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対人恐怖症な俺の異世界リハビリ生活  作者: 春眠桜
それぞれの旅立ち
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魔導を極めし者達 

インティアーナ魔導国地下大聖堂に邪な神が降り立つ。


常人ならその場にいるだけで失神してしまいそうな悪意に満ちた魔力、そして殺意が三人に向けられた。


『キッヒッヒッヒ。なんという充実感、なんという解放感……やはり現世に降臨するのは気分の良いものだ……キッヒッヒッヒ』


ぼんやりとした黒い影が人型を成し、両手を掲げて不気味に笑う。


『さぁて……月光神たる私に……醜態をさらした愚か者へ罰を与えねばなるまい……キッヒッヒッヒ、まずは【トート】よ……神に背きし愚か者よ……無明の闇へと落ちるがよい』


黒い影はゆっくりと口を開き天井へと頭を傾けた。すると【トート】が立つ大聖堂の床が消え、無数の手が彼を掴み始める。


「ぐっ……」


『もう逃げられんぞ背神者め……キッヒッヒッヒ』


【トート】に絡みついた無数の手がズルズルと漆黒へ引きずり始め、身動きも取れずこのまま飲み込まれるかと思った時であった。


ディオールドの詠唱が響き渡る。


──陽光の輝き


天井に展開された魔法陣から光の矢が際限なく投射しはじめた。矢はインティアーナ本体や漆黒の手を次々と貫き、輝き始める。


すると影は薄くなり、邪悪な魔力が薄れ始めた。


「でかしたじじぃ! 」


【トート】はそう悪態をつくと壁へ鎖を放ち、その場を脱した。


『キッヒッヒッヒ……おいディド。お前変わったなぁ……どこでそんな魔力を手に入れたんだ? 昔は凡庸な力しか持たなかったお前が……』


幼少の頃のディオールドしか知らない為、インティアーナが不思議がるのも無理はない。


ディオールドを含め、ラドルア帝国の者はかつて邪神アークの呪いに掛かっており、魔力が大幅に制限されていた。


さらにアーク討伐後、ひょんな事から良所に身体強化を受けており、開放された魔力がより強化された結果今のディオールドが存在する。


事の経緯を説明する必要は無い。そう判断したディオールドは、インティアーナへ挑発混じりの戯言を発した。


「ふぉっふぉっふぉ。よもやこのおいぼれに驚かされるとは、師匠も衰えましたなぁ」


『……調子に……乗るなよディド! 』


苛立ちを覚えたインティアーナは巨大な漆黒の炎をディオールドに向けて放った。だが、ディオールドは苦笑しつつ指を鳴らす。


──パチン


瞬間漆黒の炎は勢いを止め、小さくしぼんで消えた。


『な……ディド貴様っ』


「ふぉっふぉっふぉ。何を驚かれますか? かつて貴方が教えてくださった事を実践しているだけですじゃて」


その様子を見た【トート】は驚愕した。


(あれは対消滅魔法……まさか極魔導を見る事になるとは……やるじゃねーかじじぃ。俺もぐずぐずしてる場合じゃねぇって事だな)


触発された【トート】は己の切り札となる秘法、基、禁呪を構築しはじめる。


(我は世の理に反する全ての事象を認めず。無限の時を経て集められし理の知よ、我が元へ集え。均衡を保つ禁断の書の片鱗を見せよ。四十二編の世界の真実よ、開かれし時は──)


