新たなる領地へ
良所がドーファに来てから一週間、朝からドーファ領は活気に溢れていた。
理由は諸問題の解決にある。
当面の食糧問題が解決しただけではなく、領土周辺の魔物や海風による塩害などの悩みを一挙に解決した影響だ。
さらに水源整備も終わり、開墾地に溜まった塩などを全て除去していた。
開拓地での良所の仕事はほぼ終わったと言って良い。
その結果、領主アルフレードが予想した以上に開発が進んでいる。
当初計画していた田畑面積の10倍程開墾できる様になり、収穫を迎え年貢を納めても十分すぎる備蓄が期待できる。つまり翌年以降の安定した領土経営が保証された形だ。
又、周辺一帯の魔物の問題が解決した事により、警備に掛かる負担が激減。他の作業に多くの人員をまわせる事で発展をさらに加速させる。
当然領主アルフレードの仕事は増えていく。予想以上の開発速度は新しい事業の早期創造を求められるからだ。
今日も午前中から領主の館でアルフレードの呻き声が響く。
「うぅ。ナイト助けてくれ、俺は考える事より体を動かす方が得意なんだよ」
「ダメ」
おはようございます、きどないとです。
相変わらずアルフが朝からボヤいてますが、いつもの事なので気にしないでください。
フェルは朝からドーファ周辺を警備しながらお散歩しております。
アルフは口ではああ言ってますが、責任感が強く何だかんだ仕事をこなすんですよね。ですので問題はありません。
開墾作業が軌道に乗りある程度領民にまかせられる今、俺達はドーファの名産品を考えております。
「思いつかん。レティシアはなにか妙案は無いか? 」
「難しいですね……」
煮詰まってますなぁ。大体新しい事を創造するのって苦労しますもんね。
でもこのままじゃ埒が明かないので情報を引き出してみるか、俺の計画もあるし。
「なぁアルフ、ベルーラ侯爵って知ってるか? 」
「あぁ? 朝から胸糞悪い名前だしてどうした」
どうやらアルフ達王室派の貴族には天敵みたいな存在の様だ。
「ちょっと聞きたい事があってな。ベルーラが治める領土の特産品とか知ってたら教えてもらいたいのだが」
「ウィリアム領の特産品か。主な品は穀物類だな。それと岩塩と鉄が有名だ」
ふむ、やはり穀物の生産が主力みたいだな。そりゃこれだけ影響を及ぼすぐらいだからね。
あとは岩塩と鉄か。
「なぁアルフ、ウィリアム領の鉄生産ってヴィクトールの何割ぐらいなんだ? 」
「鉄? 二、三割ぐらいか。ちなみに王室派の領地内で六割程生産してるから影響は無い」
ほうほう、鉄は問題ないか。
「んじゃ岩塩の生産量はどうなんだ? 」
「うーん、岩塩は強いな。アイツらの領地に豊富な資源場がいくつもある。だが王室派にも少なからずあるから影響はでないと思う」
なるほど。岩塩、塩だな。つまり良質な塩が安価で出回れば少なからず打撃が与えられると。
面白いじゃないか。
「良し決めた」
唐突な俺の発言に驚くアルフ。
「は? 何を決めたって? 」
決まってるだろ。
「名産品だよ。塩だ、綺麗な海水を利用して塩を作る。それも高品質で大量に」
「お前、それってベルーラの野郎に喧嘩売る事になるぞ。しかも海水を利用だと? 粗悪な塩しか出来ないじゃないか。高品質な塩が海水から出来るんだったら、皆生産してるぞ」
なるほどね。この世界で海水を利用して作る塩は粗悪な物しか出回ってないのか。好都合じゃないか。
「それからナイト、仮に作れたとしても岩塩生産をしている他の王室派諸侯と軋轢が生まれる。それは具合が悪い。なるべくなら止めて欲しいのだが」
アルフ良く考えてるじゃないか。その頭の回転力を名産品の創造に使ってくれ。
「その点は問題ない」
「どう問題ないんだ? 」
「ドーファの塩事業が安定して、王室派の領土に安定供給できたら岩塩事業から撤退させる」
「そんな事諸侯が許すはずがないじゃないか」
「岩塩なんぞより美味しい事業を作ればいいんだよ。俺が」
「あ」
全てを理解したアルフレードはもはや反論する事を止めていた。ただアルフの心配事が消えたわけじゃない、もっとも影響を受けるであろうベルーラ侯爵の件だ。
「王室派はそれで良いとして、あのベルーラ侯爵が黙ってると思うか? 」
「黙るも何も先に仕掛けて来たのはアイツだ。結果ウィリアム領に影響が出ようが関係ない」
「そうじゃない。あの野郎は我欲の為には手段を選ばないって事だ。もし実力行使してきたらどう対応するんだ? 」
