港町での大蛸探し
──それにしてもこのお兄さんお盛ん過ぎやしないかい?
──エイユウハ……イロヲ……コノムモノ
──そうは言うが度が過ぎていると我も思うぞ
──そうだよね? 二日もやりっぱなしって……相手の子が只の人なら気が触れてもおかしくないよ
──シトノ……チカラアルガユエ……ブジデハアルヨウダ
──呆れて何も言えぬ。女神のヤツは何を考えておるのだ
──あははっ。でもひょっとして僕達の影響がお兄さんを色情魔にしてるのかも
──ツマリ……ワレラノナカニ……シキヨクヲモトメテイルモノガ……イルトデモイウノカ?
──たわけた事を。色欲に囚われるなど神としてありえぬわ
──そうだよねぇ……あれ、もしかして僕気づかない内に欲情してたのかな?
──お前が欲するのは死のみであろう
──あははは。ですよねぇ。あっ! わかった! フィリーアが欲情し──
『貴方達……余計な事をしないで静かに寝ていなさい』
──バルードメ……ヨケイナコトヲ……
──まったくだ。せっかっくの暇つぶしが台無しだ……
──え、えぇー。そんなぁー。あ、でも怒ったってことは図星だったのかも……
──
───
────
「うわぁっ」
悪夢を見ていた俺は思わず叫んで目を覚ました。それにしても今まで倒した邪神共が夢で現れるとか……
俺の声を聞いて隣で寝ていたライラさんが目を覚ます。
「おはようございますナイト様……どうかなされましたか? 」
「あ、あぁ。ちょっと嫌な夢を見てて……起こしちゃって悪かったね」
「ナイト様でも悪夢にうなされる事があるのですね。少し嬉しいかもしれません」
「嬉しい? どうして? 」
「うふふ。同じ人間なんだなって思ったのです」
何が同じなものか。ライラさん、昨晩までの出来事を思い出してください……
ライラさんを森の家に連れてきてからずっと俺達は戦い続けた。
彼女は初陣だったらしく当初痛みを訴えていたのだが、俺はすかさずアコを駆使し痛みを取り除く。
さすがフリージュア家次期当主。すぐに慣れ始めたばかりか、十八という若さやシェルと同化した事により見習い騎士があっというまに百戦錬磨の猛将と化した。
体を重ねる度に甘い体臭が鼻孔を貫き、俺の思考を停止させる。獣の様に襲い掛かった俺の攻撃に彼女はあっという間に果てた。
だがそれで終わりにはならかった。
俺は勝利の余韻にひたりながら倒れるライラの髪をなでていると、彼女にガシリと腕を掴まれる。
ライラは初めて果てた事で夜戦の味を占めたらしく、その瞳に欲情の炎を漲らせていた。
それから長期戦がはじまる。初陣の娘に負けるわけにはいかないと必死にあがらう俺。
弾が尽き、刀が折れても抵抗を続けた結果、二日目の夜に両者共倒れと相成った──
それなのに翌朝からこの色気に富んだ笑顔を見せられると……イカン、残弾はもう無いのだ。
「どうかなさいましたか? そんなに苦しそうな顔をされますと気になります」
ライラさんは目を瞑り欲情を抑え込んでいる俺へ心配しながら顔を近づけてくる。ライラさんの甘い匂いがまたも俺の思考を停止させた。
もういいや、押し倒してしまおう。
そう思った時、側で寝ているシェルが寝言を発した。
『め! なの! ねてなさいなの! 』
え? どゆこと? 寝言もおかしいのだが、その表情がおかしい。いつもの愛らしい寝顔ではなく、眉間にシワを寄せて何かに怒っているようだ。
おかげで冷静になった俺はライラさんに話しかける。
「ライラさん、大丈夫ですよ」
「そうですか……安心しました」
「それよりシェルの様子がおかしい。いつもはこんな表情をみせないのですが……」
「うふふ。シェルちゃんもナイト様と似てますね。同じ時間に同じように夢でうなされるなんて」
いつのまにシェルちゃん呼び!? まぁ同化後は仲良くなるもんなシェルは。ソフィアの時だってそーだったし。
それよりもだ。
同じ時間に悪夢……タイミングが良すぎる。もしかして邪神討伐の影響が出始めているのか?
不安になった俺は寝ているシェルの手を取り、心の中で話しかける。
──おいシェル、大丈夫か?
