現場のいろは
「……本題に入りましょう。まず、盗まれたという『恋文』は、どこに保管されていたの?」
私が事務的に問いかけた、その瞬間。
ソラスの動きが、糸の切れた人形のように止まった。
「……盗まれた……? ああ……そうだ……。盗まれたんだった……。ああああああ! そうだ、大変なんだよ! 私の、私のすべてが記されたあの紙片が! 誰かの目に触れたら! 私は、私はもうこの世にいられない! どうすればいい、どうすればいいんだアルバイン!」
ソラスは頭を抱え、部屋の中をぐるぐると回りながら喚き始めた。
「どどどど、どうすればいい! 犯人は今頃、私の韻律を笑っているに違いない! 嘲笑っているんだ!」
「お、おいソラス! 落ち着け! 大丈夫だ、捜査官殿がなんとかしてくれるから!」
アルバインも一緒になってあたふたとし、ソラスの肩を掴もうとして空振りしている。狭いリビングは、一瞬にしてカオスな狂乱の場と化した。
私は一つ、深く、重いため息をついた。
私は隣でニヤニヤしているゼノの胸元を肘で押し退け、ソラスの正面からわずかに外れた「斜め45度」の位置へ移動する。
「ちょっ、リナリア、手荒だなぁ。僕の繊細な胸筋が悲鳴を上げているよ」
ゼノのぼやきを完全に無視し、私はソラスの視界に思考に「侵入」する。
あえて声を一段落とし、一定の周波数を保ちながら、確信に満ちた口調で紡ぎ出した。
「ソラス。まずは私の目を見て。」
ソラスが慌てながらも立ち止まり、私と目を合わせる。
「そう、そうよ、私だけを見て。今、ここに何が見える? 私のこの捜査官のバッチの色を言ってみて。」
「……白を貴重とした金の装飾に……」
「そう。正解よ。次に、あなたの靴の中に足の指がある感覚を意識して。地面をしっかり踏んでいるわね?」
「あぁ……確かに、確かに!」
「ソラス、息が苦しいのは分かる。それは『恐怖』という正常な反応が、あなたの体を守ろうとしている証拠なのよ。だから無理に鎮めようとしなくていい。ただ、私と一緒に呼吸の速度を落としましょう。吐く時間を、吸う時間の2倍にするイメージで……。そう、上手よ。それで、少しは落ち着いた?」
「ああ、ありがとう。捜査官」
「さて、ここで立って話を続ける? それとも、向こうの椅子に座って続ける? ソラス、あなたが選んでいいのよ。どちらがいい?」
「こ、このままで大丈夫ですよ」
「さて、まず大切な恋文がどこにしまってあったか、私たちに教えて。もちろん準備ができたらで構わないわ。ゆっくり、あなたの言葉で教えて」
横で見ていたアルバインは、目と口を限界まで大きく開け、石像のように固まっていた。
「……感心している暇があるなら、口を閉じなさい。アルバイン」
私はアルバインを冷たく一瞥すると、落ち着きを取り戻したソラスに向き直った。
「一階の寝室です」
「じゃあ、寝室へ案内して。」
「……はい。こちらです。あそこの角の扉の先、一階の、奥の寝室になります」
ソラスに導かれ、私たちは家の深部へと歩みを進める。
私の脳内では、すでに「恋文を盗むという行為」に及んだ犯人の動機、侵入経路、そしてこの村に渦巻く「退屈が生んだ悪意」のシミュレーションが、冷徹な速度で開始されていた。




