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降臨する破壊神と暗黒神

『あそこに群がる軍隊を片付ければ残りはベルーラだけか』


俺はそう呟きながら中心地にあるベルーラの城まで歩いていた。


とにかく怠かった。早く終わらせたい。そう思っていたんだ。



──主様、中心部の城でなにやら異様な気配がしてきました。


シェルの言葉と同時に俺も違和感を感じた。これは……人じゃない何かがいるのか?


──あ、消えました。


うん。たしかに消えた。一瞬だったが気持ち悪い気配がしたんだ。


そう思ってた時それは起こった。



──ゴーン ゴーン ゴーン



シェル! これは邪神の鐘か!?


──はい。ですがその前触れが一切ありませんでした。これは異常です。


異常はそれだけではなかった。邪神の降臨を告げる鐘の音が多重に聞こえ始めたんだ。



──ゴゴーン ゴゴーン ゴゴーン



おいシェル。これってどういう事だ!? 鐘の音がおかしいぞ。


──主様不味いです。邪神が……


邪神がどうした? おいシェルしっかりしろ。


──邪神が二体降臨しました。それもすでに依り代を手にして現世に存在しています……これは……


どうやら女神の御使いであるシェルにとっても思案の外らしい。


『シェル。とにかくやるしかない。邪神を前回の様に異空間へ閉じ込められないか?』


異空間へ閉じ込めれば間髪入れずアコヤに喰わせる。前回と同様に邪神を屠ろうとしたんだ。


──申し訳ありません。この状態で異空間へ閉じ込めるのは不可能です。


門の中では依り代を手にしようが関係ないが、現世に依り代を手にして存在してしまうと閉じ込められないらしい。


だとしたら。


『このままだと不味いけど依り代を破壊すれば門に閉じ込められるって認識でいいのか? 』


──はい。ですが……二体の邪神を一辺に破壊となるとさすがに厳しいです。


ここまで弱気なシェルははじめてみた。御使いの使命として邪神を討伐しなければならないはずなのに。


『なにが問題なんだ? シェル言ってみろ』


──邪神の依り代を破壊する手段が限られているからです。それと降臨した邪神がどのような者なのか分からないのでより難しいと思います。


『色々と不利か。いっそ一時退却するか? 』


三十六計なんとやらだ。


──ですがこのまま放置してもより不味い結果を生むだけです。


『というと? 』


シェルは退却はもっと不味いという。内容はこうだ。


撤退したとして今いる領地の人間は例外なく全滅する。


人間の恐怖や絶望と共に魂を喰らい邪神の力は増大する。


そうなると現状より手に負えなくなりやがて国が滅ぶ。それでけではなく世界に波及していくとの事。


撤退は無しか。あー、めんどくさいなコレ。


『シェルー門以外で邪神に有効な手段を教えて』


──有効な手段ですか……やはり神々の武具を用いる事でしょうか。只この世界にその様な物があるとは思えません。


神々の武具か。しかもこの世界には無いってそれ詰んでるな。ん? まてよ。


『なぁシェル嘘は良くないぞ。この手の中にあるじゃないか』


俺は不気味な鎌の存在を思い出す。大草原の戦いで手に入れた鎌だ。


──あれは危険です! なぜ念入りに封印を施したのか考慮してほしいです!


