23.5話 君に話そう
はははははっ
今年ももうすぐ終わりそうだなぁ
はぁ
晴れて冒険者になることが出来た僕らは、お腹が減ったので昼食を摂るためにそよ風亭に来た。
セリーナが先行して扉を開き、まるで道場破りかのようにカウンターの店主に注文する。
「おやっさーん、いつもの2つちょうだ~い」
「こ、こんにちわ~」
「おう! セリーナちゃんとカルタのにぃちゃんか。らっしゃい! いつもの2つだな」
ちょうどお客さんの注文を取り終えたソフィちゃんが僕らに気付いて来てくれた。
「こっちのカウンターにどうぞ。また来てくれたんだね、嬉しいよ! ゆっくりしていってね」
ほんとしっかりしてるなぁ〜
案内された席に座るとお冷を僕らに渡しソフィちゃんはまた他のお客さんの接客に行ってしまった。
「お昼時はやっぱり人が多いね」
「当たり前だよ。なんせこの国一番の美味しさだもの!」
「あはは、違いない」
「おやっさんは何を作っても美味しいからね。ああ見えてお菓子作りが好きなんだよ」
「え⁉ い、意外だね。想像できないなぁ」
あんなガッツリした姿でお菓子をルンルンで作ってたら……
アカン、想像したらお腹が痛い。
ドンッ
「お待ちどおさまぁ‼ 何が想像できないって?」
いつの間にかいたおやっさんが出来上がった料理を僕らの前に置く。
ビックリしたぁ~
もしかして怒ってらっしゃる?
「あ、いや、何でもないです。オイシソウダナァ」
「そ、そうだよ、おやっさん。ナンデモナイヨ」
おやっさんは僕らをギロリとひと睨みし、すぐに厨房へと戻っていった。
「思った以上に怖いね。あんなのモンスターでも逃げ帰っちゃうんじゃないかな」
「確かにね。というかおやっさんは元冒険者だよ?」
うん、知ってた。
まぁあるあるだよね。
「さぁ食べよっか。もうお腹ペコペコだよぅ」
「そうね。では一言だけ……これから冒険者として一緒に頑張ろう!」
「うん! よろしく!」
「「いただきます」」
お腹いっぱいになった僕らは、雑談がてら昔話をしていた。
セリーナは彼女の小さい頃の話を、僕は爺さんとの生活の話をしていた。
「ねぇカルタ、どうしておじ様と暮らしていたの?」
「ええっとねぇ……うん、まぁいっか。じゃあ教えてあげましょう」
「あっもしかしなくても聞いちゃダメな事だったんじゃ」
珍しく察しがいいな。
いや、わざとらしかったかな?
「まぁあんまり話したい話ではないけど、キミには話すよ」
「いいの? その……辛いなら話さなくてもいいんだからね?」
そういう気遣いは上手なんだよな。
「もう、僕らは仲間だろ? なら少々辛くても聴いて欲しいんだ」
こうして僕は、爺さんとの出会いに関する昔話を語り始める。
父について殆ど知らないが、父が働く業界ではそれなりに有名らしいく、滅多なことでは家に帰って来なかった。
そもそも父の顔を今でもはっきり覚えていない。ただ一度だけ小さな頃に見た家族写真が唯一父の顔を知る事ができた。
写真には赤ん坊の僕と母と表情のない父が写っていた。
母は今も病院で過ごしているのだろう。
僕が6才くらいまでは優しく暖かい人だった。
しかし、いつの日だったか母は心を病んでしまった。どうして病んでしまったのかは詳しく知らないし、知ろうとも思わなかったが、父が原因だそうだ。
病んだ母はだんだんと僕のことを息子だと認識しなくなっていった。
しかし僕は根気強く家事手伝ったり一緒にご飯を食べた。
友だちはいなかった。
学校で話すことはあっても放課後は母についていなければならないので、遊びに行くことは出来なかった。
この頃に爺さんの怪しい店を見つけた。
中に入る勇気はなかったので、最初は窓ガラスから見える変な商品を眺めていた。
ある時、窓から覗いていたら爺さんが現れて店に連れて行かれた時はとって食われるのかと思った。
爺さんは恐ろしかったがついつい変なインテリアに魅せられて店内の商品を見て回った。
