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ソフィアの焦り 増え続ける恋敵

「あ、あの……」


レティシアは困惑していた。


彼女は昼食を二階執務室にいるアルフレードに届けた後、洗濯物を外に干そうとしていた。


洗いたての洗濯物が一杯に入っている篭を抱えて、玄関から出ようとしていたのだ。


そんな時目の前に見覚えのある門と、白銀の鎧を着た女性騎士が馬にまたがって玄関ホールに居たのだから困惑するのも不思議は無い。


『これは失礼した。私は白銀騎士団大将ソフィア・ヴィクトール。突然の来訪に驚かせて申し訳ない』


ソフィア・ヴィクトール。その名を聞いたレティシアはさらに驚く。


「そ、ソフィア・ヴィクトール様って……王国の英雄ソフィア殿下ですか! 」


『英雄とは恥ずかしいな。だがソフィアで間違いない』


「し、失礼しました。只今領主アルフレードを呼びますので、少々お待ちください! 」


レティシアはそう言うと、急いで二階へ駆けあがっていく。


『ここは玄関内みたいだな。このままだと不味いから一旦外へでるか』


そうおもったソフィアは玄関を開け、愛馬を引き連れて外で待機した。



──ダッダッダッダ



階段を駆け下り、アルフレードは外で待機しているソフィアの元へ駆けつける。


「ソフィア殿下! あぁ、やはりソフィア殿下で御座いますか。アルフレードです殿下」


『アルフレードか、久しいな。元気にしてたか』


「勿論でございます」


帝国との騒乱の際、ソフィアは常に陣頭に立って指揮をしていた。


アルフレードも参陣していた経緯もあり、二人は知り合いで戦友だった。


久しぶりの再会で昔話に花を咲かせたいところだが、王国の英雄であるソフィアがわざわざ単独でドーファに来たことを考えるとご用向きを即座に尋ねなければならなかった。


「して殿下、何故このような辺境地へいらっしゃったのですか? 」


『あぁ、単刀直入に言う。私の婚約者、ナイトを探していてな』


「婚約者、ナイト……えぇえええええええええ!? 」


驚くのも無理は無い。アルフは開拓地にて開発に従事していたが故、王都の動向などには疎かったのだ。


しかもつい最近まで共に開墾に従事していたナイトが相手となると驚きは何倍にもなる。


「ソフィア殿下、まずはご婚約おめでとうございます」


『ありがとう』


「お相手のナイト殿ですが、ドーファを発ってから数日が経過しておりますので今どこに居るかは分かり兼ねます。申し訳ありません」


『やはり他の王室派領地へ向かっていたか……了解した。では私も街道を伝って他の領地へ向かう』


急いでナイトの後を追おうとしたソフィアに、あわててアルフレードが止めに入る。


「ソフィア殿下、急ぎの用とは思いますがお願いがあります」


『うむ、申してみよ』


「ここドーファは殿下がお探しのナイト殿に救われた領地でございます。どうかナイト殿が作り上げたこの地を拝見していただけないでしょうか?」


アルフレードは恩人の作り上げた奇跡の様な開拓地ドーファを、関係者であるソフィアに見せたかったのだ。


『ナイトが作り上げた……うむ、是非見てみたい。案内を頼めるか? 』


「ははっ」


アルフレードは自分の馬にまたがり、ソフィアを先導しながらドーファを巡った。


──


───


────


『すごい……すごいなアルフレード! これをナイトが作り上げたのか』


「おっしゃる通りです殿下。広大な田畑に留まらず、塩害対策、水源整備、沿岸にある塩の工場。そして隣接する森や街道に潜んでいた魔物の討伐。それら全てナイト殿一人でやりとげました」


『本当に凄い。ナイトはどこまで規格外なのだ』


「それと、こちらはナイト殿から預かっている物なのですが。御覧頂けますか? 」


『うむ』


ドーファの開発状況に驚きナイトに対して尊敬の念を抱くソフィアに、アルフレードは一つの焼き印を見せた。


『これは……私の名前……』


「はい。ナイト殿はここドーファをソフィア殿下直轄地として治めていくと申しておりました。今後ドーファで生産される品にはこちらの焼き印がもれなく押される予定です」


『何故ここまで……』


自分の功績を誇るどころか、あっさりと他人へ渡してしまうナイトの行動に困惑するソフィア。


そんなソフィアにアルフレードは笑顔で報告する。


「ソフィア殿下。ナイト殿……いえ、ナイトはある晩の宴会で酒に酔いながら言ってましたよ。惚れた女の悩みをぶっ飛ばしてさっさと王都に戻ると。それから自分が好き勝手やらせてもらえるのは尻をふいてくれる良い女がいるからだ、と」