同時にシェルの目がカッと開き、甲高い声を寝室に響かせた。
『ないと! たこなの! とりなの! いそぐなの! 』
どうやら時間が無いらしい。
「わかったシェル。ライラさん悪いけど時間が無いらしい。急ぎフリージュアに戻って蛸の情報を集めたいのだが」
「私はナイト様のお目付け役です。どこへでもお供しますわ」
『しゅっぱつなの! あい! 』
こうして俺達はタコを求めてフリージュアへと戻った。
◇
「貴方! あのような無礼者に対して何もしないとは何事ですか! 」
港町フリージュアの中心地にある領主の屋敷に婦人の怒声が響く。
「うるさいっ! 手を出したくても出せないのだ! 苛立ちを募らせてるのはお前だけではないぞっ! 」
フリージュア家現当主のドミニクは暴言と共にある書簡を正妻エレーラへ投げつけた。
「まぁ! なんて乱暴な人なんでしょう! このお手紙がどうしたと……これは皇室のご紋章!? 」
書簡に押されていた皇室の紋章を目にしたエレーラは驚き言葉を失う。
「中身を見てみろ。私が苛立つ原因がすぐにわかるであろう」
エレーラはドミニクに従い恐る恐る書簡を広げ内容を確認した。
勅令
フリージュア当主ドミニク・フリージュア及びその家に連なる者達は以下の事を厳守せよ。
一つ 次期当主ライラ・フリージュア及びその実母レイラ・フリージュアに害を与えぬこと
一つ ライラ・フリージュアが連れしキドナイトなる者。この者に逆らう事能わず
一つ 勅命破りし時上記三名を除くフリージュア家当主及びそれに連なりし者は悉く死を与える
ラドルア帝国皇帝ディオールド・ラドルア
「な……何故この様な……」
あまりの内容に絶句するエレーラ。そんな彼女に対しドミニクは力なく喋りかける。
「どうやらあの無礼者は帝室と近しき人物であったようだ……そうでなければ勅命が早馬でくる筈がない」
「貴方……貴方これから一体どうするおつもりですか」
「どうするもこうするも無い。レイラの口を塞ごうにも手は出せず、あの三人はいつのまにか居なくなっておるのだ」
この状況に二人は思案に暮れるしか無かった。
◇
『うみなのー! あい! 』
久しぶりの海にはしゃぐシェル。俺の肩から落ちんばかりのはしゃぎっぷりだ。
シェルにとって海は港町ソロー以来か? ソフィアと共に俺を追っていた時ドーファ領の海はみてるのかなぁ?
「うふふ。シェルちゃん海が大好きなんですね」
『しぇるうみすきー! あい! 』
そりゃ一応貝殻だもんな。海好きな事に合点がいく。
今俺達はフリージュアの港へやってきている。整備された港湾に沢山の商船が犇めいていた。
「それにしても……ナイト様が創ってくれたこの着物、すごく機能的で動きやすいですね! 」
「嫁や一部関係者にあげてるのだけど気に入ってもらえたかな? 」
「はい! とっても! 」
どうやらライラさんに気に入ってもらえたようだ。
何をあげたって? そりゃアレです。ジャージセットですよ。
俺の中で妖艶なイメージがすっかり定着してしまったライラさんには、紫ジャージと黒地に赤文字で【夜戦の女王らいら】と書かれたTシャツをあげた。
傍から見ればライラさんは帯刀しているし、本物の夜戦が得意な方としか見られないだろう。本当の意味は俺達しかわからないのである。
『しぇるとおそろい! あい! 』
「はい。おそろいですね! 」
俺はさっそく海やジャージに高揚している二人を連れて情報を集め始めた。
──
───
あれから数時間、港で有益な情報は出てこなかった。どれも童話や神話の類ばかりなのだ。
「なかなか良い情報がありませんでしたね……」
『ないとおなかすいたー! はんばーぐ! あい! 』
日も高く昇りシェルのお腹も空腹を訴えてきている。
俺は昼休憩にしようと二人に提案し、港全体が見えるちょっとした丘へと向かった。
丘に着くと俺はテーブルとイスを出し、サンドイッチセットとシェル用ハンバーグ、そして飲み物を創り出す。
「それじゃ頂きますか」
「はい」
『あい! 』
──頂きます
「ナイト様の魔法は相変わらず凄いですね……それに美味しい! 」
上品ではあるが食べる速度は尋常じゃないライラさん。やはりこの世界は例外無くハラペコ達で出来ているのか。
「ライラさんに喜んでもらえてうれしいです。シェルはどうだ、おいしいか? 」
『はんばーぐおいしい! あい! 』
うむ。よく食べる事は良い事だ。
そんな風に昼食を楽しんでいた時、ライラさんが思い出したかのように話始めた。
「そういえばこの丘の奥に……海の神を祀る祠があると御爺様から聞いたことがありますわ」
ほう、海の神とな。なにやら蛸と関係がありそうだ。
「では食事が終わったらそこへ行ってみましょう」
「はい」
『あい! 』
こうして食後に祠へと向かう事が決まった。
それにしてもよく食べる。ソフィアにしてもライラにしても太らないのは何故だ?
シェルは例外としてやはり騎士の鍛錬でカロリーが消費されるのかな?
俺はカロリーの行方に興味を持ちつつ、サンドイッチを頬張るのであった。