『とはいっても時間がなさそうだぞ』


そう。目の前に展開していたベルーラの軍隊がその後方より壊滅しはじめていたのだ。



城が崩壊しながら


飛び散る兵の躯、躯、躯



阿鼻叫喚の地獄絵図だった。



                  ◇



時間は少し遡る。ベルーラが【トート】と名乗る老執事から古びた宝箱を手に入れ、己の欲望を解き放ったのだ。


すると古びた宝箱は崩れ落ち、両の手には黒き心臓が現れ脈打っていた。


やがて心臓から触手の様な血管がベルーラの体に浸食しはじめる。


「これは……力がみなぎる……ウヒッ、ヒッヒッヒッヒ。イイゾ、イーヒッヒッヒッヒ! 」


『ナルホド……コノチカラヲモッテ……アノモノタチヲホロボセ……トイウコトカ』


自分の欲望が叶うと確信に近い気持ちを手に入れたベルーラだがそれだけでは済まなかった。


『ンン? アノモタチトハ……ダレダ? ワタシハ……ナニモノダ……ワカラヌ! ワカラヌゾ! 』


心臓はベルーラと一体になり胸中で激しく脈打ち始める。野望を叶える力を手にした代償は己の存在だったのだ。


ベルーラだったものは只々怒りを募らせていく。己は何者なのか? 何の為に存在しているのか? なぜこの様な怒りを抱えているのか? すべての現象が許せなかった。


『セカイヲホロボス……ソウダ……ワレハ』



──ワレハ破壊神ダグザ・トゥアハ


──不滅ノ心臓ヲモチ


──コノセカイヲホロボスソンザイ



本来の使命と名前を思い出した破壊神は歓喜と共に咆哮を上げる。


その体はみるみる増幅し形を変えた。巨大な巨躯にふさわしい大槌の様な右腕。すべてを引き裂く爪を持つ左手。かつて降臨した邪神アークとはまた違う恐ろしさが漂っていた。


周囲に起こった異常な現象はそれだけにとどまらなかった。破壊神ダグザの影から漆黒のローブを纏った異物が現れる。それは復活した破壊神に向かって喋りだした。


『クククカカカカ。久しぶりだねダグザ。漸く復活したのかい? 随分とのろまだったねぇ。とはいえ僕も君と一緒に封印されてしまってたから同じなのだけどね』


『バルード・カーヴェ。カ』


『そうだとも! 暗黒神ことバルード・カーヴェ様だよ! 大悪霊の柱ともいわれてる僕が女神なんぞに後れをとってこのざまだったけどね! 』


自分を暗黒神と名乗った者は言葉こそ幼さを感じさせる物だが、その風貌は悪霊そのものだった。


漆黒のローブを頭から被り、のぞかせるその顔は薄汚れた骨だけだ。


『んん? なにやらここは人間が沢山居るみたいだね。おいしそうな矮小な魂がゴロゴロしてる! ダグザ、久しぶりの現世降臨でお腹が減ってるでしょ? 一緒にご飯たべようよ! 』


『ワレニサシズ……ヲスルナ。ワレハワレノ……ノゾムママニ』


『ちぇ。つまんないの。相変わらず我儘だね破壊神は。まーいいや! 僕一人で楽しんでくるよ。じゃーね! 』


暗黒神バルードはそう言うとさっそく人が群がる城門前まで飛び立っていった。


破壊神ダグザは邪魔者がいなくなった城を嬉々として破壊し始める。


こうして二人の邪神により数百年続いたウィリアム家の崩壊がはじまったのだ。



                   ◇



「ひぃいいいいいいいい」


「たたすけてぇええええええええええ」


城門前に結集していた兵士達は後方から襲い掛かる黒布の骸骨に生気を吸われ果てていく。


『あっはっはっは! おいしい! おいしいなやっぱり! あぁ人間の矮小な魂を大量に吸うってのはやっぱり甘美だ! 歌え歌え! あぁ絶望の歌声がなんて心地いいんだ! 』


「からだが動かない……あぁああああああああああああああああ」


本来なら蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う状態なのだが兵士達の体が動かない。いや動けないのだ。


『逃げれると思うの? そんなの無理無理! おいしい御馳走が目の前から遠ざかるのを黙って見てる馬鹿はいないでしょう? キャッハッハッハ! 』


動くものは餌。それ以外の感情を持っていない暗黒神バルードは次々と吸い尽くす。残るのはガラガラと音をたてて転がる兵士達の装備だけだった。


『たしかに御馳走を逃がすってのは無いよな』


バルードに同意する言葉が一帯に響く。と同時に頭上から真っ二つにされるバルード。


『へぇ? 君もそう思う? ところで君だれ? 』


突然現れた同じような漆黒の姿をした者へ楽し気に話しかけるバルード。割かれた半身は一瞬にして消え去り、残った半身からは染み出る様に骸骨の体が復元される。


『名乗る程の者じゃねーよ。通りすがりの神殺しだ』


良所は狂喜を張り詰めた顔で暗黒神バルードに返事をする。その手には禍々しい気を一層増幅させた死鎌を携えて。


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