哀れなる金色の君
昼食を終えた俺達はライラさんの先導で丘の奥にあるという祠へ向う。
だがそこにあったのは豪華な別荘で、祠らしき物は無かった。
「おかしいですね……御爺様のお話ではこの辺りのはずなのですが」
記憶違いなのかと困惑するライラさん。
「昔の話だから勘違いって事もあるかもしれない──」
戸惑うライラさんを励ますように話かけていると、第三者の声がそれを邪魔した。
「貴方達! わたくし達の別荘になにか御用でもあるの! 」
「ミレーネ義姉様!? なぜ義姉様がこんなところに? それとその別荘はどうしたのですか!? 」
まさかのフリージュア家登場だ。
「あ、あらライラじゃない。ごきげんよう。貴方達こそなぜここにいらっしゃったのかしら? 」
数日前の威嚇が影響したのか、俺達という事がわかった瞬間下手に出始める義姉様。
「私達は──」
ライラさんが祠について問いただそうとした時、俺はそれを手で制し口止めする。
「ナイト様? 」
「ライラ、俺に考えがある。まかせてくれないか? 」
「え? えぇ」
俺は考えを実行するべく義姉様へ話しかけた。伊達にトップ営業だったわけじゃない所を見せてあげますよ。
「いやあれですよ。港に遊びに行きましてね、途中見晴らしのよさそうなこの丘を発見しまして。そこで丘をのぼってみたら立派なこのお屋敷を見つけたんです。凄く立派なお屋敷ですよね、是非建築した大工を知りたいものです。宜しければ教えて頂けませんか? 」
急に別荘を施工した大工を紹介しろとの言葉にまたも困惑するライラさん。
方や自分の別荘を褒めちぎられた義姉様は自尊心をくすぐられたのかペラペラと喋りだす。
「貴方……たしかナイト様でいらしたわよね? 中々良い目をお持ちですわ。この別荘を建築したのはここフリージュアでも一番の大商会、【リード】商会が総力をあげて建てましたの。おかげで随分と費用が掛かりましたわ。とても貴方では賄いきれないと思いますが、一度相談に寄ってみてはいかがかしら? 」
「それはそれは。御叮嚀に有難うございます。さっそく商会へ出向いて相談させていただきます」
そして俺はライラさんとシェルを連れてその場を後にする。
後方ではまだ何か言いたげな義姉様がいたのだが完全無視で丘を下る。
「ナイト様……これはどういう意図があって」
「あぁ。仕切らせてもらって悪かったね。ああいう手合は直接取引するのではなく、周りから攻めた方が色々と都合がいいんですよ。実際こちらの質問に対して素直に答える人だと思いますか? 」
「……思いません。今考えれば軽率な行動を取ろうとしてました。御免なさい……」
「え? いやいや。ライラさんを責めてる訳じゃないので謝罪は無用ですよ。それよりあの別荘を建てた商会がわかったんです。話はそちらで聞いた方が精神的にも良いじゃありませんか」
「話の運び方といい……ナイト様は商人をなされてたのですか? 」
「あ。いやまぁ人生経験ってやつですよ。あはは」
その後納得のいかないライラさんを丸め込んで商会まで案内してもらった。
──
───
────
「いらっしゃいませ。【リード】商会へようこそ」
港の側ある大きく立派な商会。そこの受付から笑顔で応対される。
「私はライラ・フリージュアと申す者だが、会頭は今いらっしゃるか? 」
「え、あ、え!? ライラ様でいらっしゃいましたか! 申し訳ありません。その、お召し物が変わられておりまして気づきませんでした」
「あぁ気にしないでください。それより会頭は──」
「はっ。只今呼んでまいりますので少々お待ちください! 会頭ぉ! リード会頭! 」
やっぱフリージュア家次期当主。大商会でも扱いが違うなぁ。受付がライラさんってわかった瞬間大声あげてすっ飛んでいった。
それからすぐに息を切らせた恰幅の良い中年の男がやってきた。
「はぁはぁ、すみません……はぁはぁ、ライラ様、受付が粗相をしでかしたそうで……」
「落ち着いてくださいリードさん。こちらこそ急かしてしまって申し訳ない」
「と、とんでもない。私は先代領主様の時代からフリージュア家の方々に良くしてもらっている人間です。そんな大恩あるフリージュア家の、それも次期当主様に粗相があってはリード商会の名折れです」
「そう言ってもらえるとありがたい。ところで会頭、少々込み入った話で参ったのだが──」
