おいしいエールの飲み方 その壱
Cランク冒険者ミルザがリザードドラゴンの牙を回収し終わった所で俺は二人に声をかけた。
『皆さんおつかれ様。とりあえず昼食を用意したから食べようか』
さっきまで無かったイスとテーブルに少々驚いていたミルザだが、これまでの事もあり声を上げたりはせず席についた。
それから大の字になっていたグリードがむくりと起き上がると、いそいそとイスに座る。
二人共すでにサンドイッチセットに釘付けだ。
「出先でこんな食事にありつけるなんて……ちょっとグリード、どうなってるのよ」
「あぁ、ナイトのにーちゃんはすげーだろ?でもな、本当にすげーのは食ってからわかるぜ」
「本当になんなのよ……」
『それじゃあ食べようか。っとその前にシェルとの同化外さなきゃ』
良所はシェルとの同化を外す。上下黒ジャージのさえない男と幼子シェルがミルザ・グリードの前に現れた。
「本当に不思議よねぇ」
その光景に言葉を漏らすミルザ。
「じゃあ改めて、いただきます」
──いただきます
◇
「シェル、おいしいか? 」
『あい! さんどいちだいすき! あい! 』
うんうん、ご機嫌でなによりだ。
そんな俺達の眼前でグリードは相変わらずムシャムシャと食べ続け、隣のミルザは一口かじるとその手を止めていた。
「ん? ミルザさんどうかしました? 」
「どうかしたって、そりゃどうかしてるわよこの食事」
「はい? 」
挙動がおかしいミルザさんにどうしたか尋ねても、おかしいと言われるばかりで困惑する俺。
「ちょっとグリード! 本当になんなのよ、もう! 」
ミルザさん、いきなり大声あげないでください。びっくりしてしまいます。
「ハッハ、言っただろミルザ? 食ってみりゃもっと驚くってなぁ! 」
「こんなに美味しいパン料理ははじめてよ……なに? このふわふわなパンは! それに新鮮な野菜にタマゴ……それとこの肉の燻製、信じられないわ……。しかもこんな辺鄙な場所でよ? 色々とおかしくなりそう」
「まぁナイトのにーちゃんには常識は通じないって事さ。驚くのは止めにして今のうちに喰っとけよ? 城下町でもこれほどの料理をだす店はねーんだからよぉ? 」
グリードが言った言葉の意味をすぐさま理解したミルザは、行儀も忘れてサンドイッチをパクパク食べ始める。
モリモリ食べる女の子ってなんか癒されるよね。
あ、そうだ。グリードに犯罪的に美味いビール、もといエールの飲み方を教えようかな? 今日はすっごく頑張ってたし。
「なぁグリード、今夜の晩餐で涙がでるほど美味しいエールを飲みたくないか? 」
「もご、ゴクン、ん? なんだよにーちゃん? そりゃ当然だぜぇ! 」
「別に無理してやるもんじゃないけど、試してみる? 」
「もちろんだ! そーいやナイトのにーちゃんよぉ、なんで討伐部位の事しってたんだ? 常識しらずのにーちゃんだけど、たまーに的を得るんだよなぁ」
俺は話を聞きつつグリードに小さめのコップを渡し、水を注いだ。
「魔物を討伐したって証明が必要だとおもったからさ。それよりグリード。この昼食以降水分を一切取るな、このコップの水でお終いにしろ」
「なるほどなぁ。それと、そんだけかよ?こちとら作戦で数日飲まず食わずの行軍とか経験してるんだぜぇ? 」
よしよし、やっぱグリードは頑丈だぜ。心置きなく犯罪的に美味しいエールを飲ませられる。
「それを聞いて安心した。ミルザさん、冒険者ギルドには練習場とか闘技場みたいな施設はあるんですか? 」
「モグモグ……ゴクン。ん、あるわよ?何?使いたいって事? 」
「うん、出来ればこの後使いたいんだけど頼めるかな?俺冒険者登録してないし」
「いいわよ。あ、条件があるわね」
さすが冒険者、ちゃっかり交渉に持ち込みやがった。とりあえず聞いてみるか。
「それで条件とは? 」
「三つね! ゴブリンの耳とワーウルフの皮、それにリザードドラゴンの牙は回収出来たんだけど、リザードドラゴンの鱗と肉は大きすぎてこのままだと諦めるしかないのよ」
三つとか強欲だなぁ。まぁそれぐらいじゃないと冒険者は務まらないか。
「ふむふむ」
「それで転移魔法を使うときに、ギルドの倉庫へリザードドラゴンの本体を運んで欲しいの」
なるほどね、たしかに結構大きいリザードドラゴンの本体を一人で運ぶには無理があるな。
「いいですよ。それであと二つの条件とは? 」
「訓練場を使う際にアタシと戦ってほしいのと、今夜の晩餐に参加させて! 」
「はぁ」
晩餐に参加したいってのはわかる。そりゃ美味い飯ってわかったら誰だって食べたいもんね。ただ、戦いたいってなんだそりゃ?
