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黄昏の銃姫  作者: クロイモリ
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2-9 闇の魔法使い

「いやいや待ってくれ。俺は別に戦いに来たわけじゃないんだぞ?」


 ダンケルはロクジンが繰り出した三角蹴りを軽いステップでかわした。ロクジンは着地の反動で跳ね、そのスピードを殺さぬまま手刀を繰り出す。


 ダンケルの腕に闇がまとわりついた。彼はその腕を掲げてロクジンの手刀を受け止める。と、闇が蠢き、形を変え、ロクジンの攻撃を滑らせた。


「なんだ、この気持ちの悪い手応えは……」


 体勢を崩されたロクジン。ダンケルは逆手に持った闇の剣を構え、切り上げようとした。しかしその時にはメリアドールがリボルバーの再装填を完了していた。


 乾いた発砲音が響く。ダンケルは舌打ちし攻撃を中断、後方に下がった。向かってくる弾丸は、彼の身を包む外套が受け止める。六発の射撃が完璧に防がれた。


「俺の魔法は闇を操る。暗所で俺に勝とうって方が間違っておるのさ」


 ダンケルは下がりながら両手を広げた。コートの裾に当たる部分がまた蠢き、枝分かれした。まるで何匹もの蛇が彼の腕を這っているかのようだ。


 蛇は二人の方を向き、口を開いた。

 そしてすさまじい速度で襲い掛かってきた。


「くうっ……!?」


 身をかがめてロクジンはかわすが、すべてを避け切ることは出来なかった。十発以上放たれた攻撃の内二発が胴体に炸裂、彼は弾き飛ばされた。


 一方のメリアドールは執拗に首を狙う攻撃を紙一重で避けていた。狙いが分かればある程度軌道が分かる。避け切れない分は剣で弾き落とした。一発一発は重くないのだ。


「やるなあ、キミたち。俺の攻撃がここまで捌かれたのは……久しぶりだ」


 メリアドールは路地に飛び込んだ。

 ダンケルの視線を切り、攻撃をかわすために。


「そうやって俺が見えない場所に行けばどうにかなると?」


 ニィ、とダンケルは口元を歪ませ、両掌を突き出した。よろけながら立ち上がったロクジンは、そこにギョロリとした目があるのを見た。正確には、闇の中に目があった。


「言っただろう、闇の中で勝ち目はないと――!」


 闇の『目』が再びロクジンたちに襲い掛かった。ロクジンに向かったものは少ない、すでに脅威だと判断されていないのだろう。ゴロゴロと地面を転がり、距離を取りながらそれをかわす。


 一方で、メリアドールに向かっていったものは角で曲がり、どこまでも彼女を追跡した。恐ろしい目に追われながら、メリアドールは走り続ける。


「くうっ……!」


 角を次々と曲がって追撃を避けようとする。しかし闇の目はかなりの追跡性能を誇るようで、メリアドールの後をぴったりとつけてくる。


(しかもこれで見られているということは、あの男もこちらの位置を把握している、ということ。どうすれば……)


 銃弾は撃ち切っている。

 剣も魔力切れ。

 残された手段は。


(最短ルートで切り込む、これしかない)


 メリアドールは必死に走った。

 走り、路地を抜けまた通りに出る。


「やあ! 追いかけっこはもういいのかい?」


 ダンケルが闇の剣を構え、メリアドールに躍りかかってくる。後方からは目が迫る。


(タイミングを計る! このまま……)


 ダンケルが剣を振り下ろす。


 メリアドールはそれを受け止め――後方に跳んだ。


 力を込めて押していたダンケルは、当然前につんのめる。


 目の方向へと。


「うおっと!?」


 目は自分に当たる寸前に消えた。しかし、隙が出来たことは確かだった。メリアドールは構え直し、ダンケルに突きを放った。


「おおっと!」


 斬撃は軌道を逸らされる。隙も大きい。ならば、素早く引き戻す突きの連撃はどうか。点の攻撃は避け辛く、流し辛い。そして流されてもすぐ次の攻撃に移れる。メリアドールの目論見は、果たして当たった。


 ダンケルは防戦を余儀なくされる。

 その隙を突き、ロクジンは背中を取った。


「強い、けど! あいつほどじゃあ!」


 ダンケルは攻撃を受け流しながら後ろを見やった。


「いやあ、参ったなこれは……ちょっとだけ」


 ダンケルは左腕をロクジンに向ける。

 その手のひらに闇が収束し――膨張した。


「本気を出さなきゃいけないかもね?」


 闇は人一人を軽く呑み込めるほどの大きさになった。ロクジンも目を剥き、立ち止まる。回避行動をとるが、しかし。放たれた闇は速かった。


 ロクジンを闇が襲う。

 そして、炸裂。


 攻撃の余波で周囲の建物が損壊し、瓦礫が降り注いだ。


「ロクジンさん――!」


 メリアドールは叫びながらダンケルに突きを繰り出――そうとしたところで、踏み込めずにつんのめった。足元を見ると、自分の影が足に絡みついているのが見えた。


「これは……!」

「悪いね。コスい手だからあんまり使いたくはないんだが……」


 闇の剣の切っ先がメリアドールの腹に当たった。切られてはいない、しかしすさまじい衝撃が彼女を襲った。弾き飛ばされ、メリアドールは無様に転がった。


「あっ、ぐう……」

「リュミス、後何秒?」


 ダンケルは両掌を合わせ、右手の人差し指をメリアドールに向けた。まるで子供がする指鉄砲のように。


「12秒」

「キツイな」


 闇の一撃がメリアドールめがけて放たれる。


 彼女の首を――




 ――貫かない。


 代わりに闇は、彼女の首にかかったネックレスをひったくった。


「え?」


 闇がネックレスを包み込んだ。

 球体上の闇が天井近くまで浮かび上がる。


「よーし、後はこのまま握り潰すだけ――」


 ダンケルの肩に何かが乗った。

 彼は振り返り、そちらを見る。


 まったく無傷のロクジンが、拳を振りかぶっていた。


「え?」


 まったく想定もしていなかったダンケルの顔面に、ロクジンの鋭い拳が叩き込まれた。集中を乱したダンケル、闇の球体が解けネックレスが宙に舞う。




 次の瞬間、ネックレスが大爆発を起こした。




「……え?」


 何が起こったのか分からず、ロクジンも、メリアドールもそれをボウっと見上げる。


「えーっと、いきなりだったのは悪いと思うんだけどさぁ……」


 殴り飛ばされたダンケルは、地面に寝転がりながら言った。


「緊急事態だったんだ。その辺の説明、させてもらえないかなぁ……?」

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