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溢れ出す自責の念と怒り

「このままでは秋の収穫前に大きな影響がでます。これ程とは……父上、如何なされます? 」


「ううむ、想像以上の影響だな。ホールデン辺境伯が海路を駆使して物資を集めるとは申せ、王都にまで甚大な影響が出るとは……」


ここは王族しか入室を許されない王宮の別邸。連日連夜国王ウィリスと王太子フレイが対策を練っていた。


いてもたってもいられないソフィアがちょくちょく顔をだしては、二人の指示を受けていた。


その指示の一つに辺境の開拓地を改善しろという物が含まれている。


無論、重責を担う仕事ではないのだが。



だが、二人の様子に事の深刻さが十分理解出来るソフィアは、どうしても口にだしてしまうのであった。


「お父様、お兄様。私にも事の重大さが解ります。このままでは国が傾いてしまう、と。ですから私が単独でウィリアム家に談判してきます。それがヴィクトールにとって最善の道だと思いますから」


これで何度目だろうか、自分を犠牲に問題を解決しようとするソフィアを止めるのは。


そう思いつつ、国王ウィリスは愛娘を生贄にすることは許さなかった。


「いいかげんにしなさい、これで何度目だ。気持ちは痛い程伝わるが、それで解決したとして何を失う」


続けて王太子フレイが続く。


「父上や私の心が持たぬわ。いいかいソフィア、私達だけではない。お前自身も、そして何より領民が嘆き悲しむ」


「ですが……」


王室の三人は疲れを滲ませ、必死にもがいている。だが光明は射してこない。


今日も解決に至る決定打を見いだせずに会議は終わり、ソフィアは良所と共有している自身の寝室へ帰って行った。


廊下を歩く彼女は、表情をより深刻にしながら顔を下げる。


──このままでは領民が飢え、最悪内戦が起こってしまう


だとしてもお父様やお兄様は私の提案を受け入れてはくれない


なにより、ナイトにはどう説明すれば良いのか──



誰にも相談する事ができない。ソフィアは日が経つにつれて孤独感を深めていった。




                   ◇




グリード達との晩餐が終わり、俺は今城内の寝室でソフィアを待っていた。


夜も大分深けて来たが、今だソフィアは戻ってこないのだ。


「なぁシェル。ソフィアは何を抱えてるんだ? 」


『うーん。いまはわかんない』


だよな。シェルとソフィアが同化しなくなって数日が経過してるもんな。


寝室でも二言三言喋って倒れる様に寝るから話も聞けなかったし。


とにかく今日は何が何でも話しを聞こう、これ以上間があけば取返しのつかない事が起きるかもしれない。


そう考えていると力なく扉が開く。ソフィアが戻ってきた様だ。


「あ、ナイトまだ起きていたのか。それとも起こしてしまったのか? それならすまない……」


何を謝っているんだ。それも焦燥しきった深刻な顔で、俺の顔も見ないまま。


「ソフィア、話がある」


「すまない……今日も疲れてて。明日ではダメ? 」


また先延ばしにしようとする。疲れてる様子はここ数日続いていたんだ、その度に理由を聞こうとすれば同じようにはぐらかされた。


だが今日は聞かなければならない、絶対に。


「ダメだ」


俺はいつになく真剣な表情で強く否定する。


それに対してソフィアは力なく答えた。


「わかったわ……短めにお願い」


その言葉と共にソフィアは俺が座っているベッドの隣へ来て腰を落とした。


「それで……話って? 」


続けてソフィアが尋ねてくる。


「少し目をつぶって欲しいんだ」


「え……なにそれ? あ、ごめんなさい……アッチの方は疲れが取れてないの、今度にして欲しいのだけど」


夜の営みと勘違いしたソフィアは、申し訳なさそうに喋った。


だが俺は同じ言葉を口にした。


「そうじゃない。いいから目をつぶって」


「え、うん。ごめんなさい……勘違いしちゃって……」


そう謝りながらソフィアは目を瞑った。


俺は膝の上にのせていたシェルを抱えると、目を瞑るソフィアの前に持っていった。


シェルはちいさい両手をソフィアの頬にあてる。そして強制的に同化した。


「あ、シェルちゃん……ダメ……同化……あぁ……」


