3-3 光差す世界
オスティアの地下、その果て。魔導炉が設置されたカタコンベは、もはや元が墳墓であったことなど誰にも分からないような熱気と活気に満ちていた。
「おい、この螺子どこにおいておけばいいんだっけ?」
「おい手前、線を跨ぐんじゃねえ! ひっかけたらどうする!」
「はいはい、エール安いよ! チキンもつくよ!」
工員、荷運びは言わずもがなだが、儲けの気配を嗅ぎつけてやってきた商人たちもその人並みに混ざって営業を始める。混沌としたエネルギーが周囲に満ち溢れる。
彼らを守るために、戦士たちも大勢現れた。大半は武器を持ったゴロツキ達であり、トラブルの原因となることもあったが、そうした人間は速やかに排除された。
「工事の進捗状況はどうなってたっけ?」
些細なことで揉めていた工員を両成敗し、戻って来たロクジンは詰め所で様々な書類と睨めっこをしているメリアドールに尋ねた。
「だいたい七割くらいですね。魔力灯の製造が安定しているのはいいことです。ただ、現場では作業の遅れが出ているところも……」
ふぅ、とメリアドールはため息を吐いて目頭を揉んだ。どこも重労働だが、コープスに襲われる危険がある導線の配置班が一番遅れている。
ダリオを始めとした自警団の面々が作業員たちを統率し、守ってはいる。しかし予想以上のキツさに根を上げるものも出始めている。問題は多い。
「とにかく、市街中心部と地下に張ることが出来れば……」
「姉ちゃん! よう、姉ちゃんってばよ!」
いきなり声をかけられ、驚いたメリアドールは思わずペンを落としかけた。やかましく騒ぎ立て、メリアドールを呼んでいるのはローンたちストリートチルドレンだった。
「ローン、あの時はありがとよ。あっさり見捨ててくれて」
「ケーヤクはケーヤク、あれ以上やる意味なんてないね」
幼いのに大人びた口調。バイタリティの現れとも取れる、メリアドールは苦笑するしかなかった。
「どうしたんですか、ローンくん?」
「どうしたんですか、ってな。俺たちもここで働かせてくれよ! 稼ぎの分仕事するぜ!」
そう言ってローンは子供たちを見渡した。確かに背が低く、入り組んだ場所に入れる子供たちの手を借りられれば作業の進みもよくなることだろう。
もともと、子供たちを飢えさせない仕事を確保するのも魔力炉整備を目指した原因の一つだった。メリアドールは微笑み頷いた。
「ええ、よろしくお願いしますね。みんな」
「へへっ、ここが潰れて稼げるとこなくなって困ってたんだ。また魔力も売りに来るぜ!
そう言われて、メリアドールは渋い顔をした。が、ローンたちはそんなことに気付かず現場監督のところへ向かっていった。ひたむきだ、危ういほどに。
「魔力を根こそぎ奪われた人たちは……」
「回復の見込みは、ないようです」
三つ首龍たちに魔力を奪われた人々は、後遺症によりまともに動くことも、声を出すことさえも出来なくなっている。そしてそのような人を養う余裕は、ない。
魔力炉は活用する。そのためには人から魔力を受け取らなければならぬ。しかし過剰な魔力簒奪によるダメージを無視することは、オスティア繁栄にとってマイナスとなる。
「ダリオさんたちとも協議して、魔力運用については方策をまとめているところです」
「余計な犠牲者を増やさないため、か」
「それもありますが、安定的にエネルギーを供給できる体制が出来上がらなければいけないんです。魔力炉そのものを忌避されるような状況はどちらにとってもよくはない」
……そうして、また一か月ほどが過ぎた。
その頃には街中に導線が張り巡らされ、設置する魔力灯も完成していた。あとは魔力炉に火が入るのを待つばかり。
それまでの間、メリアドールは魔力の買取価格の決定と買取方法の選定を進めていた。要するに、三つ首龍のような『大規模事業者』を締め出すためである。
一日の買取量を制限し、必ず売りに来た当人に渡す。買取を行う前に背後関係を調査し、組織があるような場合は拒否、悪質な場合は制裁を科す……といった具合だ。
もちろん、制度的な穴はあるだろう。しかしそこは運用時に埋めるということにした。いつまでも稼働出来ないよりはよほどいい。
「……いよいよこの時が来た」
その日、メリアドールは魔導炉を起動させる大役を担った。
「大丈夫かい、リア」
「ええ、問題ありませんよ。ロクジンさん」
メリアドールは拳大の魔石の魔石を手に取り、魔力炉の心臓部に近付けた。設置すると内部回路に魔力が行き渡り、内部機構が動き出す。そして投入した魔力を別のエネルギーへと変えるのだ。
魔石が吸い付くように台座に収まった。と、同時に台座が淡く光り、続けて地を揺るがすような轟音が響いた。魔力炉の機能が少しずつ、少しずつ動き出したのだ。
魔力炉によって返還されたエネルギーは電気となり、電機は導線となり、魔力灯へと行き渡る。フィラメントが力強く発光し、周囲をボウッ、と照らした。
――その日、オスティアは夜を克服した。




