王として 父として
質問に対し、当初事態の大きさにうろたえていた国王ウィリスは、落ち着きを取り戻した後俺を室内のテーブルにある椅子へ誘い、対面に腰をおろす。
俺が言った滅ぼすという言葉を、国王は必ず実行すると確信していた。
娘ソフィアから聞いていた帝国についての報告、自分自身体験したおよそ人では無い程の魔力と覇気。
このままでは国内の政治問題どころか、国そのものが消滅してしまう。
そう思うからこそ着座して目を閉じ、数分間押し黙っていた。
──
───
────
ウィリスがゆっくりと瞼を開く。その眼光は決意を滲ませ、向かい合う俺に対して喋りだす。
「まずは事の次第を話させてもらうが、よろしいか? 」
『かまわない』
それから国王は語った。事の発端から現在までの全てを。
現在国内の穀物流通が例年の半分以下に停滞している事。
ベルーラ侯爵が治めるウィリアム家の領地から穀物の流通が完全に止まっている事。
切っ掛けは娘ソフィアの婚約破棄が原因であろう事。
だが、ベルーラ侯爵はそれを理由にはせず、長期に渡る戦乱で疲弊した結果だとし、こちらの反論を封じてから諸侯の前で承諾を迫り飲まされた事。
ホールデン辺境伯をはじめ、王室派を総動員して事態の収拾を図っているが根本的な解決に至っていない事。
このままでは秋の収穫を前にして多数の領民が飢えに苦しむ事。
そして──
「ソフィアを追い詰めたのは国王である余だ」
自ら娘であるソフィアを追い詰めたと告白した。
続けて国王ウィリスは良所に懇願しはじめる。
「余の治世が甘かった故の結果だ。婿殿、いや、キドナイト殿。頼める筋ではないが、どうか余の命と引き換えに王国を、領民を滅ぼさないで欲しい」
「余が出来る事は命を差し出すくらいしか無いのだ……。どうか、どうか領民達に慈悲を下され……」
ウィリスは必死だった。
自分の不甲斐無さが、臣下の増長を産み諸侯へ不安を与えてしまった。
結果的に愛娘を追い詰め、国と領民の危機を招いてしまったからだ。
「どうか……」
『まずは試させてもらう』
懇願する国王に俺はそう言うと鎧から錐貝を一本伸ばし、国王の胸を貫いた。
「ぐっ……うん、痛みは無い・・・が」
胸に突き刺さる錐貝の触手を見つめ、ウィリスは驚く他なかった。
出血も無ければ痛みも無いのだ。
俺は錐貝を通じて、シェルをウィリスと同化をさせた。
「うっ」
一瞬眩暈がしたウィリスがふらつく。
だが意識を飛ばすまでには至らなかった。
俺は確認していた。国王の言葉と心に偽りが無いかを。
結果、ウィリスの言葉や心は偽りの類が一切無かった。やれやれ、親子そろってどんだけ真っ直ぐなんだよ。
そう思った俺は錐貝を引っ込めると、穏やかな口調で話しかけた。
『国王ウィリスはソフィアにソックリですね、心根から思考から』
穴の開いたはずの胸を撫でながら傷一つない事に驚いてた国王は、俺の言葉に返答する。
「どういう事だ? 」
どうもこうもそのままですよ。
『貴方達親子は守ろうとする人の為には、平気で自身を捧げる。そういう所ですよ』
「そうか……あの行動は余に似た結果だったのか……」
ウィリスは自身と娘ソフィアを重ねて思う。もし、ソフィアの立場で自分がした様に何度も止められていたなら、と。自分の力が足りず、大切な人たちが苦しむ様を見ているしかない無力感に絶望しただろうと。
自分の愚かさを再認識したウィリスは体を震わせ、俯いた顔から涙を落とした。
『さて、本題です』
自責の念にかられるウィリスに、俺は話を進める。
『これから問題を解決するにあたって、俺と契約をして頂きたい』
国王ウィリスは俺の言葉を聞き、姿勢を正す。まだ問題の解決にはいたっておらず、それに立ち向かっていく事が王としての責務なのだから。
◇
──俺と契約して頂きたい
