4-3 理由
轟々と鳴り響く機械音で、メリアドールは目を覚ました。
「ここは……」
しばらくの間、メリアドールは自分の身に何が起こったのか分からなかった。しばらく頭を抱えて考えて、徐々に記憶が戻ってくる。恐ろしい、先ほどの記憶が。
「……ルリア姉さま……!」
ルリアは無慈悲にロクジンを射殺したばかりか、メリアドールにも危害を加えた。ワイルドハントの少年たちも、散らさなければ同じ目に遭っていただろう。そして、最後に聞いたルリアの言葉が思い出される。
(((そして今度は絶対に死んでもらう)))
メリアドールを爆殺しようとしていたのは、ルリアだった。当たってほしくない想像が当たり、思わず目頭が熱くなった。何かの間違いだと、信じていたかった。
少しだけ悲しみ、メリアドールは涙を拭いて立ち上がった。例えロクジンが生きていたとしても、死んでいたとしても、ここで泣いていることを良しとするか?
(否。私は動き続けたから、彼の信頼を得られたんだ。少なくとも私はそう自惚れている)
腰のあたりを確認。やはりサーベルは取り上げられている。裾に仕込んだリボルバーもいまはなく、完全な丸腰であるらしい。ただし、拘束は施されていない。
(弱い魔力しかない小娘なら、拘束する価値もないと?)
相手の思考を分析し、そう判断した。
ルリアは猛将だが、大雑把なところがある。
続けて、彼女はあたりを見回し、ここがどこだか調べた。金網張りの床がまずあり、メリアドールの動きに合わせてガシャガシャと音を鳴らした。眼下には何本もの配管が通っており、壁も天井も厚い鉄板で覆われている。
つまり、ここはルリアが乗って来た飛行船の中なのだとメリアドールは解釈を下した。
「お目覚めか。タフな子だよ、お前は」
ノックもなしに扉が開かれ、ルリアの声が聞こえた。弾かれたように振り返りながら、メリアドールはこのままルリアを張り倒して脱出出来ないかと考えた。
しかし、それは無理そうだった。降り立った時と同じ完全武装の状態であった。隙はないが、しかし勝ち誇ったような目。油断がありそうだった。
「お姉さま、これはいったいどういうことなのでしょう?」
「お前は愚かな子ではない、なぜだか分かっているだろう?」
「分からないからこうして聞いているんです」
メリアドールはなるべく相手を刺激せず、かつ相手の自尊心をくすぐるような言い方をした。ルリアはくすぐったそうに身をよじり、笑った。
「一から説明してやらなければいけないのか? 殺す相手がお前になったことは誠に残念だが……しかし、ルーナに送った人間が死ななければならないんだ」
「また戦争を起こそうというのですか? なぜ?」
「足りないからだよ、メリアドール」
低い、唸るような声だった。
思わずメリアドールもゾッ、と身を縮ませる。
「呪法爆弾投下により両軍は大きなダメージを負ってしまった。兄様も死んでしまったしな……それでなし崩しの停戦だ」
第一皇子ライオネル戦死のことを言っているのだろう。
「我々はルーナから土地を奪い、拡大してきた。マドラサ帝国が抱える人口は膨大であり、狭い領地には留まっていられない。だというのに先の戦いでは少しの土地も獲得出来なかった」
「土地を手に入れるためにまた戦争を?」
「そういうことだ!」
メリアドールは心底怯えた。
ルリアの凶暴さに。
「そんな……そんなことのために、戦を起こそうなどと!」
「そんなこと? いま、そんなことと言ったか?」
ルリアは凶暴な肉食獣めいた目で睨む。
「窮乏する故郷を泣く泣く捨て、新天地での成功を求めるものたちの気持ちがお前に分かるか? 分かるはずがない、温室でぬくぬくと育ってきたお前には、絶対に……!」
血を吐くような口調に、思わずメリアドールもたじろいだ。
「兄様だけは……ライオネル兄様だけは皆の気持ちを分かっていた。新天地への希望を、明日への希望を分かっていた。しかし、兄様はもういない」
「だから」、とルリアは続ける。
「私がもう一度分からせてやるのだ、お父様に」
狂気。
そうとしかメリアドールには形容出来なかった。彼女の気持ちを――あるいは、兵士たちの気持ちを、半分も理解していなかっただろう。
それでも、メリアドールは心を奮い立たせ睨み返した。
「いま、この地で生きる人々を傷つける。私はそんなやり方を絶対に認めません」
睨み返すメリアドールを、ルリアは嘲笑う。
「囚われの身でよく吠える。せいぜい夢想するがいい、お前の理想とやらをな」
哄笑しながらルリアは去って行く。
再び、分厚い鉄扉で外界と彼女は隔てられた。
悔しいがルリアの言うとおりである。そういう認識はメリアドールにもあった。どれだけ泣こうが喚こうが現実は変わらないし、徒手空拳で立ち向かっても鉄扉は開かない。
(どうする……どうすればいいんですか。考えないと……!)
その時、足元に気配を感じた。ゾクリという直感に誘われ、そちらを見ると――
「キッツイ姉ちゃんだなあ、おい」
そこには薄汚れた衣服をまとった少年――ローンがいた。




