腹黒王子
双子のアンとアルは、この世界にいる間、芽衣だけの身の回りの専属お世話係になった。綺麗な顔に、暫く囲まれ心臓が持つだろうか?男性にときめいた事もないのに、先程のトキメキに不安になってしまう。そんな気持ちを察したのか、くすくす笑う二人に又も紅潮してしまう。
(私、もしかして女性が好きなの!?)
そんな考えを抱き、アーネストにより用意された部屋に移動した。別れ際にベン達には、アーネストが詳しく話せないが、責任を持って芽衣は無事と伝えると約束してくれた。誘拐同然で城にやって来たので、きっと心配しているはずだ。ついでに、ベンに借りた奥さんの形見の服も、綺麗にして返して欲しいとお願いする。快く願いを聞き入れてくれて、ベン達を心配しなくて済むと安心した。
用意された服に着替え、もっと他に動きやすい物は無かったのかと思う。やたらヒラヒラの長い服に、歩き辛いなと心の中で文句言う。そして、アンとアルに案内され、ある部屋の前に立っていた。
「此処が、王子様のお部屋でございます」
くれぐれも、めげずに居て下さい。アンに意味深な言葉を聞かされ、アルが扉を叩く。
「王子様、新しいお相手役を連れてきました」
小さい声だったが、どうぞと部屋に入る許可をもらい扉を開ける。中に入れば、最初に居た部屋よりもアーネストに用意された部屋よりも、全く違うと分かり格別に広く圧倒した。間抜けな顔で、口の締りがなく開けた状態で部屋の隅々を見る。横でアンが、咳払いをして口を閉じて下さいと、叱られてしまい漸く口があいていた事に気付く。
きょろきょろ、周りを見渡せば立派なソファーに座っている人物を発見。あれが、王子様なんだろうが?背中を向け、座っている為顔が見えないアンとアルが、王子の傍まで寄る。
「アンジェル、アルメル、君達は下がっていいよ。ご苦労様」
「王子、今度はもう少し中続きして下さいね」
「アンは心配性だね。わかってる、努力はするよ」
「その言葉、口だけでは無く実行して下さいよ」
その言葉を最後に、二人は部屋から退室した。1人残された芽衣は、どうすれば良いか分からずそのまま立ち尽くす。二人が完全に去ったと思えば、突如チッと言う音が聞こえ王子が芽衣の前まで来る。
「初めまして、僕はブラスト・ラウル・メルフォン。君が新しい相手役だね名前は?」
「立花芽衣です」
「タチバナメイ?召喚されるなんて大変だったね。今迄の人達と、見た目も名前も変わってる」
召喚された人達と違う、変わってると言われ、芽衣にとって全て外人さんだったのかしら?と思った。アーネストも誰も召喚した人達は、日本人と言っていないのだから、勝手に芽衣が勘違いしただけだ。大変だったねと、他人事のように話す王子に誰のせいなのか分かってるのかしら?と、思いながら王子の顔を失礼の無いように見る。見た目は優しそうでニコニコ笑顔だが、逆にその顔が何かあるみたいで不気味だ。
「瞳が黒い、タチバナメイはどの世界の人間なのかな」
「他にも世界が?私は地球という世界で、日本という名前の島国です。それと、芽衣で構いません」
「そう、メイと呼ばせてもらうね。色んな異世界が存在するんだよ皆、知らないだけ」
今迄に、聞いた事がない世界で瞳が黒いのは初めてらしく。とりあえず座りなよと、ソファーに勧められ一応礼を言ってから座った。目の前に、お茶を飲む為のカップが二つ存在していて、マジックショーを見ているかの様にポットも無いのに、お茶が何もない空中から注がれる。不思議に思いながら、これが魔法なのかな?と注がれるカップを見つめた。
「ふふっ、そんなに魔法は珍しい?召喚された子達も皆、驚いてた」
「いえ、マジックショー見ているかと思っただけで、驚いてはいません」
「へぇー、普通は見知らぬ土地に連れて来られ動揺するけど。メイは髪の色も変わってるよね」
「これは・・・染めていたのが伸びて、黒い所が地毛です」
染めてるの?と、今度は逆に不思議そうに問われ、芽衣はこくんと頷く。すると、ブラストは芽衣の隣に移動して、頭の黒い地毛の部分を触る。撫でる様に触り方がくすぐったくて、ぎゅっと目を瞑り、じっと待った。満足したのか、手は漸く離れ直してあげようか?と、笑顔でサクッと言われ初め意味が分からなかった。
