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対人恐怖症な俺の異世界リハビリ生活  作者: 春眠桜
異世界エレーファ漫遊編
82/123

海の神(タコ)襲来

リード商会極秘の地下大広間にて、二人の人物が硬直し微動だにしなくなっていた。


硬直する二人を他所に俺と陛下は談笑しつづけた。


「してナイト殿。今回はどの様な厄介事じゃ? 」


『やだなぁ。まだ厄介事って決まったわけじゃないですよ』


「よく言うわい。ふぉっふぉっふぉっふぉ」


漸くライラさんが我に返り、即座に跪く。


「皇帝陛下、挨拶も無くとんだ醜態を晒しました。お許しください」


「ん? おぉ。ヘルダー元帥の所にいるフリージュア家の次期当主ではないか。そう固くならずともよい、楽にせよ」


「ははっ」


ライラさんに続いて青い顔をしながらリードさんも慌てて謝罪を述べた。


「こ、っこここここ皇帝陛下。おっお許しください」


「うん? なんじゃ其方は。なぜいきなり余へ謝罪する? 」


話が進まない。そう判断した俺は陛下へ事の次第を説明し始める。


『あー、陛下。実は──』


──


───


────


「ふむ。大体分かった。リードとやら、余の頼みとしてナイト殿達に情報を渡せぬか? 」


一領主ならともかく、皇帝直々の頼みだ。断れるはずも無い。


「は、ははははははい。事の次第は半年程前……フリージュア家の当主様と奥方様、それにご息女のお二人が来店してきた事に始まります──」


青い顔をさらに青くしながらリードは事細かく説明しはじめた。



商談を聞いたリードは当初断りを入れる。


なにしろ古より安置されている祠だ。港町故の迷信深さもあって海の神の祠を壊したくないと説明した。


当然フリージュア家は反発する。迷信なぞ取るに足らない物と言い切り、リード達へ強要しはじめたのだ。


さすがに領主には逆らえず、渋々了承する事に。


リード達は祠を撤去し、別荘を建て始めたが問題が発生する。事の次第が領民達に露見したのだ。


祠が壊されたとの噂はすぐに広まり、町中が不安に包まれる。


さすがに不味いと思ったのか、領主ドミニクは別荘を建てた事を隠蔽しはじめた。


別荘建築に携わった者達の口止めはもちろん、依頼者が自分達にも関わらずいもしない第三者がしでかした事にして、それを咎め接収したとの噂を流させる。


効果はあり、不安と不満の矛先はいもしない第三者に向けられ、フリージュア家は事なきを得た。


そんなフリージュア家の失態をおいそれと口には出来ず、今に至る。


「──い、以上です。お許しください……」


それにしてもフリージュアの義姉様はあっさり口にしてたが……まぁ思慮が足りないだけなのだな。


話を聞いたライラは溜息をつくと、悲しい表情を浮かべながら心情を吐露しはじめた。


「……なんてことを。およそフリージュア家の当主がすることではない……いつからフリージュア家はここまで落ちたのだ……」


落胆するライラへ皇帝ディオールドがあっけらかんと話しかけた。


「なに。凡庸な領主にはよくある事じゃな。それにお主がしたことではなかろう? そこまで気を落とす事もあるまい。起こった事を嘆くよりも重要なのはこの先の事じゃ」


さすが皇帝。視点が常に未来へ向けられている。わかってはいるけど中々出来る事じゃないんだよね。


「申し訳ありません陛下。このライラ、必ずや領民を安堵させる統治をする事を改めて誓約します」


「うむ。期待しておるぞ。さすがは英雄ドレークの孫娘じゃて」


敬愛する祖父の名と共に皇帝陛下からお褒めの言葉を賜ったライラは、驚き、そして誇らしく思った。


「ははっ。祖父ドレークの名を汚す事の無き様精進してまいります」


「うむ。してナイト殿よ。余の出番は終わりかのう? 今日はバラの世話をしなければならんのじゃが」


『なんとかなりそうです。陛下、お手数をお掛けしました。』


「あ、そうじゃ。ナイト殿、報酬がてらに余の頼みを聞いてくれるかの? 」


『え? 出来る事でしたら何なりと』


──


───


庭園へ皇帝を送り届けた後、俺達はある物を彼へ大量に渡す。


「ふぉっふぉっふぉ。ありがたいのう。感謝するぞナイト殿」


『いえいえ。お安い御用ですよ陛下』


「うむうむ」


『ではまた【遊び】にきますので。失礼します──』


──


───


「なっ……いってしまったか。それにしても余をつかまえてまた遊びに来ると宣うとは。ふぉっふぉっふぉ、友人か……この様に気安く振舞ってくれる友人がいたのはいつの日であったか──」