「訳あり……ですね。かしこまりました。ではライラ様とご一行様、私に付いてきていただけますか? 」
そう言うと俺達を先導して商会の奥の奥まで移動し始める。
途中商会の食堂やら、風呂場の脱衣所やら、果ては裏の倉庫まで通り過ぎていく。
その行動にライラさんはなんら不審がってない様子なので、会頭は重要取引に使われる秘密の隠し部屋まで案内しているのだろうと思った。
そして一番奥の倉庫へ入っていく。俺達を全員入れた後会頭はランプに火を付け倉庫の扉を閉める。もちろん中から施錠して。
「さ、こちらです」
薄暗い倉庫の床にあった隠し階段を指さし、俺達を招き入れる。
中は不思議とぼんやり明るかった。床や階段がなにやら光る材質の物らしい。
物珍しそうにそれらを見ていると、会頭であるリードさんがニコニコと説明してくれた。
「そちらの御客人は蛍石をみるのは初めてですかな? あまり市場で出回らないので無理はないかと思いますが」
ほう、蛍石とな。
そう感心していると、肩に乗っかっているシェルが得意気に喋りだした。
『ないとしらないのー? しぇるはしってた! あい! 』
「むっ。シェルお前いつ知ったんだよ」
『えへへーないしょー! らいらおねーちゃんないしょにしてねー? 』
「うふふ。シェルちゃんわかりました」
『あい! 』
なんだこの疎外感は。なぜシェルが蛍石を知っている。そしてなぜライラさんと情報を共有しているのだ!
今度は俺が納得いかないのをライラさん達に丸め込まれていた。
「ささっ、こちらの部屋です」
階段を降り切った場所の前に扉があった。何という厳重な密会室なんだ。
俺達は先導に従い入室していく。そこは予想していた小部屋とは違い、それこそヴィクトール王国の大広間に匹敵するぐらいの部屋だっだ。
リードは扉を内側から閉め、俺達を中央に設置してある部屋の大きさに見合わないこじんまりとしたテーブル席へと案内した。
上座にライラさん、そして右隣りに俺達を着座させると、リードはライラさんの対面にある席へ腰を掛けた。
「ここならば盗聴や襲撃の心配もありません。さっそくですがご用件を伺いましょう」
ニコニコした顔が一変する。そこには百戦錬磨の大商人が真剣な表情を浮かべこちらの出方を待っていた。
するとライラさんは自分から説明するのではなく、俺に視線を向け頷いてきた。
なるほど。俺に任せたのだからここも俺でって事か。何という旦那を立てる良妻ライラさん。
そして俺は大商人へ口を開く。
「無礼ですが挨拶は無しで。単刀直入にお聞きしましょう。海の神が祀られていた祠の場所に別荘を建築したのはリード商会で間違いないでしょうか? 」
「……お答えしかねます」
ここまできて顧客情報を守るとは商人の鏡だねこりゃ。俺の質問を答えられなかったリードさんに今度はライラ本人が尋ね始めた。
「リードさん、この情報はこの町の将来を左右するかもしれないのです。フリージュア次期当主としてお聞きします。もう一度質問に答えてください」
「……お答えしかねます。ですがあまりにも無礼な対応ですので、どうかこの命と引き換えにご容赦頂けますでしょうか……」
「何を馬鹿な事を! 貴方の命はそんなにも軽かったのですか! 」
「何を言われましても……申し訳ございません……」
命を懸けるのか……あっぱれだリードさん。だが申し訳ない。そっちがそうならこっちも奥の手を使うまでだ。
俺はシェルと同化し門を出す。
「そ、それは!? 」
「ナイト様どうして門を……まさか!? 」
はい。そのまさかです。ですが直属の上司ではありませんよライラさん。さらに上です。
俺は門をくぐり、その人物の後ろに現れた。
──パチリ パチリ
軽快な音を立てて剪定する音が聞こえる。
「ふふーん。ふっふふーん」
どうやら彼は庭園のバラを世話していたらしい。すっかり気に入った金色のお召し物を着て機嫌よく手入れをしていた。
そんなご機嫌な彼に悪魔が後ろから囁く。
『ごきげんよう陛下』
「な、何者じゃ! な、ナイト殿ではないかー。この間もいったじゃろて、いきなりは心臓に悪いと! 」
『失礼しました。さっそくですが──』
「またか……案内せよ……」
『ではこちらへ』
話の分かる爺さんだ。阿吽の呼吸とはこの事だな。
俺に連れられ陛下は半ば諦める様にリード商会の隠し部屋へと向かった。




