王都到着
俺達は風呂に入った後、皆を集めて昼食を取っていた。
どうやら辺境伯達も随分と酔っ払ったみたいで城塞にもどった後スグ寝たらしい。
冷やかしなどなかったので、ベッド直行で寝たみたい。
それから、今後の予定を確認した。ここソローの町から馬車でおよそ1ヶ月、途中いくつか街に滞在して王都に向かう予定だ。
それを聞いた辺境伯が難しい顔をして口を開いたんだ。
「うーむ、ソフィよ。その予定はちと剣呑じゃのう」
「ホールデン小父様、剣呑、ともうされますと? 」
「うむ。ソフィも分かっておるやもしれんがの、反王室派の連中がおぬしの帰還を妨害するやもしれぬのじゃ」
なるほど。ソフィアさん達王族にも敵対関係の勢力があるのか。大功績を上げての帰還となれば民衆からの支持も今まで以上になるだろうし、王室の力は強くなるのは道理だ。
それを面白く思わない連中がいるとしたら何としても帰還を阻止にかかるよな。
「キャプテン・バルバロスよぉ、そいつはちと考え過ぎじゃねーか?剣呑っつったってよぉ、こっちにゃ俺もクレイグもいる。もっと言うならナイトのにーちゃん一人で十分お嬢を守り切れるってもんよ。心配しすぎるとはげるぞ」
はげるって……言いすぎだぞグリードさん。
「武力で話が解決するなら心配はせんわい」
「んじゃなんだってんだよ? 」
「反王室派はもっと悪辣な手段を取ってくるんじゃ。例えばのう、無関係な領民を脅迫しておぬしらを襲わせる。当然おぬしらは撃退する。じゃが無関係な領民をお主らが成敗したと噂がたったらどうなる?きゃつらはその事実を攻撃材料に発言権を強める。そうなれば苦しくなる一方じゃ」
「ちっ、めんどくせぇなぁ貴族の考える事はよぉ。ならキャプテンはなんか考えがあんのかよぉ? 」
「無い事もないんじゃが、ちとタイミングが悪すぎてのう。儂の息子がまだ帰還してないんじゃ。帰っていればここを任せて儂自ら船を使って王都まで送る事が出来るのじゃが」
たしかに海路を使えばトラブルに巻き込まれる確率は低くなる。だが、それも使えないとなるとやっかいだな。
「お嬢、結局どうするよ? 俺たちゃなんでもいいぜぇ、敵対してくる奴はかたっぱしからぶっ潰すがよ」
「ふむ……」
グリードさんから決断を迫られたソフィアさんは悩んでいるようだ。
「これ、話を聞い取らんのかお主は」
「だってよぉキャプテン。解決策がなけりゃ強行突破しかねぇだろ? 」
「うむむ」
なにか良い解決策か、うーん。あ、そうだ
「えーとつまり短時間で街に寄ることも無く王都へ到着すれば良いのですよね? 」
部屋の皆が俺に視線を向ける。そしてソフィアさんが確認してきた。
「それはそうなのだが、短時間で移動したとしても街に寄らずに王都へは行けぬぞ」
「もうお忘れですか? 俺達が帝国へ行った手段を」
「「「あ」」」
「ん? なんじゃ? 」
ソフィア・クレイグ・グリードの三人は思い出したのか、「あ」っと声を出し、事情が分からないホールデン辺境伯は頭に疑問符を浮かべるだけだった。
一応シェルに確認しとくか。
「シェル、ヘルダー元帥の邸宅に行ったときの方法を今も使えるか? 」
『あい! ぴゅーっといどうなの! あい! 』
「だそうなので、これから王都へ直接乗り込みましょうか? 」
「あぁ、そうだな! シェルちゃん、ナイト……殿、助かる」
『あい! 』
今ナイトって呼び捨てにしようとしてたな。それとシェルちゃんて。どんだけ仲良くなってんだよ君たち。
早ければ早い程反王室派の謀略を阻止できるので、俺達はスグに行動を開始した。
日もまだ高く、俺達を見送るように潮風が心地よく吹いている。
俺とシェル、そしてソフィアさん以外の人は乗車も済んだ。
さっそくシェルは俺と同化すると門を現出させる。後はソフィアさんが王都城内の広場をイメージして門に触れるだけだ。
ソフィアさんは全て終えると、ホールデン辺境伯に抱き着き涙をながしながら感謝の言葉を伝えた。
「ホールデン小父様、これまでソフィを支えてくださり感謝致します……これからも宜しくお願いします」
「ふぉふぉふぉ、当たり前じゃて。これからも儂はソフィの味方であり続けるからのう、心配いらんよ」
「ありがとうございます……」
「ふぉふぉふぉ。よしよし、昔から泣き虫なのは変わらんのう」
「小父様! 」
「さてと、後は婿殿じゃな」
ソフィアさんとの会話を終えると、ホールデン辺境伯は俺に近づいてくると両肩をガッシリ掴み凄んできた。
「婿殿……わかっておるとは申せ、言わねばならぬ事がある」
「は、はい」
「どうかソフィアを幸せにしてやってくれ」
「微力を尽くします」
「どうか、どうか、たのんだぞ」
「はい」
辺境伯の目は真剣だった。残された右目からは厳しさとやさしさの混在した光が揺蕩っていた。
「じゃあ行こうかシェル、ソフィア」
『あい! 』
「はい! って……今何て呼んだの!! 」
顔を真っ赤にしたソフィアさんから逃げるように馬車へ乗り込む俺。後から乗り込んできたソフィアさんと共に窓から辺境伯へ手を振る。
ありがとうホールデン辺境伯、楽しかったよ港町ソロー。また会おう!