話を聞いたソフィアは顔を真っ赤にしながらアルフレードから視線をそらす。


『報告……感謝するぞアルフレード』


そう返答したソフィアに、アルフレードは豪快に笑うと話始めた。


「殿下の婚約者がナイトでよかったですよ。あれ程気持ちの良い男はそうそういませんから。さぁ殿下、婚約者の元へ急ぎましょう。他に良い女が居たらナイトのヤツがホイホイついていっちゃいますよ」


その言葉を聞いたソフィアはハッとして真顔に戻る。ナイトの鼻は常に伸びやすいのだ、それをソフィアは痛い程知っているが故である。


『アルフレード、今後ともドーファの領地はソフィア・ヴィクトールの名の元に貴殿に一任する。何か問題があれば遠慮なく私宛に王都へ早馬を出せ』


「ははっ」


『では達者でな。我は我が婚約者の身柄を早急に確保してまいる! ハッ』


ソフィアは逸る気持ちを抑えつつ、愛しい婚約者の元へ愛馬を駆けていくのであった。




                   ◇




それから二週間が経過した。今だソフィアはナイトを捕捉できないでいた。


──何故だ、何故追いつかない!


ソフィアは焦っていた。肝心のナイトは発見できないのだが、行く先々で歓呼の嵐による歓迎を受けていたからだ。


穀物増産はもちろんの事、やれ砂糖工場を建ててくれただの、やれ高品質な綿畑を作ってくれただの、数多に上るナイトの功績。


各王室派の諸侯領主は全員例外なくナイトの功績を喜んでおり、嬉々としてソフィアへ報告をした。


それについてはソフィアも喜んだ。喜んだのだが、悩みの種は増えていた。そう、女性関係だ。


貴族の子弟を含む無数の女性達が、口々にナイトを褒め、又は慕い、その目は恋に落ちている者も少なくなかったからだ。


──ライバルが増えてないか!?


ある王室派伯爵令嬢は言う。


「ナイト様は本当に素晴らしいお方ですの……病床にあった御爺様を救ってくださって。いいえ、そればかりではありませんわ! 私にも素晴らしい逸話やおとぎ話を語ってくれましたの。それにあの甘すぎない美味なお菓子の数々……あぁ、愛しのナイト様、今何処におられるのでしょうか……」


不味い。本格的に不味い。


婚約の発表は済ませたが、相手がナイトという事を公にしていない以上、私の婚約者に手を出さないで! とは言えないのだ。


シェルちゃん……どうしよう


思わずソフィアは心中で弱音を吐く。


──大丈夫? ……だとは思います……?


シェルちゃん!?


シェルまさかの疑問形だ。


ソフィアは焦る。だが、いくら追いかけても追いつかない。気づけば王都まで二、三日の場所まで戻っていたのだ。


ここまで探して居ないとなると……王都に戻っているとしか考えられない。


そう考えたソフィアは真っ直ぐ王都へ向かった。




                  ◇




ここは王都城下町。そこの一角にある酒場の中、まだ日も高いのにどんちゃん騒ぎを起こす集団があった。


町娘から女冒険者、果は下級貴族の娘たちまでに囲まれて黒い上下のジャージを着た男がご機嫌になりながら冷えたエールを飲んでいた。


「だーはっはっは、ほれほれみんなも飲めー! 今日も俺の奢り、うん、用意するんだから奢りになるのかぁ? まぁいいや! 金貨何枚か払ったし! 店もご機嫌、俺もご機嫌。飲め飲めー! 」


──かんぱーい!


そうソフィアが血眼になって探している張本人、良所内人である。


十数にも上る王室派の領地へ赴き、ありとあらゆる問題を解決してきた。


数多の感謝状は王宮宛に近衛隊長のレオナルドを通じて渡してあり、褒美の一時金として少なくない金貨を受け取っていた。


仕事をやり切った達成感をかみしめるように、気の知れた知人達と宴会をひらいていたのである。


羽振りの良い噂を聞いた町娘や冒険者、貴族の婦人方もこの宴に興味を示し参加してきた。


そして今に至る。


「ふぉーいぐりーどー、のんでるくぁー? 」


「ダッハッハッハ。ソローで見た酔っ払いのにーちゃんよりさらにできあがってるじゃねーか! 」


「よっぱらってねーっすよぉ! くれいぐー、こないだのあのとっきゅーしゅねーのかー? 」


「ナイト殿ぉ、あの酒は希少なんですよぉ。ナイト殿はあの酒にぃ負けないぐらいのぉ酒だせないんですかぁ?」


いつもは酔っ払っても呂律がまわるクレイグだが、今日は珍しくハメを外している。


「おぉーそらった! これをみんなでのみゅぞー! 」


俺はベロンベロンになりながら高級ブランデーを創り出す。


──おぉ!


見たことも無い酒の登場に会場は盛り上がる。


さぁ、酔っ払いの宴はこれからだ。


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