シェルと同化するというのは身体強化をするだけではない。俺も含めて同化したものはシェルに心を把握される。それも強制的に。


ソフィアは今心を読まれる訳にはいかなかった。


理由は王族の会議で語られた全てだ。なにより自身を生贄に捧げる、それを手段の一つとして考えていた事を、良所達には知られてはならなかったからだ。


ささやかな抵抗も空しく、ソフィアはシェルに心を読み取られた。


シェルは全てを把握すると、同化を解く。同時にソフィアは泣き崩れた。


「あぁああああああ……ごめんなさい……ごめんなさい……」


泣き崩れたソフィアの頭を左手でポンッと叩いてそのまま置くと、俺はなるべく優しい声で慰めた。


「悪くない、ソフィアは悪くないよ。優しいお姫様だ、相談も出来ずに一人で耐えていたんだろう? よく頑張ったね、偉いよソフィア」



──あぁああああああああああああああああああああ



俺の言葉に気持ちの糸が切れたのか、堰を切って号泣しはじめた。


そして俺はアコへ命令する。


──ソフィアの悩み、苦しみ、悲しみを全て吸い取れ


悩み、苦しみ、悲しみを吸い取られたソフィアは、そのまま崩れる様に意識を飛ばした。


俺はソフィアをベッドの上に持ち上げ、掛布団をかぶせて寝かしつける。


「シェル」


『あい! 』


俺はシェルの名前だけを呼び、シェルは同化する。余計な事など口にせずとも、俺の心がシェルに伝わっていたからだ。


同化と共にソフィアの記憶が全て流れ込んでくる。同時に俺は手を強く握りしめた。



なぁシェル、俺は大馬鹿野郎だ。



大切な人が


苦しみ


悲しみ


憔悴しきって


誰にも相談できずにいたんだ。


自らを生贄に捧げる事も辞さない程に深刻な悩みを


たった一人で抱えて震えていたんだ。


こんなに側にいながら


俺はなぜここまで放置してしまったんだ。



──すべき事はもうわかってるハズですよ



あぁ、シェル。これから取り戻すよ、ソフィアが苦しまない世界を。



──えぇ



そして


俺の大切な家族をここまで追い込んだ


全ての原因を


必ず排除する。



俺はそう決意しながら、国王と王太子が居る部屋へと向かって行った。


握った拳から零れる血をそのままにして。




                  ◇




王族の敷地には多くの警備兵や近衛兵が昼夜問わず配備されている。


深夜、徘徊している俺に当然の如く声を掛けてくる。


「止まれ、こんな深夜に何事か。ここは王族のみが出入りできる王離宮である、速やかに立ち去れ」


──だまれ


俺は一人、また一人と警備兵や近衛兵の意識を飛ばし国王達の居る部屋へと進んだ。


カツン、カツン


俺が歩く足音だけが、広く長い廊下に響く。


そして国王達の気配を感じる部屋の前にたどり着いた。


「き、貴様は何者だ! 誰か、侵入者だぞ! 」


「と、止まれ! 」


──寝てろ


王達を守る最後の兵達が白目を剥いて天を仰ぐ。


もう行く手を遮る者達は居ない。


俺はゆっくり王達が居る部屋の扉を開けた。




「な、何者だ! 」



俺の姿を見て叫ぶ王太子フレイ。


その様子は恐怖で染まっている。


その隣では国王ウィリスがどうにか体を立たせていた。


『俺だよ王太子、キドナイトだ』


「ば、馬鹿な! 婿殿は其方の様な禍々しい容姿ではないぞ」


『禍々しいだと? 』



──主様、今怒りで満たされている主様は邪神に匹敵する容姿ですよ



感情で容姿が変わる物なのか。


シェルの話だと今の俺は、顔中に黒く揺らめく炎の様な模様で埋め尽くされてる様だ。


容姿などどうでもいい、そう思った俺は国王と王太子へ言葉を投げかけた。


『容姿など関係ない。お前たちは俺の大切な家族、ソフィアを追い詰めたのか? 』


「な、本当に婿殿だと言うのか? 」


『質問に答えろ』


「国王に対し無礼であろう! 」


『黙れ』


俺に突っかかってきた王太子の意識を飛ばすと、そのまま国王へ顔を向ける。



『返答次第でこの国を2日で滅ぼす。答えろ、俺の大切な家族ソフィアを誰が追い詰めたのか? 』



国王にそう言い放ち、俺は返答を待った。

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