「直すってどうやるんですか・・・」
「僕は魔法が使えるんだよ。簡単だよ・・・頭が見苦しいからね」
「はあ・・・では、お願いします」
ニコニコ笑顔で最後の発言は、聞かなかった事にする。何となく、アーネストがあの時目を逸らした意味が分かり掛けてきた。ブラストが頭に手を当て、集中しているのか目を瞑っている上、風でも吹いているかの様に、ゆらゆら髪先が軽く浮いている。長めのボブの髪が、チラッと先だけ見えキラキラ光っていた。そして次第に、髪先までアジア人特有の黒い髪になる。
鏡を手渡され、覗いてみると確かに髪の毛が黒くなってる。どうせなら、茶色にしてくれたら元の世界に帰った時、染めずに済んでお金が浮いたのにと思った。鏡を覗き込み、髪の毛を触っていると気のせいか、傷んでいた髪が直ってる?と触り心地から気付く。
「ありがとうございます。あの、傷んでいた所がつるつるしている気が」
「言ったでしょ、直してあげるって」
まさか黒髪に戻された上、痛んでいた枝毛の所まで綺麗にしてくれるとも思わず、これには流石に驚いた。魔法って便利だな、魔法の国に生まれたかったかもと呑気に考える。
「じゃあ、報酬頂こうかな。目を瞑って」
「何でですか?」
「直してあげたんだから、報酬貰うのは当然だよ。等価交換」
こっちから頼んだ覚えはないが、最終的にお願いをしたわけで仕方ないと目を瞑った。瞑った瞬間、良い子だとくすっとした笑いが聞こえるが、声は冷たくブラストの手が芽衣の頬に触れる。そのまま、顔が近付いた気配がして、唇に少し冷たい感触があった。
(あぁ、何か日本だと何だっけ?援じょ・・・そんな年齢でもないか)
「終わりましたか?」
「うん、なんか反応がつまらないね」
「等価交換なら仕方ないです」
「それ以上の事求めても許しちゃうの?君も他の子達と一緒で、勘違いしてるよね」
そんな事誰も言っていない、今回だけだったが聞こえではそうなるのだろう。他の人達と一緒にされたのは癪だが、ブラストの怒りに触れ、怒った人間に何言っても通じない。それに、自分で報酬だの等価交換だの言っておいて、勝手だなと溜息が思わず出た。
「お前ムカつく。この俺がキスしてやったのに、その態度」
「仰ってる意味が良く分かりません。私にもわかる様に言って頂けると、助かります」
「なにそれ、とことん反抗的でお前嫌い」
「ありがとうございます。で、言っている事とやっている事が違って理解に苦しみます」
ブラストの言葉使いが変わり、芽衣の淡々と話す仕事モードが気に入らないようだ。多分、初めは優しそうな笑顔で近付き、ちょっとした事で誘惑して乗ってきたら切り離すのだろう。生憎、芽衣は少し変わっていて冷めた性格もある為、ブラストのキスなど微塵も感じない。むしろ等価交換と言われ、髪を黒く戻されてしまったが、美容室では染めるのに大体五千から八千円程度。カット代含めたらもっとするが、自分のキスの価値はそんなに高いのか思った程度だ。
「ふーん、淫乱だから頭悪いのか。もういい、さっさと元の世界に帰れ」
睨むような冷たい目。人の事を勝手に下劣な言葉で決め付けて、ブラストに対し怒りを覚えた。久々に、感情が高ぶってブラストに向け、芽衣は睨み返す。
「私は貴方が、等価交換と言ったから仕方ないと言っただけ」
それ以上許すとも何も言っていないし、ブラストが報酬を寄こせと言った。なのに、自分は他の子と一緒だとか言って下劣な呼び方。勝手に幻滅されても、こっちが迷惑だと、怒りに任せブラストに抗議する。
(キスしてやった?勝手に許可なく触れて、人の初めて奪って良く文句言える。心が狭い人間)
「ブラスト王子、どうかなさいましたか?」
コンコンと外から扉が叩かれ、アンとアルではない女性の声が聞こえる。扉を開けようとする女性に、ブラストは近付く。
「何もないよ。君は持ち場に戻ってね、相手役の子と楽しくお話ししているだけだから」
直ぐに扉は閉まり、ニコニコ笑顔のまま芽衣の所に戻って来た。その笑顔が気持ち悪いと思う芽衣に、ブラストは芽衣の座ってるソファーを殴る。
「いい度胸だな。仕方ないから暫くは、この遊びに付き合ってやるよ」
全身怒りを晒し出しているのに、顔だけは笑顔だった。
やっと王子様です。でも、描きたかった王子様じゃない事に撃沈




