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第五章(1)

 唐突な質問に、クッキーを放り込んだ私の指先は震えていたかもしれない。ゆっくりクッキーを咀嚼し、私自身の考えも共にかみ砕く。


「ポーレット公爵家側から申し込まれたのよ」

「だが、君の家は中立派だろう?」


 強硬派か穏健派か。そして隠れて活動する過激派か。父、ロイル侯爵はそれのどこにも属していないのは事実だが、私とシオドアの結婚をそこと結びつけたというのであれば、アーヴィンもこの結婚の意味をわかっているのだ。


「そうよ。だから、父が財務大臣になるためにはそれを後押ししてくれるような人が必要だったの。ポーレット公爵であれば、間違いないでしょう? 前財務大臣なわけだし」

「ロイル侯爵は、そこまでして財務大臣になりたかったのか?」


 アーヴィンの質問は意地悪だ。父は、財務大臣という地位に固執していたわけではない。ただ、この国をよい方向へと導くためには、自分が財務大臣になるべきだと考えたにすぎない。


 私が言葉に詰まったのを見て、アーヴィンも「すまない、言い過ぎた」と顔を伏せてカップを手に取った。


「どうやら俺は、君の結婚については冷静に話ができないらしい」


 互いに言葉を呑み込み、お茶を飲んだりお菓子を摘まんだりと、との場をやり過ごす。

 さわっと心地よい風が吹きつけ、テーブルの上の花を揺らしたところで、私は意を決する。


「あなたの言うとおりかもしれないわ。父は、そこまでして財務大臣になる必要があったのよ」


 アーヴィンは意外だとでも言いたげに、目を瞬いた。


「シオドアとの婚約が決まったのは二年前。父が一年前に財務大臣に任命されたとき、ポーレット公爵……義父から言われたのよ」

「何をだ?」


 アーヴィンはさりげなく身を乗り出してきた。


「財務大臣候補はもう一人いるけれど、その人は過激派の人らしいから、彼を財務大臣にしたくなかったんだって。あのときはお酒も入っていたから、義父もつい、口が滑ったんだと思うけれど……」


 そうだ、父が財務大臣に決まったとき、ポーレット公爵邸でささやかな食事会を開いた。私とシオドアは婚約中の身だし、そんな食事会が開かれたっておかしくはなかった。ただ、公爵はよっぽど嬉しかったようで、お酒の力もあってか、顔を赤らめながら力説していた。父は曖昧に笑って、その場を取り繕うとしていたけれど。


「まぁ、俺もポーレット公爵と同じ考えだ。もう一人の候補者は過激派の人間で間違いない。だから、ロイル侯爵が立候補してくれて助かった面もある。あれが財務大臣になれば、国家予算をいいように使われてしまうからな」


 アーヴィンが言うには、対抗馬とされていた当時財務大臣だったポーレット公爵の筆頭補佐官を務めていたトルスト。彼は、財務大臣の筆頭補佐官でありながら、横流しや贔屓などを行っているという噂があったらしい。ポーレット公爵はそれに気づいていたようだが、トルストを糾弾できるほどの証拠を掴めずにいるため、彼はまだ財務大臣の筆頭補佐官という地位についている。つまり、父の部下である。


「やっぱり、私とシオドアの結婚ってそういうことなのよね? わかってはいたけれど……あなたから言われたのがちょっとショックだったみたい」


 婚約が決まったときも、結婚式を挙げたときも、シオドアからリンダを紹介されたときも、この結婚の意味は理解していたつもりだった。だけど今、それをアーヴィンの口から聞いたとき、胸には棘が刺さったような痛みが走った。


「すまない。君を傷つけるつもりはないんだ」

「うん、わかってる。これが仕方のないことだって……」


 聞き分けのいい振りをして、勝手に納得していたのは私自身だ。だけどそれは、シオドアとの仲を前向きに考えていたあのとき。


「アーヴィン、あなたは私の愛人でしょう?」


 この話は他の人の耳には届いてはいけない。だから小さな声でそっと伝えるものの、少しだけ声が震えてしまった。



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