招待した人
ベンに聞いた通り、雪で辺り一面白く活気がない。寒さに耐え、何も商品など無いが自分の店の前を雪掻きしている者達は白い息を吐き、退屈な顔をしている。芽衣は市場の人達を見て自分と同じ、毎日が同じ事の繰り返しでつまらないそして、辛そうにみえる。その光景を静かに見ていれば、ベンと同じ年ぐらいの老人が話し掛けてきた。
「何だベン、若い嫁でも捕まえたか」
「嫁なら嬉しいが事情があってな・・・仕事を探している」
「仕事?そんなもん無理だろ」
皆、自分が食べて生きて行くだけで精一杯の暮らしぶり、芽衣を雇う余裕など無理な話。そして、ベンと話していた男が芽衣をジロジロ見始める。
「譲ちゃん、変わった髪の色に瞳だな」
まじまじと、芽衣の髪と瞳を覗いた。この世界では、黒い瞳が珍しいらしいその上、染めていた髪はプリン状態の黒と茶色の二色になっていたので、変わった色と勘違いされた。ベンが記憶喪失で、深くは聞くなと小声で話しているのを聞こえ、何となく恥ずかしかった。
(この間、髪の毛染めとけば良かった)
自分の髪の毛を少し弄りながら、此処には仕事が無いと諦める。すると、四十後半ぐらいの女性が倒れたのを見つけ駆け寄る。話し掛ければ、大丈夫と言うが大丈夫に見えないので、自分の肩に女性の腕を乗せ起こす。直ぐに、ベンと話していた男がやって来て女性の家まで運んでくれた。
「ありがとう、あなた記憶を失ってるんですってね」
「まぁ・・・」
「名前だけは憶えてるらしいぞ。メイだってよ」
ベンと話していた男はトムといい、芽衣の名前を教える。可愛らしい名前ねと、柔らかく笑う女性はメアリー、体が弱いのか少し辛そうな顔をする。ずっと、寒い冬の生活を送って春にしか咲かない薬草が取れず、その薬草で薬も作れない為、体がどんどん弱ってきているようだ。死に至るわけでは無いが、免疫力が低下して生活に支障が生じる。
「このメルフォン国はどうなっちまうんだか」
「もう隣の国に亡命した方が良いのかもしれん」
トムが国の心配をし、ベンが隣の国に逃げるのも一つの道と神妙に話す。それほど、このメルフォン国は厳しい状況下に置かれていると芽衣でも分かった。しかし、隣の国では季節がちゃんとあるのだろうか?同じようにその王族が、季節を治めているのだろうか?疑問を口にすればベンが答える。
「隣国だけじゃなく、他国には魔法が使える者達が沢山おる。だが、他国には当たり前の様に季節の変わり目が自然にやって来る。しかし、このメルフォン国だけが特別に王族の中の王族が、魔法で冬を明けさせ春を来させてきた」
魔法で春を来させなければ、いつまで待っても冬のまま。どうしてメルフォン国だけが、そんな事になっているのかは分からないでも、皆が苦しんでいて王様達は何故その王子をほっとくのか理解が出来なかった。少しの間、沈黙が流れると遠慮がちに、トントンと扉を叩く音がした。メアリーに、代りに見て来て欲しいとお願いされ、外に繋がる扉をゆっくり開けた。
「お探ししておりました。さあ、私達と一緒に城へ参りましょう」
「ちょ、何なんですか?貴方達は誰!?」
芽衣の言葉など無視して、黒いローブを羽織った者が芽衣の両腕を掴む。大きな声を出した事によって、ベン達が慌てて駆けつけて来たが、すでに遅し。芽衣は怪しげな男達に、連れ去られてしまった。
―――――――――
「一体、ここは何処ですか」
「貴女には、我らが王子のお相手役になって欲しいのです」
「意味がわかりません」
ベン達と別れ、誘拐同然で連れ去られた芽衣。やたら広い部屋に通され、先程の黒いローブの者達とは違い純白の格好した、上着の裾が長い服を着て、髪と瞳が濃いアメジスト色の若い男が一人。そして、すっとした黒い長いワンピースに服に合わして長めの、白いエプロンを着たメイドが二人現れる。あんなに純白で、上着の裾が長いと邪魔じゃないのかなと、直ぐ汚れるんじゃないかどうでも良い事を考える。先ずは、座りお茶でも飲みましょうと呑気な事を言うので、ふざけないで!と怒った方が良いのか考えた。
(普通は、何が何だか分からなくて騒いだりして怒るところなのかな?)
