

「……分かった」


 年に一度、空を覆うように星が流れていく。

 世界のどこでもそれは見上げることができた。

 それを暦として、世界は成り立っている。


 星空は平等に降り注いだ、あらゆる者に。


 耳をふさげない孤独の天使に、傲慢の地獄の番犬に……悪魔を兄と慕う死に場所を失った巨人に、愛を知っていると思い上がっている麒麟に。


 世界を知らない、悪魔に――


 時の刻みを打ちつける。


「不思議だな」


 ベルフェヴォールは再び空を仰ぐ。


「初めて見た」


 きっと何度も、この夜を通り過ぎていたはずなのに。


「綺麗だよな」


 クヌバ・カルナは大きな身体を索冥とベルフェヴォールに寄せる。


「兄ぃの目みたいだ」


 クヌバの大きな身体へ索冥は自身の小柄な身体を預け、ずびっと鼻をすすった。


「……ああ、そうか。ベルフェヴォールよ、おぬしがこの空に気付かなんだわ、案外、おぬしのその目に映る星があるかもやぞ。毎夜チカチカしておろう」

「確かに! 兄ぃの目はいつもキラキラだ! すごいな兄ぃ、いつもこんな星を見ているのか! いいなぁ!」


 朗らかに、快活に笑うクヌバと彼女の笑い声に苦笑しながら身を預ける索冥は、星が流れる夜空に心を預けるように見上げた。


 その2人を、ベルフェヴォールはひっそりと見つめ、そして2人が見ているものを追う。


「……星とは、なんだ?」


 答える者のいない問いだった。

 答えも期待していない問いだ。

 案の定、問答にはならない。







 これは彼が魔王となる遥か前のこと。

 ベルフェヴォールがただの疫病の悪魔であった時の、一夜のひとつ。


 無為に、無作為に、気まぐれに。


 世界を流れて漂った、いまは戻らぬ日々。




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