そうしたらなぜか知らない世界の知らない文字教えてくれたりその見たことのない文字で書かれた分厚い本をくれたりして、ほんの30分程度だったが数時間も過ごしたかのような刺激を受けた。
たから毎日顔を出し、少しの時間遊んでもらっていた。
そうして僕が小学校を卒業する頃には母は精神病院に入院していた。
中学生時代は母方の祖母の家で生活していた。
爺さんの店に行くことが減り、友だちがようやく出来て遊びに行くようになったものの、必ず毎日母に会うために病院へ通った。
母は痩せこけて元の姿が見る影もなくなってしまった。
祖母は高校に入る前に亡くなってしまい、その頃から母に会う回数は減ってしまった。
高校時代は1年だけ学生寮で生活していた。
退屈な高校生活に飽きて、放課後に再び爺さんの店に毎日通っていたある日、爺さんにある提案を受けた。
「おい!」
「ちゃんとカルタって名前で呼んでよ。なに?」
「その、何だ。あぁ、ウチの店で働け。基本儲からんが小僧次第で売れるやもしれんからな」
「……なんで?」
「なぜってそりゃあ……いやいい、忘れろ」
「はは〜ん。わかったぞ! 僕に同情してどうせ店に通うなら住まわせてやろう、みたいな感じ?」
「分かっておるなら……チッこういう時に鋭いところが嫌いなんだ」
そんなこんなで僕はこの世界に来るまで爺さんの店で世話になっていたんだ。
「……ということさ」
「あの、その、ええっと、ごめんなさい」
「いいよいいよ。慰めとか欲しくはないし母の事は少し気になるけど、毎回毎回自己紹介するのもそれで辛いんだよ。だから親離れには良い機会かなって思うんだ」
「でも……」
「医者には治らないって言われたし、爺さんに頼んで父宛てに手紙を送ってもらってる。届くか分からないし、そもそも読むかも分からないけど、それが僕のケジメさ」
「そっか」
お通夜みたいな感じなるからあんまり話したくなかったけど、今のうちに言わないと言えなくなるような気がした。
それはもう構わないんだけどさぁ。
どうして……
「どうしてみんな聞いてるのさ!」
気がつけば僕らの席の周りには客が密集し、おやっさんやソフィちゃんも耳を傾けていた。
「こないだ闘技場で頑張ってた兄ちゃんってそんな辛い人生を送ってたんだな」
「ショウガッコウ? とかよく分からない言葉があったけど苦労したのねぇ」
知らない客のおじさん達が同情してくれている。
なんかむず痒いなぁ。
「カルタの兄ちゃん、今日の代金は割引きしておくぜ」
「カルタお兄さん、私はもうお友達だからね。いつでも来てね。相談とか聞くよ?」
おやっさんもソフィちゃんも、らしい反応を見せる。
この世界の過去の歴史も相俟ってこの国の暖かさを改めて感じた。
きっと僕の経験はこの国の人々が受けた痛みに比べれば小さなことだ。
しかし、そんな小さな痛みさえもすくい取って、共有し優しく癒してくれる。
見る人によってはきっと傷を舐め合っているように見えるのかも知れない。
だが痛みを知る者にとっては、その痛みさえ放っておけないのだろう。
いつの間にか自分がいかに不幸かを語り合いだすという本当に傷の舐め合いが始まった。
だがそんなことも「明日は良い日になるさ」と前を向き、笑い飛ばしてしまう。
不意に僕は窓を覗いた。
気付けば空が赤く染まっていたようだ。
一体何時間あたりあったのだろうか。
「さあ帰ろうか、セリーナ」
「そうね、明日の準備しなきゃ」
明日は彼女にとって重要な日だ。
僕は足手纏いになってしまうだろうが、なるべく負担をかけないようにしなければ。
おそらく1ヶ月ぶりのオムレットです。
投稿が遅い理由は第三回月一更新報告会を見てください。
おまけのショートストーリーとして過去の爺さんバージョンを載せてますんで見てくださると嬉しいです。
さてさてさーて次回!
攻略せよセリーナの試練。
カルタ君は無事生きて帰れるのか?