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黄昏の銃姫  作者: クロイモリ
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2-5 少年探検家

「どういうつもりなんだよ、リア」


 にこにこと笑いながら二人についてくるヒサメをちらりと見ながら、ロクジンは尋ねた。


「絶対厄介ごとになる。警告する、やめておいた方がいい」

「ごめんなさい、ロクジンさん。でも、可能性があるかもしれないでしょう?」


 相手は宝飾品を扱う犯罪組織。

 で、あるなら、この街に落ちてきた極上の獲物を見逃すだろうか?


 少なくとも、落下物で売れるものがないか探すくらいはしたはずだ。メリアドールはそう考えている。


(もしかしたら、レアたちの居所を知っているかもしれない……)


 彼女たちが生きているか、それとも死んでいるか。どちらであったもあり得るし、構わないと思っていた。


 今自分が生きていることが奇跡であり、受け入れることが出来るかどうかはともかく――受け入れようと、彼女は思った。


「しかししかしですよ、ロクジン師匠。一体全体どうすればいいのでしょうか?」


 ヒサメが訪ねた。

 ロクジンはメリアドールとの会話から意識を切る。


「んっ……ボスを見つけられるかはともかく、同じ組織にいるやつを見つけることは出来る……と思うんだ」

「本当ですか、師匠!」


 そういいながら、三人は地表へ向けて歩いていた。時折出てくるコープスは、一刀のもとにヒサメが叩き切る。


「なんていうか……すごいですね、ヒサメちゃん。私よりも年下なのに、あんな……」

「人間離れした動きだろう? あれが騎士団の主力、《魔剣士(アデプト)》たちだ」


 バネが違うとメリアドールは思った。


 軽く踏み込むだけで、彼女は目にも止まらぬ速さを繰り出す。速さを受けた一刀が、どんなものでも切り裂く。技術はまだ未熟だとしても、それを補って余りある。


「《魔剣士》は自分たちの肉体を魔力で強化する。武術の鍛錬とは比べ物にならないレベルでね……その力を振るう騎士は一騎当千、戦争の時も大層恐れられた」


 どこか拗ねるような声色をメリアドールは感じた。


(腕一つで戦ってきた人には、受け入れ難いことなんでしょうね)


 ロクジンは魔力を持たない。

 だから《魔導士殺し》の異名を持っている。


 だからこそ、彼にとってアデプトは天敵だ。

 魔法に驕らず、自分よりも優れた力を持っているとなれば、正面戦闘で勝ち目はない。


 そして、それが単なる嫉妬だと自分自身で気付いている。

 だからヒサメのことを苦手に思いながらも、邪険に扱えない。


(……ふふ)


 自分と年が変わらないながらに、大人びている。

 そんな少年に、年相応のところがあるのを見た。

 少しだけ、彼女は嬉しく思った。


「……とにかくだ。あいつらは地下に潜伏している。だから地下の人間に聞くのがいい」

「地下の人間って言うと……あっ、ローンくんたちですか?」

「ああ、あいつらは……」


 そこまで言って、ロクジンはいったん言葉を切り、メリアドールに耳打ちした。


「……あいつらは、あの手の組織と取引をしてるかもしれないからな」

「どうしてこんな近くに来る必要があるんですか、ロクジンさん」


 顔がつくほど近くに寄ってきたロクジンに、メリアドールは思わず頬を赤らめた。ふわりと彼の臭いが漂う、それほど不快ではない。


「あいつがいるからだ。さっきも言っただろう、あいつは『正義の味方』だ。だからこういうところで活動する連中が死ぬほど嫌い。《オスティア自由騎士団》はそういう傾向が強いけれど……ヒサメは特に、格別なんだ」


 ロクジンは苦々しい表情で言った。


「確かに、たった一人で乗り込んでくるなんて……」

「だからいろいろボカすよ。それが穏当だ」


 肩を寄せ合う二人を見て、ヒサメは不思議そうな顔をした。


「二人はお付き合いをされているんですか?」


 二人は息を合わせて、

「「違う」」

 と答えた。


※※※


 ローンたちが暮らしているのは、街の下層にある下水道、その点検口だ。いまとなっては、街中に張り巡らされた水路を点検する人員も余裕もない。誰にも必要とされなくなった場所を、彼らはねぐらにしている。