ウィリスは良所の言葉を受け、慎重に問いただす。
「契約、とは」
『問題を解決するにあたって、俺に全権を委ねて欲しい』
「是非も無し。元よりこの命は捧げる覚悟はできている。存分になされよ」
『対価として俺が帰城するまで、これを渡しておきます』
契約成立後、俺は室内に三つの大きな樽を創り出した。
各樽には精製された小麦、いも、そして米が入っている。
「これは……」
三種の穀物が入った樽をみて困惑する国王。
『この通り三種類の穀物が入っております。こちらを使って現在の流通不安を解消してください』
俺はそう言うと、いもの樽を担ぎ傾けながら中身を出し始める。
ゴロゴロと床に落ちていく無数のいも。
そして樽を床に置くと、国王に手招きをし、中身を見せる。
「こ、これは。中身が満載になっておる。あれだけ取り出したのに……ナイト殿、これは一体」
『見ての通りですし、他の二樽も同様です。ですが、使用するにあたって約束をしてください』
「おぉ、おぉ、約束しようとも」
『悪用しない事、王族及びホールデン辺境伯のみ樽の管理を。他言無用です、諸侯への言い訳は辺境伯が一時的ながら開拓した交易によるものとでも。あくまで緊急措置と言う事を理解してください。帰城後俺が速やかに回収しますので、頼ろうとしても無駄ですけど』
「ナイト殿感謝致す……」
『最後に。俺がこの城を出ていった後、ソフィアを安心させてください。国王ではなく、父親として』
「あぁ……解った。して、ナイト殿はどこへ赴こうとしておるのだ? 」
国王の疑問に対し、俺は今後の予定をざっと話した。
『根本的な解決法は王国派の経済的自立です。ですので、王国派の領地改善をしていきます。その際全権を委ねてもらってますので各領主諸侯と迅速に対応できるかと』
「あいわかった。早急に早馬を出させ、ナイト殿が領地へ赴いた際その指示を全面的に受ける様通達いたす」
『感謝します。取り急ぎ一番困窮している領地へ赴きたいのですが、今から出す門へ管理している領主の館を想像して触れてもらえますか? 』
「うむ。ん、ナイト殿、まさか今すぐここを出立すると!? 」
『犠牲になる民を一人でも減らしたいので。国王にも同行してもらいます。まぁ領主に直接指示して頂ければ話が早いので』
「うむわかった」
俺は早々に門を創造し、国王ウィリスに触れさせる。
そして俺達は門をくぐり、最貧困の領地へ赴いた。
◇
ここはヴィクトール王国王都より南西にある小さな開拓地ドーファ。
領主アルフレード・リングが治める海沿いの辺境地だ。
人口は領主アルフレードを含めて200人ほどの町ともいえない開拓の村。
今夜もアルフレードは責任感の強さを発揮し、食料問題の解決方法を模索し続けていた。
質素な領主の館には、アルフレードとレティシアと言う成人前のメイドが住んでいる。
アルフレードとレティシアの父は親友であり、戦友であった。
ラドルア帝国との戦乱の最中、レティシアの父が戦死。レティシアが幼少の頃、母を病気で亡くしていた為天涯孤独になったのだが、アルフレードは親友の遺言に従ってレティシアの後見人となった。
ただ扶養されるのも居心地が悪かったレティシアは、自らメイド業を懇願し今に至る。
そんなレティシアが今晩もアルフレードの為に貧しいながら夜食を用意し、二階の執務室まで階段であがろうとした時だった。
階段正面にある玄関ホールに突如門が出現したのだ。
「ひっ」
あまりの事に驚くレティシアだが、その門から来訪してきた者達をみてより一層驚愕する。
『国王、ここでよろしいか? 』
「うむ、玄関にあるアノ紋章。間違いなくリング家のものだ」
禍々しい風貌の騎士と国王と呼ばれた壮年の男を前にして、レティシアは夜食を抱えて立ち尽くすしか無かった。