亡き友人の顔が良所と重なり胸が熱くなった事を皇帝は自覚した。


今は遠い幼き日々がディオールドの胸に去来する。


「長生きはするものじゃないと思っておったが……中々に良いものである」



──パチリ パチリ



こころなしか剪定する音が庭園内にやさしく響いた。




                  ◇




地下広間に戻ってきた俺達は同化を解き、再びテーブルへと着座する。


「驚かせてすいませんねライラさん、リードさん」


『おじーちゃんはともだちなの! あい! 』


俺達の謝罪に対し、二人は安堵したのか愚痴をこぼす様に話始める。



「ナイト様……いくらなんでも皇帝陛下を気安くお招きにならないでください……」


ライラに続いてリードも口を開く。


「この様な事はリード商会始まって以来の出来事ですよ……陛下から頼み事など……なんて恐れ多き事なんでしょうか……」


テーブルに肘を着き頭を抱える二人を俺は励ました。


「まぁまぁいいじゃない」


「「良くありません! 」」


『ないとおこられたー! あい! 』


おいシェル。なぜお前は楽しそうにしているのだ。どっちかというとお前は共犯だぞ?


このまま責められても埒があかないと判断した俺は話を進める事にした。


「それよりも聞きたかった事があるんだ。リードさん、撤去した祠は今どこにありますか? 」


「はい。商会の倉庫へ保管してありますが──」


リードが祠の所在を喋り始めた時、巨大な地鳴りと共に大地が大きく揺れはじめた。



──ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



「シェル! 」


『あい! 』


俺は即座にシェルへ声を掛け再度同化すると、ライラさんとリードさんを担ぎ丘の上へ転移門を通じて移動した。


丘の上に移動した俺達はそこから町に起こっている事を注視し始める。


相変わらず地鳴りは続き、大地は揺れる。その状況にリードさんが錯乱し始めた。


「た、祟りだ……海の神様の祟りだ……」


『落ち着け。ただの地震だ』


落ち着くように促す俺へ取り乱したままリードさんは叫ぶ。


「じ、地震? なんですかそれは! 」


この異世界には地震というものが無いのか? ふとそう思ったがとにかく今は落ち着かせるのが先決だ。


『いいから落ち着け』


俺は苛立ちを覚えていたのか、無意識の内にリードさんへ殺気を飛ばしていた。


「ひぃ」


殺気にあてられたリードさんは口をパクパクしながら尻もちをついて後ずさる。静かになったからいいか。


次いでライラさんが海を指さし叫んだ。


「ナイト様アレは! 」


『なっ』


俺はライラさんの叫びに反応し海を見て思わず絶句する。


巨大な津波がフリージュアの港へ向かってきているのだ。


だが俺が本当に驚愕したものは津波ではなく、その後ろにみえるモノに対してだった。


あまりの巨大さ故その全貌がつかめない。


本来なら即座に気配を感じ意識をそちらへ向ける俺だが、ソレが巨大すぎる故フリージュア一帯がビーコンランプで包まれていて判断できなかったのだ。



空の雲を貫くソレは、まるで黒い月が海へと落ちたかの様だった。


とにかく巨大すぎる。


「まさか……アレが海の神なのか……」


ライラが絶望の表情を浮かべながら力無く呟く。


そんな中、俺は巨大なソレと海の境にうねうねと動く触手の様なものを発見した。


なるほどなるほど。丸い胴体にうねうねと動く触手、まぎれもなくヤツだな。


『ライラさん、海の神かどうかは分かりませんが、アレは俺の得物です』


「得物……まさか、あの様な巨大な物が蛸とでもいうのですか!? 」


まぁ普通そう思うわな。誰だってあんな巨大な蛸がいるとは思わない。


『ライラさんは港に居る領民達を丘へと避難誘導してください』


「ナイト様無茶です! いくらなんでもアレを相手にするのは──」


俺は止めに掛かるライラの口を口付けして塞ぎ、呆気に取られる彼女の耳元で囁く。


『ライラ俺を信じろ。領民達はまかせたぞ』


俺は全力で港の端まで駆け始めた。


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