「晩餐についてはグリードの許可をもらえれば別にいいですけど……戦うってそりゃまたどうして? 」
「惚れた男の実力を……ゴホンゴホン、なんでもないわ。強い人の実力って冒険者としては魅力的なのよ。経験をつめるからね」
まぁよくわからないけど、経験を積みたいってのなら反対する理由はないな。
「わかりました、条件を飲みましょう」
その後昼食を済ませた俺達は門でギルドの倉庫に移動する。もちろんリザードドラゴン十数体を運んでだ。
ギルド関係でミルザ以外騎士化をみせたくなかった俺はすぐに同化を解き、倉庫内で待機した。
その後あまりにも短時間で依頼達成をしたミルザとギルドの間で一悶着があった。結局討伐部位はあるし、なにより倉庫に運んだ十数体のリザードドラゴンを確認したギルドは認めざるを得なかったのだが。
部位納品と手続きを終えたミルザは俺達を連れてギルドの隣にある練習場へ向かった。
なぜか獣人の受付嬢リリも同行してるのだが、やっぱギルドの施設って事で監視役って感じかな?
◇
「さぁ着いたわよ、ここが訓練場。主に駆けだしの冒険者がベテランに色々と指導してもらったり、昇級戦をしたり、あとはたまーに決闘にも使われるわね」
おーう、よく聞くパターンって感じか。それにしても結構広いな。施設は均した訓練場を取り囲むように観覧席みたいなものがあるし。
「それじゃさっそく手合わせをお願いするわ」
そう言うと、ミルザは刃の潰れた練習用の剣を俺に渡してきた。無論ミルザ本人も同様だ。
んー、練習用の武器って一応訓練にはなるけど、実践で使う武器じゃないし実力をだしきれないよなぁ。
そう思った俺はミルザに提案した。
「ミルザさん、練習用の武器じゃなくて実戦用の武器を使ってください。そっちの方がより経験をつめると思うんです」
俺の提案に反論しかけたミルザだが、途中で言葉を変えた。
「アンタ何言ってるの?実践で使う武器じゃ大怪我……するわけないって事ね。随分と舐められたものだわ」
「あ、そう言う訳じゃないんだけど」
「いいわ、提案に乗ってあげる。だけど怪我してもしらないわよ! 」
ミルザは言葉を発すると間髪入れず全速で間合いを詰め、得物の双剣で切りかかってきた。
うん、早い。なるほど、今日の依頼を一人で受け持つ実力はあるって事か。
ただ早いだけじゃなく一撃一撃が重い。そして的確に急所をついてくる。
俺は練習用の剣で受け流しながら感心した。
「ちっ、さすがに強いわね……」
舌打ちをしつつ、俺の隙を伺っては高速の連撃を打ち込んでくるミルザ。
このまま受け流し続けてミルザの疲労を溜めるのもいいけど、それじゃ芸がないなぁ。
そう思った俺は、防御から一転攻撃に移る。
まずは同等の速度で切り込み、徐々に速度を上げていくか。どこまでついてこられるか楽しみだ。
明らかに速度の上がった俺の動きに、驚きを隠せないミルザ。
「くっ、早い。だけど、まだ追いつける! 」
おぉ、ついてくるついてくる!いいじゃないですか、なんだが本当に楽しくなってきた。
グリードは訓練場の隅で腕を組みながら戦いを見つめていた。ちなみにシェルはグリードの大きな肩で、同じようにちいさな腕を組みながらニッコリ笑顔で観戦してる。
獣人受付のリリさんはすさまじい攻防にポカンとしてるし。
そんな中、諦めないミルザはどうにか活路を探すのであった。




