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黄昏の銃姫  作者: クロイモリ
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2-7 許せぬ悪

 ヒサメが剣を振るう。

 門番の頭が二つに割れた。


「ヒサメちゃん――!?」


 先ほどの戦いでは、人を殺していなかった。

 いまは違う。


「キレてるな。悪い奴を見ると、自制が効かなくなるんだよなぁ……」


 ヒサメは扉を蹴り開け、叫び声をあげながら突撃していく。それに続いて野太い悲鳴。ロクジンとメリアドールはそれにこっそりと続き、捕らえられた人々の拘束を外す。


「大丈夫ですか?」


 声をかけるが、反応はない。どれだけ長い間こうしていたのか。例え意識がはっきりしていたとしても、足の萎えた状態では立つことは出来ない。


「どうして彼らは、魔力を集めているのでしょう……?」

「マドラサでも使っているんだろう?」

「そうですけれど、でも工業設備の整備とセットですよ」


 エネルギーを集めても、それを使う場所がなければ意味がない。すなわち、三つ首龍の団体は魔力を使う術を手に入れているということだ。


「これは思っていたよりも、大ごとになっているかもしれませんね」


 二人は先に進んだ。悲鳴の先へと。


 ヒサメは鬼の形相で突き進み、殺戮を繰り広げていた。彼女が剣を振るうたびに人の体が飛び、鮮血があがった。


「ヒサメちゃん、どうしてあんな……」

「さあね。でも、これが《オスティア自由騎士団》だよ。自分たちが開くと断じた人間には、どんなことでもする……あまりにも苛烈で、独善的過ぎるんだ」


 ロクジンは吐き捨てた。


「それでも、相手は非道なことを行う輩なのでしょう?」

「そうだね。でもあいつらの暴力がコープスから人々を守っていることも事実……正しくはないさ。でも正しさなんて、この地下で何の意味もない」


 ヒサメが突きを放つ。その突きは頭蓋を貫いた。

 しかし抜こうとした時、剣が折れた。

 あらぬ方向から力を受けたためか、それとも酷使によるものか。


「しめた! あいつ武器をなくしたぜ!」

「いまだ、かかれ! 武器のねえ小娘なんぞ何するものぞー!」


 優勢と見るや、団員たちが一斉に襲い掛かった。


 しかし、ヒサメは動じない。横一文字に両断せんと放たれた斬撃、それが加速しきる前に懐に飛び込み、腕を押さえた。そして相手の手首を握ると、思いっきり捻った。


 グリン、と屈強な男の体が風車めいて空中で一回転した。背中から地面に叩きつけられ、苦悶の叫びをあげる男の手に、もはや剣はない。


「太刀取り……!」


 ロクジンは驚愕の声をあげた。奪った剣で倒した男に止めを刺すと、怯んだ団員の群れにヒサメは飛び込んでいった。再び血風が上がり、混乱と混沌がその場を支配する。


 その混乱に紛れて、こそこそと立ち回るものがいた。死角に隠れ、忍び足で移動し、外を目指す。三つ首龍の入れ墨をした、半裸でスキンヘッドの男だ。



 その手には化粧箱を持っていた。マドラサ帝国皇室の印の入った箱を。



「あいつ……! 逃げるぞ、ヒサメ!」


 ロクジンが呼びかけるものの、ヒサメは我を失っており耳を貸さない。


「ロクジンさん、私たちが追いかけるしかありません!」

「くそ、あいつも《魔剣士》だって噂があるのに……!」


 暴れ回るヒサメを残して、二人は入れ墨の男の後を追った。裏口から出て路地を抜け、大通りへと至る。しかしスキンヘッドの男にとっては運が悪いことに、大通りを荷車が塞いでいた。


「くそったれ、ちゃんと片づけておけって言っておいただろうがッ!」


 地団駄を踏み、どこに逃げるかを考えている間に二人が到着した。


「待ちなさい!」


 ロクジンとメリアドールは十メートルほどの距離を取って三つ首龍の男と対峙した。


 アデプトと至近距離で打ち合うにはあまりに無謀、せめて対応する時間が欲しい。それがロクジンの提案だった。


「待て。別にあんたを殺しに来たわけじゃない」

「ウソをつけ。あのガキは俺の手下を殺してるじゃあねえか!」

「あいつと俺たちは関係ない。なあ、取引をしようじゃないか」


 ロクジンは恐れとともに生唾を飲み下した。


「その箱を渡してくれ。中身があるんならな。それを渡してくれたら、あんたのことは追いかけない。どこに行こうが好きにしろ、俺達には関係ないことだ」


 三つ首龍の男は少しの間逡巡し、箱を開いて見せた。中に入っているのはネックレスやピアス、ブローチといった品々。メリアドールが中身をよく見ると、少し欠けがあった。


「もう売っちまったものもいくつかある。これでいいならくれてやるよ」

「……仕方がない。取り返すのは手間だけど、大きな前進だろう?」


 ロクジンはメリアドールに目配せした。出来ることなら、戦いたくないとその目が言っていた。アデプトとの戦いになれば、ただでは済まないことは彼女も分かっていた。


 それでも、どうしても聞かなければならないことがあった。


「あの魔導炉で作ったエネルギーを、いったい何に使うつもりなのですか!」

「貴様……あれのことを知っているのか?」

「答えてください!」


 男はくっ、と笑った。


「何にだと? 決まっているだろう、魔石に使うのだよ! マドラサと同じだ、魔石兵器を作るのだ! そしてそれを売る! 俺たちは儲けるんだ」


 抽出した魔力を魔石と呼ばれる集積体に注入し、兵器を始めとしたさまざまな媒体で運用するのはマドラサでも行っていることだ。しかし。


「そのためにこんな多くの人々を集める必要はないでしょう! あなたほどの力があるなら、自分で十分に……」

「はっ、そんなことをして何の意味がある? 俺はな、この地下に雇用を作ってやっているんだ」


 メリアドールの問いに、男は邪悪な笑みを浮かべて答えた。


「地下にいるのはクズだ。ここはクズの掃きだめだ。どこにも行くところのない奴、いても意味のない奴。俺はこいつらの人生に意味を与えてやったんだ!」


 大げさな身振りをして、男は演説を打った。


「あいつらは俺たちに魔力を献上する! 俺たちはあいつらの魔力を使う! 生きている価値のねえカスどもが役に立てる道を作ってやったんだ、感謝してほしいね!」


 頭が沸騰するような怒りを、メリアドールは感じた。


 彼女は反射的に裾に仕込んだリボルバーに手をかけ、素早く二度トリガーを引いた。完璧に油断していたが、アデプトはかろうじで反応した。


 腰に着けられていたラタンと呼ばれる木で作った棍棒を手に取り、素早く引き抜く。そして大雑把に予測した弾丸の軌道にそれを乗せた。


「うおおおお……!?」


 磨かれた木を弾丸が滑る。一発目は弾かれて壁に着弾したが、もう一発は弾き切れず男の頬を切り裂いた。怒りと屈辱で、男の頬が紅潮した。


「手前……! 命が要らねえようだなぁ……!」


 男は二振りのラタン・スティックを抜くと、演武めいた動きで威嚇した。切られた風が二人の方まで届き、残像が彗星の如き軌道を描く。


「どうしたんだ、リア!」

「すみません、ロクジンさん。迷惑をおかけします」


 メリアドールは右手で銃を、左手に剣を構えた。


「でも私は……これを見過ごすことは出来ません」

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