ディオールドの対消滅魔法に驚いていたインティアーナだが、【トート】がなにやら詠唱しはじめている事に気付くと、慌てて阻止しようと動き出す。


『ディドにかまっている場合じゃないようだな……かといって魔導はディドに邪魔されるとなると、これしかなさそうだ』


そう言いながらインティアーナは巨大な漆黒の門を発現させた。


『開け暗黒世界の門よ』


──ギギギギギギギ


漆黒の門が開かれ、無限の闇が姿を現す。


『キッヒッヒ。出でよ邪なる獣達よ、そして全てを喰らうのだ』


インティアーナの声に誘われる様に門より魔物が溢れ出てきた。


『ディドよ、こいつらはお前の特異な魔導すら効かぬ。さぁ絶望しながら息絶えろ! 』


「なるほどのう、召喚魔法か。ヘルダー! きゃつらは実体を持った魔物じゃ、切り裂けば滅する。存分に力を開放し、帝国騎士の誇りを見せよ! 」


「賜りました上皇陛下」


──ガチャリ


ヘルダーは漆黒の鉄仮面で顔を覆うと、魔力を開放しドライロディアを構える。


鉄仮面の隙間から見える眼光は赤くひかり、狂気が彼を包み始めた。


「ヘルダー・ヴィンデム……押シテ参ル」




                  ◇



海竜遭遇戦の翌日、エーギルラーン号は水平線の彼方に氷の大地を望む所まで来ていた。


ソフィアがライラより預かっていた氷の羅針盤により最短距離で向かった為に、この短時間で着いた次第である。


「小父様……あれが氷結の大地……」


「そうじゃな。周囲に何も存在せず、この凍てつく様な寒さは間違いなく氷結の大地じゃて。それにしてもお主らは寒くないのか? 」


バルバロスを含む船員達はすでに防寒着を着こんでいた。にも拘わらず、ソフィアとシェルは良所ジャージのみで見るからに寒そうなのだが。


「寒くはないです。むしろ風が心地良いと感じますわ小父様。シェルちゃんもそうでしょ? 」


『あい! おうちのくーらーみたいできもちいいの! あい! 』


「フェルはどう? 寒い? 」


「ヴォン! ヴォン ヴオン! (ぜんぜんへいきよ! きもちよいくらいだわ! )」


さすがに伝説といわれるフェンリルのフェルは寒さなど関係無い様だった。


「まったく……婿殿の影響かのう。まぁ丈夫になったと思っておこう」


「ふふふ。そうですね小父様、ナイト様の影響かもしれません」


『しぇるはげんきー! あい! 』


「ヴォン! 」


その間にもエーギル・ラーン号は氷結の大地へ近づいていく。厳しい環境故か、周囲の海に魔物の類はいなかった。バルバロスはその事に安堵しつつ、上陸準備を始める。


十分な保存食と真水、そして氷の羅針盤が入った背負い袋をソフィアに手渡すと、最後の確認を取り始めた。


「本当に単独で行くのじゃな? 」


「単独ではありません小父様。シェルちゃんやフェルと一緒です」


『あい! 』


「ヴォン! 」


相変わらず無邪気なソフィア達に若干呆れつつ、バルバロスは語り始める。


「儂が手伝えるのはお主らをここまで送り、待つ事までじゃ。よいか、必ず帰ってくるのじゃぞ? 」


「ありがとう小父様。ソフィ達は必ず帰ってきます、それまでどうかご無事で」


別れの挨拶を済ませたソフィアはシェルと同化し、背負い袋を担いでフェルと共に小舟へと乗り込み始めた。


『では行ってまいります小父様! 』


「ヴォン! 」



──英雄姫万歳!


──いってらっしゃいお嬢!



エーギルラーン号の船員達に見送られながら、ソフィアは櫂を手に小舟を走らせた。


眼前に広がる真っ白い景色が近づいてくる。


ソフィア達が氷結の大地へと足を踏み入れる時がきた。


『待っていてねナイト。必ず救って見せるから』



                  ◇



──ギャァアアアアアアア


──グァアアアアアアアアア


大聖堂に魔物達の断末魔が響く。そこはまさに地獄絵図と化していた。


『馬鹿な……人間風情が何故ここまで戦える! 』


インティアーナが驚愕する程の光景が広がっている。


人ならざる動きで次々と魔物を屠り続けるヘルダーは、さながら魔人の様相を呈していた。


「足リヌ……足リヌ……モットダ……モット命ヲ寄コセ! 」


(狂人化したヘルダーをみるのは久しぶりじゃが……誠狂人よのぅ)


インティアーナが現出させた門より無尽蔵に湧きだす魔物達。だが沸いた端からヘルダーに屠られては当初の目的である【トート】の詠唱を止められない。


うまくいかない状況に怒りを募らせたインティアーナはヘルダーに対し次々と魔導を放つが、傍観する程ディオールドは間抜けではなかった。


「焦り始めた時には勝敗は決している……そうおっしゃったのは師匠ではなかったかのぅ。ふぉっふぉっふぉ」


インティアーナの攻撃魔導が次々と消滅していく。それが焦りを呼んだのか、黒い影から顔が浮かび上がってきた。


女神の様な整えられた顔は憎悪に歪み、額に埋め込まれている真紅の宝石が怒りで揺らめいた。


『だまれ木偶が! 未だ日は高い、月夜になればお前達なぞ一瞬で滅ぼせるわ! 』


(そうだっ……月夜になれば……キッヒッヒッヒ、【トート】がよからぬ企てを実行する前に一時退散するのが良かろう……キッヒッヒッヒ)


自分の言葉で活路を開ける事を思い出したインティアーナは、大聖堂から脱出しようと行動を開始する。


『ディドよ……お前達はしばらくここで魔物と遊んでおれ。私は用事を思い出したのでな、暇させてもらう』


そう言い放ったインティアーナの周りに転移の魔法陣が展開された。


だがしかし、そんな状況でも焦りもしないディオールド。その目はかつての師匠であったインティアーナに哀れみを向けるものであった。


「師匠よ、貴方は本当に衰えたようじゃ。かつて師匠は余に教えてくれました」


『何を言うか木偶が! 』


「まずは逃げ道を塞げ。それから恐怖を与えろ、と」


その言葉に何かを思い出したのであろう、即座に転移を試みたインティアーナ。


だがその転移は無駄に終わった。転移した先は元々居た場所だったのだ。

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