綺麗なメイド二人に、淹れてもらったお茶をじっと見つめる。芽衣は良い匂いだなと、思って見つめていたのだが、男が勘違いして毒は入っていないと苦笑された。
「順番にお話ししますと、此処は貴女のいた世界ではないです」
「本当に違う世界なんですか」
「はい。そして、貴女を探しこの世界に召喚したのは私です」
「あなたが?」
何で、自分が召喚などされなくてはいけないのか、特別な隠された力を期待しているのなら止めてほしいと思う。
「驚かれないのですか?」
「驚いて欲しいですか?」
驚きはあるものの少し変わった性格のせいで、一晩経って更に冷静になってしまった。
「いえ、驚いて騒がれても困るので逆に助かります」
「二つ良いですか?何で私が召喚され、言葉が通じているのです」
「特殊な魔法でお互いの言葉は通じます。そして、メイの他にも召喚した子達はいました。」
電話の声もあなたかと、尋ねればそうだと答える。話によると、このメルフォン国、季節担当している第三十一王子張本人の相手役になって欲しいと。その相手に、沢山召喚された者達がいたが皆、根を挙げてしまったらしい。そして、慎重に選び理想に近い相手が、芽衣だった。
何が理想なのか聞いてみたら、王子に会えば理解してくれると思うと、目を逸らされてしまった。そんなに、問題のある王子なのだろうか?ふと思う、何故召喚してまで相手役を探しているのか。
「王子は、色々と辛い思いをなされて少しでも、話し相手がいればと」
「あなたや城の人達、この国の誰かがいるじゃないですか」
「その、とても言い辛いのですが」
情けない顔をしながら、男は事情を説明する。この国は、知っての通り今は、冬しか季節がない。多くの者が、他国に亡命してしまった。そして、少しでも王子にやる気を出してもらう為、王子の話し役を考え付いたようだ。だが、どうせならこの世界の人間とは違う、異なる世界の人間がいいとの要望だった。
(なんて我儘な王子)
芽衣は、黙って男の話を聞きながら、王子は我儘な人と決め付けた。そんな理由で芽衣は召喚され、他の者達も召喚・・・その根を挙げた者達は、どうなったのか芽衣は気になった。もしかして、自分の世界に戻れないでいるのではないか心配になる。戻れていないのなら、芽衣も戻れない帰れない事になる。
「あの、召喚された人達はどうしたのでしょうか」
「丁重に元の世界に御帰り頂きました」
「じゃあ、帰れるんですね?」
「暫く、王子の相手役で此処に留まってもらいますが大丈夫です。報酬も弾みます」
その言葉に安堵し、報酬とは何なのか聞けばお金を出すと言う事。つまりは、王子の相手をしてくれれば、お給料出すよみたいな感じだ。しかし、この世界のお金など貰っても使い道がないので必要ないと言う。
「気にしないで下さい。あちらでの、お金に換えさせてもらいます」
それは犯罪ではないだろうか?まあ、給料が出る事は良い事なので細かい事は気にしない事にする。元の世界に戻る時も、同時刻に戻してくれるようで問題はなさそうだ。どうでも良い話だが、今まで召喚された人数を聞いてみた。男は黙って両方の手、十本の指を目の前に出す。十人も召喚したと、少し驚いた声を出せば首を横に振り、違うと言われる。
「指一本、十人と思って下さい」
「つまり、百人は召喚したんですね。桁違いで、何も言えないです」
「ははっ、正確ではないですが数年間でこの位、召喚はしたと思います」
百人も召喚され皆、根を挙げて帰って行った。自分に相手役が務まるものかと少しだけ、不安になりはしたが考えても仕方ない。先ずは、王子の相手役として直接会ってみないと思った。
「お話が先で、自己紹介をしていませんでした。私は、アーネスト・へインズ」
そしてメイドの二人も紹介される。芽衣から見て、左が姉のアンジェルで、右が妹のアルメルの長い銀髪がとても美しい双子だ。無駄のない動きで芽衣の前に立ち、裾を少し持ち上げ、それぞれお辞儀しながら挨拶する。
「姉のアンジェルです。メイ様どうか、アンとお呼び下さい」
「妹のアルメルです。私の事は、アルとお呼び下さい」
双子のアンとアルに優しい微笑みで見つめられ、女性なのに顔を紅潮して、ときめいてしまった事に軽くショックを受けてしまう芽衣だった。
ごめんなさい・・・王子様、次に出ます・・・。