「それこそ俺の望み通り。実力行使してきた瞬間ベルーラの領地を滅ぼす」
「なっ」
滅ぼすと言い切った良所を見て、アルフレードは初めて会った日を思い出す。
禍々しい姿で、国王とも対等に接する謎の騎士。
国ごと滅ぼしかねない圧倒的威圧感。
ナイトは本気だ。そう確信せざるを得なかった。
「とにかく無茶はするなよナイト。俺はお前の友人のつもりだ、友人が危険な事に巻き込まれるのは嫌だからな」
「心配しすぎると禿げるぞアルフ」
「禿げねーよ! 」
「とにかくこれで決定な。あと心配はいらないよアルフ。ドーファの塩事業はソフィア王女の名前で保護させるから」
「はぁ!? 」
次から次へと理解の範疇を超える言葉がアルフに投げかけられる。
だがアルフはいつしか「ナイトの事だから」と半ばあきらめて聞くようになった。
◇
「よーし、塩生産所完成! 」
綺麗な浜辺の一角に、俺は大量生産できる塩工場を建てた。
中の作りは単純だ。
海水をくみ上げる錆びず腐食しない手動ポンプとろ過装置。
ろ過された海水を軽く煮詰める第一工程を経て、綺麗な水と合わせて再度ろ過し、完全に煮詰める最終工程。
あとは焦がさず水分を飛ばした後、ガラス張りの乾燥室で天日干しし、製品化の流れだ。
「アルフ、以上が塩生産のしくみだ。鍋の火加減や真水、ろ過装置に使っている細かい石等の管理をしっかりしてれば大丈夫だ」
「生産量は? 調整はしなくていいのか? 」
「従事する人員は少数で大丈夫でしょ。無理させない程度に生産してくれ」
「わかった」
こうして俺のドーファ開発事業は終了した。
◇
塩の工場が出来た翌日
俺はフェルと共にドーファを旅立つ準備をしていた。
着任してから8日の短い期間だったが、すっかりドーファに愛着が沸いた。
旅館を回収する予定だったのだが、秋の収穫が終わるまで保険として残すことに。
滞在中にアルフを始め領民達が誠実な人達だと分かったことが理由かもしれない。
「んじゃ最後にこれを渡しとくからヨロシクね」
俺はアルフに一本の焼き印を渡した。
これから流通させる物品には全てこの焼き印が押される事になる。
それはソフィア・ヴィクトールの名前と薔薇、そして剣が模ってある。
「おぉ、これは素晴らしい」
「だろ? これでバンバン稼いじゃってよアルフ」
「ナイト、ドーファの代表として改めて感謝申しあげる。ありがとう」
「おう。さてと、そろそろ行くか。皆にヨロシクいっといて」
「グォン! 」
「あぁもちろんだ」
そう言葉を交わして俺とフェルはドーファの地を後にした。次に目指すは他の王室派領地。
整備された街道を颯爽と走り抜け、次なる場所へ。
◇
良所達がドーファを出発して数日、王都ではソフィアが旅支度をはじめていた。
原因は国王ウィリスからの説明だった。
ソフィアが目を覚ました後、国王ウィリスは謝罪と共に状況が好転した旨を彼女に伝えた。
それを聞いたソフィアは安堵しつつ、国王達の仕事を手伝っていたのだが。
情報が漏れてしまうのを恐れた国王が、良所の名前を出さずにあくまでホールデン辺境伯からの限定的取引だと説明していたのだ。
だが良所の不在が長く続けば状況を説明せざるを得ず、ソフィアに問い詰められた国王ウィリスが話すに至った。
「もうシェルちゃん、なんで今まで黙っていたの」
『シェルはわるくないもん。シェルはおねーちゃんまもってたもん』
「はぁ。ごめんねシェルちゃん。シェルちゃんは悪くなかったわ」
ため息交じりに旅支度を進めるソフィア。
「それにしても……ナイトはいつも私の悩みを解決してくれるばかりで……」
ソフィアは自己嫌悪に陥る。余裕が無かったとはいえ、ナイトに対しそっけない態度を取ってしまっていた。その事が尾を引いていたのだ。
「私、ナイトの邪魔になってるのかな……」
後ろ向きな言葉を吐くソフィアに、シェルが背中を押す。
『そふぃあおねーちゃんはないとにあいたいの?あいたくないの? 』
会いたい。
今すぐ会いたい。
会って謝りたい、感謝を伝えたい。そして仲直りをしたい。
シェルの言葉がソフィアの素直な気持ちを呼び起こさせる。
「シェルちゃん、私はナイトが好きだ、大好きだ。今すぐ会いたいの」
『あい! ないとさがしにしゅっぱつなの! あい! 』
シェルと同化してドーファへの門を開くと、愛馬にまたがり出発する。
『まっててねナイト。今すぐ会いに行くから』




