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黄昏の銃姫  作者: クロイモリ
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エピローグ

 ルリアによるオスティア襲撃から、一月が経った。


 あれから、マドラサ帝国もルーナ神国も動きを見せていない。結局、あれはルリアの独断専行だったようだ。行方不明になった皇女を探すものはいないらしい。


 街は帝国騎士の攻撃によって破壊されたが、しかし使われたのが黒炎であったことが幸いした。生物への殺傷能力に特化した、物を燃やさない炎。失われた命は戻らないが、戻って来た人間を受け入れる箱は多くあった。


 帝国の襲来は、オスティアの人々にとっていわばボーナスのようなものになった。最後に出て来た怪物によって破壊された建物の修繕、失われた家財道具、商売道具の買い替え、新たな雇用。


 また、ルリアたちが乗って来た飛行船もオスティアの人々によってあるものはばらばらに解体されて売りに出され、またあるものは研究用に一台丸ごと買い取られた。騎士たちが持ち込んだ武器は売りに出され、自警団の手に渡った。一部は闇に消えたが。


 オスティアの人々は逞しい――良くも悪くも。どれだけ理不尽に晒されても、立ち上がる力を秘めている。それはこの先、世界を変えていくかもしれない力だ。






 そんなオスティアの復興を、ロクジンとメリアドールは近くで見守っていた。


「一つの戦が終わったとはいえ、まだ問題は山積みですね……」

「そうだね。っていうか、まったくの災害みたいなものだったしねぇ」


 ロクジンはまだ、腕を吊って固定している。医者が言うには、動かさない方が治りは早くなるのだという。窮屈で仕方がないが、銃弾によって折り砕かれた骨が元に戻るのならば仕方ない、と渋々ながら受け入れている。


「みんな、一丸となって復興に取り組んでいますね。私、こういうの見るの好きです」

「良くも悪くも、過去を気にしないのがオスティアのいいところさ」


 いま、メリアドールとロクジンは復興現場の見回りを行っている。どこに物があり、どこにないか。どこの損傷が激しく、どこが軽いか。資材と人員の適切な配分、それなしにオスティアの早急な復興は不可能だ。メリアドールにしか出来ない仕事だ。


 加えて、こんな状況でも他人を傷つけ、盗む不逞の輩は存在する。特に、これまで地下に潜っていた連中が混乱に乗じて上がってきたりもする。それを監視し、取り締まるのも彼らの仕事だ。


「責任重大ですね、ロクジン副団長」

「よしてくれよ、未だにそう言われると背中が痒くなる」


 いたずらっぽい笑みを浮かべて茶化すメリアドールと、恥ずかしそうに目を細めるロクジン。ダリオが死に、穴が空いた自警団戦力の拡充も急務だった。


 暫定的に、商工会のミルザーネが自警団団長を受け持つことになった。とはいえ、彼女は荒事が専門ではなく、荒くれものどもに睨みを利かせることは出来ても指揮は出来ない。


 元軍人という、ダリオの個性は貴重だった。誰が自警団を治めるか、誰がオスティア地上警備を担うか。白羽の矢が立てられたのは、ロクジンだった。


「俺には過ぎた任務だと思うんだけどね」

「人は自分のことをよく知りませんね。ロクジンさんならできるって、私は信じてます」


 ロクジンにはこれまでの経験があり、修羅場を何度も潜り抜けて来た信頼がある。何より先の戦いにおいて、帝国打倒に大きく貢献したのは彼だ。


 視界の端をレアが横切る。すっかり傷が癒えた彼女は、風の精霊の力を使って空からの資材運搬と情報伝達を行っている。断片的に持つマドラサの知識、そして両国の言葉が閊える博識さも、その助けとなっているようだ。


 生き残ったアウル、ツール、スールの三兄弟も、いまは大人しく仕事をしている。こってりとロクジンに絞られたこと、そして帝国との戦いが、彼らの何かを変えたようだった。


 もっとも、この場に残ったものだけではない。ヒサメは地下に潜っていつも通り悪人退治を始めたし、ダンケルは戦いが終わったらどこかに消えてしまった。変わるものも、変わらないものも等しくオスティアにはある。


「……これからオスティアは段々と変わっていくんだろうね」

「ええ。変わっていく人々と同じように。その変化に対応出来る街を作らないと」


 ふと、何かを思い出して、メリアドールは寂し気な顔をした。


「まだ、お姉さんを手にかけたことを思い出すか?」

「きっと一生この手に、姉の命を奪った感触は残るでしょうね。あの人の気持ちを、もう少しだけでも理解出来ていたなら……」


 最期にルリアが吐いた怨嗟の声。

 それがいつまでも、メリアドールの耳にこびりついていた。


「……きっと、姉さま以外にも戦いを望む人はいるのでしょうね」

「この小さなオスティアの中でも、ルーナとマドラサは戦いを捨てられていない。きっとまだいるよ、どちらかを滅ぼさないと気が済まない連中が……」


 いつの日か、この停戦は終わり戦争が再開される。

 そんな予感が二人にはあった。


 その日までに、オスティアをもっと強くしなければならない。二大国の狭間にある、小さな突起のようなこの街。ここには多くの人が暮らしていて、日々を懸命に生きている。


 どうか誰も、理不尽に幸せを奪われることがないように――それが、二人の願いだった。


「これからも、一緒にやってくれますか? ロクジンさん」

「当たり前だろ、リア。最初に会った時から決めていたよ」


 メリアドールの問い掛けに、ロクジンはさらりと返した。返してから、違和感を覚えた。そう、仲間や相棒にかける言葉ではないような、そんな違和感。


「ずっと一緒ですよ、ロクジンさん」


 メリアドールは光り輝くような笑みを浮かべて、その頬を少し赤くした。



 ――俺もずっと一緒にいたい。キミと二人で――



 自分の感じていることが、自惚れでなければいいのに。

 そう、ロクジンは思った。

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