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黄昏の銃姫  作者: クロイモリ
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7-4 螺旋掌・真

「ガッ、ギッ、ゴッ……! ガアアアアア!」


 風の圧力がルリアの体を圧し潰し、地面にめり込ませる。一瞬にして大地を陥没させるほどの破壊力を受けてなお、ルリアは原形を保っていた。


「メッ、リッ、アッ……ドォォォル……!」


 押し潰されながらもルリアは腕を動かし、メリアドールへと伸ばした。戦慄すべき執念、しかし伸ばした腕もまた、風の力に絡め取られて落とされた。


「リア様は、裏切った私のことを受け容れてくれた……!

 だから私は、全力をもってリア様にお仕えする!」


 風の力で空中を舞うレアは、全身の魔力を振り絞ってルリアに向けた。手足、耳、鼻、目。細かい血管から赤黒い血液が噴出した。


「ブッ、潰れろォォォォォ!」


 本当の渾身。


 ブチリ、と何かが切れたような音をメリアドールたちは聞いた。空中のレアは派手に血を噴き散らした。代わりに、ルリアを圧し潰しながら。


「ガアアアアアアアア!」


 メキメキと音を立てて黒鎧が捻じ曲がり、潰れ、ひしゃげる。もちろん、中にいるルリアごと。鎧の関節部からどす黒い血が溢れ出した。それに続けて、骨の折れる音が何度も聞こえ、ついに潰されたルリアは動かなくなった。


「レアーッ!」


 メリアドールは矢も楯もたまらず駆け出し、落ちてくるレアをキャッチした。その姿は、酸鼻を極めたものだった。全身の穴という穴から出血し、ガクガクと震えている。このままでは命にかかわることは明白だった。


「早く街まで戻らないと……! レア、少しだけ辛抱していて!」

「リア、待て! そいつはまだ死んでいない――!」


 えっ、とメリアドールは間抜けな声を上げて振り返った。潰されたはずのルリアが不自然な角度に折れ曲がった腕を地面につき、立ち上がろうとしていた。しかし上手くいかない。ガチャガチャと音を立ててまた地面に倒れた。


 そして今度は、手足を突っ張り四つ足で立ち、反動をつけて跳び上がった。跳びながらぐるりと空中で回転し体勢を立て直し、メリアドールに折れた手を向ける。黒炎が放たれた。


「くっ……!」


 メリアドールは膝立ちになり、レアを抱えたまま右手で銃を構えた。そして一気に六連射、ルリアが放った火球を迎撃した。


 正確に放たれた六発の弾丸が火球を相殺する。しかし、ルリアはすぐに次弾を放った。メリアドールは撃ち切った銃を捨て次の銃を抜き、同じように連射。ルリアが着地するまでの十秒間で、それは四度続いた。


「しまった、もう銃が……!」


 再装填出来ない状況。

 手持ちの銃を使い尽くしたメリアドールの顔色が変わった。


「これで、終わりだぁっ!」


 ルリアはとどめの火球を放とうとした。


「させるかぁ!」


 その腕をロクジンが鉤の棒で引っ張り、火球の軌道を逸らした。放たれた火球はメリアドールたちのすぐ脇を通り抜け、消えた。


「邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だぁ!」


 狂乱したルリアは、背後にいる邪魔者を打ち潰すために裏拳を放った。


「ロクジンさんーッ!」


 悲痛なメリアドールの叫びが平原に木霊した。

 恐ろしいルリアの叫びが轟いた。




 そのどちらも、ロクジンの耳には届いていなかった。




 極限の集中ももはや限界だった。肉体、精神の疲労は強く、もはや立っていることすら覚束ない。いまこの瞬間にも倒れてしまいそうだった。


 しかしだからこそ、いまだからこそロクジンに見える『道』があった。


 振り払われた裏拳を、ロクジンは屈んでかわした。黒い炎が揺らめく、その様すらもロクジンには見ることが出来た。世界すべてがゆっくり動いているような感覚。


 基本に忠実に。


 ロクジンの脳裏には、父の記憶があった。


 父とした鍛錬。

 父と交わした言葉。

 時に分かち合い、時に反目した記憶。


 そのすべてが再生される。


(そいつがあれば、何も怖くはねえと思わないか?)


 そう言った父の、誇らしげな顔を思い出した。


(思わないよ、父さん。でも、もしあるのならば)


 それが必要なのは、いまだ。

 ロクジンは拳を強く握り込んだ。


 屈んだままの体勢で、右足を軸にして踏み込む。母指球に込めた力を膝、腰、肩を経由して右腕に収束させる。打撃とは腕だけで打つものではない、全身で打つものだ。


 その基本に忠実に。

 より速く、より強く拳を放つ。


 足を捻り、膝を捻り、腰を捻り、肩を捻る。上腕と前腕も捻り、叩きつけようとしている手のひらも捻る。螺旋のエネルギーがロクジンの右手のひらに集中していく。


 ルリアは嘲笑った。

 常人の拳など、黒鎧に何するものぞと。

 だから、なんの防御もしなかった。


 ロクジンの手のひらは、吸い込まれるように一点へと向かって行く。黒鎧の胸当て、その中心部へと――ダリオが傷をつけた、その場所へと。


「『螺旋掌・真』」


 ミシリ、と手のひらが黒鎧にめり込んだ。兜の向こう側で、ルリアが目を剥く。腕を動かし、ロクジンを掴もうとしたが、遅かった。


 黒鎧に亀裂が入り、それが徐々に広がっていく。伝播した破壊のエネルギーが、ルリアの体を貫く。一歩、二歩と、ルリアはよろよろと後退し、そして――


「――ッギャアアアアアア!」


 甲冑が砕け、血塗れのルリアが地面に崩れ折れた。

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