馬車はガラガラと門を潜り、港町ソローを後にする。
さぁいよいよヴィクトール王国・王都だ。
◇
3台の馬車が城内の広場に無事到着する。
すると門は自然と閉まり、消失した。
ここはヴィクトール王国王都。その中心部に有る王城だ。
突然広場に現れた三台もの馬車を見張りの兵士達が発見し、慌てて動き出した。
──止まれ! 何者か!
近衛兵の隊長とおもわしき人物が声をあげると、後方の馬車からグリード・クレイグ両名が出てくる。
「いよぉ、レオン。久しぶりだなぁ。元気してたか? 」
グリードさんが楽し気に声を掛け始めた。知り合いなのか? まぁそうだよな、ソフィアさんて一応姫様だし、グリードさんもクレイグさんも親衛隊みたいなもんだから王城にも頻繁に出入りしてるだろうし。
「お前……グリードじゃないか! 無事でよかった……帝国との戦は激戦と聞いていてな、本当に無事でよかった……」
「ばかやろう、俺達がそう簡単にくたばるもんかね? なぁクレイグ? 」
「お久しぶりです、レオナルド近衛隊長」
「おぉ、聖剣殿もご一緒か! てことはこの馬車は……まさか!? 」
「そのまさか、だ。ソフィア殿下、近衛隊長のレオナルドが事情を説明してほしいそうなので下車を賜りたく」
今までの感じと違う。傍若無人だったグリードさんが姫に仕える一介の騎士に成っていた。
俺達がいる馬車の前で跪き、ピクリとも動かない。クレイグさんも同様だ。礼を損なわない、優雅な振舞いだ。
おもわずソフィアさんに聞いちゃったよ。
「ソフィアさん、あの二人、城内ではいつもあんな感じなんですか? 」
「あぁ、そうだ。ナイト……殿は初めて見るのか。彼らは私付きの騎士だからな、礼を失すればそのまま私の汚名に繋がる。それをわかっているからこその所作だ」
「なるほど」
「ではいこうかナイト……殿、シェルちゃん」
「あ、はい」
『あい! 』
クレイグさんが無駄の無い所作で馬車の扉を開く。
「近衛隊長レオナルド御前に参上仕りました。ソフィア殿下……殿下、御無事で何よりです……」
おいおい、レオナルドさん、涙を流しながら挨拶してますよ。でもそうだよなぁ、英雄であり、お姫様のソフィアさんが少数の随員だけで敵地のど真ん中までいってたもんなぁ。
感極まって泣くのもうなずける。うんうん。
「王都並びに王城の守備、大義である。レオナルド、心配かけたな」
「もったいなきお言葉、謹んでお帰りを喜び申し上げます」
「うむ。まずはここにいる御者3名に報酬を支払い労ってやってくれ。それから父上と兄上はいらっしゃるのか? 」
「御者の件賜りました。ヴィクトール王並びにフレイ殿下は城内王室の間にて只今ご歓談中との事です」
「わかった。我は私室に入った後帰還の報告をする故、次の様に伝達を頼む」
「ははっ」
「ソフィア・ヴィクトール並びに配下全員。無事に帰還した、と。それからエルフの女王ミルレード様及びお付きのエルフ達全員の無事帰還もな」
「!!! わ、わかりました。早急に伝達してまいります。レイアード、ファルム。ソフィア殿下の私室まで殿下並びにお付きの方々を案内をせよ! 」
「「ハハッ」」
よく考えてみれば……俺ってこれから娘さんを下さいって言わなければならないんだよな?
しかも王様相手に。
胃が痛い、シクシクしはじめた。そんな緊張感の中、俺達は全員で城内へと足を運んだ。




