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黄昏の銃姫  作者: クロイモリ
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3-2 世界に光を

 そこから多忙な日々が始まった。メリアドールがやろうとしているのはオスティアでまだ誰もやったことがない、そして誰も知らないことなのだから。


 まず必要だったのは魔導炉の確保。


 これはそれほど難しくなかった。魔導士の協力を得て調査した結果、件のカタコンブはそれほど地上から離れていないことが分かった。だから採掘し、移動ルートを確保することも出来た。


「まず魔導炉をシールドします。生の魔力は毒ですから」

「どっ、毒ゥッ!?」

「薄い板で遮蔽出来る程度なので大丈夫ですよ」


 毒と聞いて怖気づく作業員たちを説得し、魔導炉の周辺に板を張ってシールドする。魔力を吸収し加熱する魔導炉を冷却するための放熱板を取り付け、第一段階は完了。


「で、これを使って何をするんだい?」


 作業中、ダリオに尋ねられた。もし魔導炉を使って産業革命を起こす、生産力を向上させる、と言ってもほとんどの人には理解されないだろう。大量生産、大量消費。その生活を経験したものでなければ。

 だからメリアドールは、皆を説得するための方法をちゃんと考えておかなければならなかった。


「私が作るのは……光です」

「光?」


 マドラサ人とルーナ人が手を取り合い協力する、その様を見ながら彼女は言った。


「オスティアの人々はコープスの脅威に晒されています。彼らは恐ろしい存在です、ですが光に弱い。だから人口の光をもたらすことが出来れば、人々の不安を払拭出来ます」


 それにはダリオのみならず、多くの人々が賛同した。


 第二段階は光を灯す魔力灯の開発。

 第三段階は魔導炉のエネルギーを伝達する導線の確保。


 これは原材料を集める班と研究開発を行う班に分けられた。


 特に研究開発は難航した。

 魔力灯はマドラサに広く普及しているが、国外に持ち出されたことはほとんどない。あったとしてもごく限られた上流階級のみに留まる。そもそも帝国と違いエネルギーがないのだから当たり前だ。


「俺ァ技師だったが、見たことも聞いたこともないもんをどうやって作れってんだ?」


 苦労して探し出し、説得した元技師は呆れた声を出した。


「まあ確かに。無理難題を言ったかもしれませんね……」


 ロクジンもそうだ。早くも夢は頓挫するのか。


「いえ、この街にも魔力灯の実物があります」


 しかしメリアドールは諦めなかった。

 それどころか、自信満々に言い切った。


「ほう、お嬢ちゃん。そんなものがどこにあるって言うんだ?」

「私が乗って来た飛行機に」


 あの時、メリアドールは飛行機から投げ出された。バラバラになった破片は街中に散らばったが、ちょうど天井部分に当たる場所がカタコンブに引っ掛かっていたのを彼女は思い出したのだ。


「なるほど……」

「地上から私が落ちた場所を改めて探しましょう!」







 落ちた場所を探すのはそれほど難しくなかった。

 問題はそこに辿り着くまでだ。


「うーん、どこまでも底に落ちていくって感じだね……!」


 そこは、先の大戦で大型爆弾を落とされ出来たクレーターだった。ギリギリまで削れた岩盤に飛行機がブチ当たった結果、天井が抜けてしまったのだろう。


 瓦礫の山を踏み越えて、底へ、底へと降りていく。しかも落下の衝撃によってどこも脆くなっており、再度崩落してもおかしくなかった。誰もそこに行くのを嫌がった。


 たった二人、ロクジンとメリアドールを除いては。


「危険なところにキミが行くべきじゃないんじゃないの?」

「私がやりたいことなんです。だったら危ないことも全部、私がやらないとですよ」


 率先して進んでいく二人。その後ろ姿を見たものは恐れ、慄くと同時に、メリアドールに敬意を抱いた。『やる』人間だけが誰かを引っ張って行ける。




 危険な道を進んでいき、二人は大地にぽっかりと空いた大穴の前までたどり着いた。蹴とばした小石がころころと転がり、落ちていく。どこまでも、どこまでも。着地の音は聞こえなかった――気がした。


 まるでそれは、穴のふりをして人が入ってくるのを待っている大蛇のような……


「行こう、リア」


 ごくりと生唾を飲み込んだ、メリアドールの手をロクジンは優しく取った。


 どこまでも落ちていくなど根拠のない妄想だ。

 落ちる音が聞こえなかったのは深過ぎるからだ。

 恐れを振り払い、メリアドールは不敵な笑みを作った。


「ええ、行きましょうロクジンさん。ついて来て、くれますよね?」

「ああ、どこまでも」


 二人はロープで体を結び、そのロープの突端を比較的安定したところに引っ掛けた。体重の軽いメリアドールが穴の中に入り、ロクジンがそれを支える。


「気を付けて。いつ崩れるか分からないから」

「支えてくれているなら、何も怖くはありません」


 少しだけ声は震えた。それでもメリアドールは臆さずに降りていく。やがて、カタコンブの天井に引っ掛かった飛行機まで辿り着く。


「……あれか」


 天井部分がかろうじで引っ掛かった飛行機。そこには奇跡的に無傷な魔力灯があった。メリアドールは手を伸ばし、それを掴む。そして、回す。


 その時、機体がガタンと揺れた。わずかにかかった力により均衡が崩れたのだ。それにより破壊が広がり、天井が崩落する――!


「リア!」


 巻き込まれる寸前で、メリアドールは機体を蹴って反動で後方に下がった。ギリギリのところで彼女は巻き込まれず済んだのだ。眼科では落下した機体がバラバラになっていた。


「大丈夫かい!?」

「ええ、何とか――ばっちりです!」


 彼女の手には、鈍く輝く魔力灯が握られていた。

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