第七章(4)
挨拶を終えた私たちは、給仕から飲み物を受け取るとほっと一息ついた。遅れてきてしまったせいで、変に注目を浴びている。私はその視線から逃げるようにアーヴィンの影に隠れ、さっと周囲を確認する。
シオドアの隣には優雅にドレスをまとうリンダの姿があった。
「いいか? 今日は俺と君の仲を、周囲に見せつける日だ。できるだけ俺の側にいるように」
「ダンスに誘われたら?」
「セリウス以外の男からの誘いは、全部断れ」
このパーティーに参加した目的を考えれば、私はいつでもアーヴィンの側にいなければならない。だから、他の男と踊って、アーヴィンと離れ離れになるのは避けたかったし、特にシオドアとは接触したくない。
「あなたの頼みであるなら、喜んで」
軽口を叩く余裕はまだある。
「イレーヌじゃないか……」
驚きの声をあげたのはポーレット公爵だ。
「先日は、ありがとうございました」
私が丁寧に頭を下げても、ポーレット公爵の意識はアーヴィンに向いたままだった。
「シオドアと一緒ではないのだな……」
「はい、彼には愛人のリンダさんがおりますから」
ニコッと笑みを浮かべて答えてみても、ポーレット公爵の視線はアーヴィンをとらえて離さない。
「王弟殿下……」
ぼそりと公爵が呟いたのを私は聞き逃さなかった。
「アーヴィンは、学園時代の友人ですので」
私の言葉に理解はしつつも、納得はしていないのだろう。ポーレット公爵は「そうだったな」と微苦笑を浮かべるだけ。
「イレーヌ、紹介したい人がいるんだ。行こうか」
アーヴィンは公爵に見せつけるためか、わざとらしく私の腰を抱いた。
ピリピリと張り詰めた空気から逃げるようにして、その場を後にする。
アーヴィンが紹介したい人というのは、隣国トリアス国のエルド王子だった。ロンペル子爵夫人であったら、言葉を交わす機会もないだろう相手だが、どうやらアーヴィンがトリアス国に滞在していたときに仲良くなったらしい。
「へぇ? 君がアーヴィンの――んぐっ」
「余計なことは言うな」
エルドの言葉の先を奪うように、アーヴィンが彼の口を塞ぐと、今度はエルドがばんばんとアーヴィンの腕を叩く。
「仲がよろしいのですね」
アーヴィンのこのような姿を目にするのは初めて。
「仲がいいっていうか、なんだろ? 悪友? アーヴィンがこっちにいたときには、一緒に悪いことをよくしていたからね」
アーヴィンの悪いことって何を指すのだろうか。
「こいつにイレーヌを紹介するのは気が引けるんだが……俺たちの最大の味方になってくれるのは間違いないからね」
「いいよね、人妻。燃えるね」
エルドがわけのわからぬことを言い始め、またアーヴィンが彼を小突いた。
「えぇと……イレーヌ夫人、一曲お相手願えるかな?」
軽い口調のエルドが手を差し出すと、アーヴィンがそれをパシッとたたき落とした。
「残念ながらイレーヌにはおまえと踊る時間はない」
アーヴィンが用は済んだと言わんばかりにエルドに向かって手を振れば、彼に見せつけるように私の腰に手をまわし「踊るぞ」と耳元でささやいた。
「わかった、わかった、アーヴィン。オレが悪かったって」
両手を合わせるエルドを無視して、アーヴィンはダンスの輪に向かう。
「よろしいのですか?」
「いつものことだから、放っておいて問題ない」
そう言ったアーヴィンだが、耳の裏が赤く染まっていた。
ストックがなくなりましたので、しばらく更新はお休みとなります。
手元の作業が落ち着いたらやってきます。