 整備されなくなっても、下水道には汚濁が流れ込んでくる。上水道は清潔だが、そちらは人々も使うのですぐに追い出される。だから彼らが暮らせるのは下水だけだ。


「むう……こんな環境で生きている人がいるとは……」


 強烈な臭いにヒサメは顔をしかめた。ロクジンも、メリアドールも、最初はそうだった。いまとなっては慣れてしまったのだが。


「あっ、姉ちゃんだ!」「兄ちゃんもいるぞ!」


 入り口を守る二人の少年が彼らに気付き、歓声をあげた。


「よう、悪ガキども。ちょっといいか、中まで入って」

「兄ちゃんと姉ちゃんならいいよ。ああそうだ、姉ちゃんありがとな!」

「姉ちゃんが持ってきたの使ったらさ、みんなビョーキになんねえ! スゲエなこれ、魔法か!」


 それを聞いて、メリアドールは顔をほころばせた。


 最初来た時から気になっているのは、衛生環境の悪さだ。下水道なのだから当然だが、それにも増して子供たちの汚れた格好が気になった。そこで確認したところ、憂慮すべき問題があることに気付いた。


 子供たちの多くが、病気や感染によって命を落としている。あるいは、その寸前の状態に陥っているということだ。死んだ子供たちはひとところに纏められ、腐り朽ちるのを待つだけだという。


 やるべきことを見つけた。

 衛生観念を徹底して教え込むこと。

 そして病毒感染を予防すること。



 すなわち――指手衛生教育。そして石鹸の普及である。



 マドラサの衛生学はまだまだ発展途上だが、汚染が種々の問題を引き起こすことは突き止めていた。このまま放置しておけば子供たちだけではなく、オスティア全土にも影響が及ぶだろう。善意と功利が噛み合った。


「もう汚れた水を飲んだりはしていませんね?」

「ロカとかシャフツとか、メンドーだけどさ。やってる」

「それはいいことです」


 どうにか子供たちを助けられないかと、メリアドールは考えた。大人たちが助けるのが一番いい、しかし大人たちにも余裕がない。次善の策は彼らが稼げるようになることだ。


 下水道を抜け出せれば、悪環境による死亡率は減るだろう。ただそれを成すだけのヴィジョンが、彼女にはまだなかった。石鹸の製造・販売にも限界がある。


「そっちの姉ちゃんは?」

「ああ、彼女は……」


 紹介しようとしたロクジンは一瞬考え、


「彼女はヒサメ。みんな、この子が面白いものを見せてくれるってさ!」

「ええっ?」


 いきなり話を振られて、ヒサメは目を丸くした。

 娯楽に飢えた子供たちは、ヒサメをじっと見た。


「なんだこいつ?」「なになに?」


 子供たちに囲まれ、ヒサメは困ったように笑った。


「これで邪魔されずに済むな」


 ヒサメを置いて、二人は進んだ。

 後ろからは歓声が聞こえてくるので問題はないだろう。


「ローン、いるか? ちょっと聞きたいことがある」

「ああ、いるよ。どうしたんだい、ロクジン」


 闇の中から大人びた顔立ちの少年が出てきた。


「三つ首龍の入れ墨をした連中のこと、知らないか?」

「……いくらくれる?」


 ローンは値踏みするような視線を向けた。なんともちゃっかりしている、とメリアドールは苦笑した。財布から数枚の硬貨を取り出し、ローンに握らせた。


「彼らは危険な犯罪者なのでしょう? 危険はないのですか?」

「そりゃ、危ない連中さ。気に入らないからってぶん殴ってくることも多いよ。金をちょろまかされることもある。だけど……」


 ふん、と鼻を鳴らし、


「それでも、一番金払いがいいのはあいつらだ」


 そう答えた。


「どこにいる? その……話を聞きたいんだ、そいつらに」

「案内したら、もっとくれるか?」

「そりゃありがたい話だ。分かった、もうちょっと出すよ。で、どこだ?」


 気をよくしたローンは、口も滑らかに話し出した。


「秘密の抜け道を通った先さ、ここにいるやつらでもオイラしか知らない。新しい仕事を始めたんで、結構いい稼ぎになるのさ」

「新しい仕事……それはいったい、何なのですか?」


 何気ない問い。

 しかし、それがメリアドールを大層驚かせることになる。


「なんて言ったっけな、そう……魔導炉の充填だったかな」


 ――それは本国でしか実用化されていないはずの、最新技術だった。

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