それぞれの謝罪
「…入ってもいいだろうか。」
「ど、どうぞ!」
強ばったようなリックの声に了承の返事を返す。
いつにも増して背筋をぴんと伸ばし、真剣な顔をしているリックはなぜか部屋に入ってきたのに扉の前から動かない。
「どうしたの?」
疑問に思って尋ねると、
「……俺の事こわくないか?」
と捨てられた子犬のような顔をするものだから私は心臓を掴まれたような感覚になる。
ちょっと可愛すぎじゃない!?!?
私の中でのリックのイメージは最近崩れつつあるが、凛々しいというか男らしいというかいつも自信たっぷりなのに、今目の前にいる彼はそんな様子は全くなく、なんていうかきゅるんって感じ。
…これが俗に言うギャップ萌えなのかしら。なんて場違いにも考えてしまう。
「怖いなんて思うわけないわ。それよりもきちんと話がしたいの。」
空気も読まずに勝手にゆるむ頬を引き締め、リリーが用意してくれたお茶のセットが用意されている椅子に座るよう促す。
「すまなかった。」
「ごめんなさい。」
私たちが口を開いたのは同時だった。
思わず顔を見合せてしまうとリックは瞳を大きく開いて驚いたような顔をしていた。きっとわたしも似たような顔をしていると思う。
「いや君は何も悪くない。俺が悪い。」
「いや!私の方こそ前もってきちんと話をして貴方の嫌がることは断るべきだったわ。」
「いや、違う。ベルは友人を助けるためだけに動いていたのに俺が勝手に嫉妬して怖がらせてしまった。」
お互い譲らずに、ひたすら謝ってしまう
「……え?」
ひとつの言葉に引っかかり私は反応する
「なんだ?」
「え、怒っていたのって嫉妬していたの?」
私はてっきりこの婚約を続けるのにあたってセヴァリー公爵家に失礼だとか、全身緑にするのはやり過ぎだとか、誰かに見られたらどうするんだとか、そういう事に怒っているのかと思っていたが、どうやら違ったらしい。
でも、それって……。
「ああ。……ガネルの色を纏う君を見て狭量な俺は冷静じゃいられなかった。そのせいで怖がらせてしまった…。」
「嫉妬って……わたしに?」
「ん?他に誰が…。いやちょっとまて、ベルは俺がどうして君を、その、恋に落とすなんて言ったと思ってるんだ?」
「え、婚約を続けたいから?」
「まあそうだが……。じゃあ、それはなんでだと思う?」
「昔から親が決めたものだから?セヴァリー公爵夫人は特に私との婚約を望んでいるみたいだし…。」
私の言葉に彼は深く息を吐いた。
「…俺が君を好きだからとは少しも考えてくれないのか」
だって、そんなこといわれてもリックが私を好きになる理由がない。
小さな頃は別として、学園での私たちは顔を合わせれば喧嘩ばかり。婚約破棄の話を私がしてからは、今度は私が彼を傷つけてばかり。これで彼の方に恋が芽生えるとは到底思えなかった。
私の方は自分のために変わろうとしてくれているのであろう彼の姿に、以前とは別の思いが生まれているかもしれないけれど、彼の方は違う。
「だって好きになってもらえるはずがないもの。」
「そんなはずないだろ!」
心の中でつぶやいていたつもりが、声に出していたらしい。
リックに全力で否定されその圧に驚く。
「あ、えっと、すまない…大きな声を…。」
「いや、あの、大丈夫よ。」
またもや二人してわたわたしてしまう。
リックは背筋を伸ばして深く息を吸うと意を決したように口を開いた。
「俺はベルが好きだよ。」
驚いて思わず見た彼の顔は真っ赤で耳まで染まっていた。
私はパニックでなんて言ったらいいのかわからなかった。
今まで婚約者といえど好きだなんて言われてたことがなかった。
そもそも褒められたことすらないと思う。
だからこういう時なんて言ったらいいのかわからないのだ。
それに、きっと私が昨日自覚した気持ちとは違う。
だから、婚約破棄を言い出した側である私が突然愛しているだなんて言ったら想いの大きさの違いに戸惑わせてしまいそう。
「えっと、ありがとう?」
ひとまずリックに嫌われてはいないことがわかって安心する。
今はきっと恋愛での好きではないと思うけれど、それでも婚約を親のためだけでなく続けたいと思ってもらえるくらいには好いてもらえているらしい。そう思うとなんだかくすぐったい気持ちになった。
「デビュタントまでには俺もベルに好いてもらえるよう努力する。だから今は俺が君を好きだと覚えておいてほしい。」
リックはそう言うと切なそうに笑った。
違う、と言いたかったけれど、婚約破棄を言い出してからひと月くらいしか経っていない今、もう好きになっているなんて信じてもらえない気がして口をつぐむ。
私がどういえば彼にうまく伝わるのか考えている間にリックは支度をして立ち上がる。
「じゃあ今日はもう行くよ。今度のデートのリベンジ楽しみにしている。」
あっと思った時にはもう彼は足早に出て行ってしまった。
◇◇◇
「それでうまく話し合えなかったと、」
「そうなの……。」
リックが帰ったあと久しぶりに遊びに来てくれたセシルにこれまでのことを話した。
「ねえベル、ベルはリックのこと恋愛として…異性として好きってことだよね?」
ストレートなセシルの言葉に少しひるむ。
「え、ええ。」
「それでリックも好きって言ってくれたんだよね?」
「そうだけど、リックの好きと私の好きは違うからなんて返したらいいのかわからなくて。」
「ん?どうして違うって思うの?」
「だって恋愛としての好きなら愛しているって言うでしょう?」
恋愛小説の中の登場人物たちはみんなそうだったもの、例の騎士様も、あの俺様王子すら告白の時は「愛している」と告白をしていた。だから好きと言う言葉をあえて選んだと言うことはきっと友情での好きなのだろう。
「リック…今こそ読み込んだ知識を活かすべきだったのに…。」
小声でセシルが何かを言っていたが私には聞き取れなかった。
「それに、婚約破棄を言い出したのは私だし、あれからまだあまり時間も経っていないのに好きだなんて…。」
自分の一時的な感情で周りを振り回して、挙げ句の果てに好きだとか愛しているとか自分でも馬鹿みたいだとわかっている。だからそんなことリックに言えるはずがなかった。
「リックはそんなこと気にしないと思うけど…。」
「そんなのわからないわ。もし嫌われて今度はリックから婚約破棄を言われたらと思うと…。」
今までリックに一度も褒められたことがないと言うことが、自分で思っているよりも自信のなさに影響しているらしかった。
「今のベルの顔とっても可愛いよ。すごく女の子らしい表情をしてる。ねえ、また2人でデートするんでしょ?言葉で上手く言えないならその時に手紙と刺繍したハンカチとか渡したらどうかな?」
セシルに相談をするといつも的確に示してくれる。それがどんなに有難いことか。
「そうしようかな…。セシルありがとう。」
「ううん。大好きなベルとリックの事だからね。」
私は周りの人に恵まれているなと改めて感じた。
読んで下さりありがとうございます!
宜しければ広告の下の評価ボタンをポチッとして頂けると励みになりますm(*_ _)m




