既成事実の前に男は成す術を持たない
二日酔い独特の気怠さを抱えながら、重い瞼が開いていく。
うぅ、昨日は飲みすぎた。ダッハッハと高笑いする辺境伯とグリードさんの面影しか浮かんでこない。
完全に記憶がとんでるぞこれ。
おはようございます、きどないと、です。
今でかいベッドで寝ながら薄目で天井をぼーっと眺めています。
そんな折違和感を感じました。
布団を掛けてじゃないと寝れない俺なんですが、掛布団がありません。
ついでに裸の様です。
普通寒くて風邪ひいちゃいますよね?
でもなぜか暖かいんですよ。
右側で俺にひっついて寝ているシェルは理解できたんですが
左側で俺にひっつく金髪の女性が理解できません。
しかも真っ裸です。
二日酔いでは尚更理解できません。ぶっちゃけ「これは夢なんだ。良し、夢の中で二度寝しよう」と思いたいくらいの状況です。
とにかく二日酔いでガンガンする頭をなんとかしないといけない。
左手を額にあてて、心中でお願いをする事に。
アコ、悪いけど体内のアルコール及び毒素をすいだしてくれ
──サクバンハオタノシミデシタネ
え、なにその返事。アコさん、ナニをしってると言うのですか。
みるみるうちに意識が覚醒していく。
気怠さや頭痛がスッと消えて、心地の良い疲労感だけが残った。
さて、いかがしたものだろうか。
悩む俺に甲高いモーニングコールが右耳に突き刺さった。
『ないとおはよー! 』
「あぁ、おはようシェル。さっそくなんだが……」
状況を説明しろと言いかけた時、左側から色気を含んだ女性の声が聞こえた。
「おはよう、ナイト……殿」
その声と同時に俺の体をギュッと抱きしめてくる金髪の女性。
うん、どうしてそんな真っ裸で俺にしがみついてくるのかな、ソフィアさん。
今まで感じなかった女の色気をムンムンに発してますし、つまり女になったと言う事なのか。
「二人共、今の俺には理解できない事がたくさんある。それはわかるよね? 」
「ナイト……殿、ナイトって呼び捨てにして良いか? 」
『ないとはないとー! そふぃあおねーちゃんもおそろいー! 』
話が通じていない。
俺はそっと目を閉じ、現実から逃避しようとしていた。
普通に考えれば次の通りだよな。
俺酔っ払う、記憶飛ばす、辺境伯城塞へ帰る、シェルとソフィアさんが俺を介抱する、ベッドへゴロリ、昨晩はお楽しみでしたね。
しかし解せない事がある、シェルだ。
あの嫉妬の塊、究極の城壁シェルがこの事態を受容している。
おかしい……ライラさんの事を考えただけでも怒りの電流攻撃、鉄拳制裁を繰り出してくるシェルが、だ。
そう考えている時、全てを吹っ飛ばす衝撃的な回答がお転婆娘から発せられた。
『うんとねー、けーやくしたの! あい! 』
「契約……だと? 」
『あい! 』
「詳しく聞こうか」
当事者の一人であるソフィアさんはなにやら恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして俺に抱き着いたまま無言を通している。
対照的にシェルはご機嫌な様子で契約内容を喋りだした。
一つ、きどないとを独占しない事
二つ、行為をする時には同化する事
三つ、常にきどないとの意思を尊重する事
四つ、子孫を宿す際、強制的に女神の加護が付く事を了承する
五つ、可及的速やかに【はんばーぐ職人】を育成し、きどないと不在時にも対応できる様にする事←ここ大事(シェル談)
なるほど、なるほどなるほど。つまりあれだ
「ハンバーグに釣られたのかお前……」
『あい! 』
それにしても色々と問題だ。
そこらの町娘ならいざ知らず、ソフィアさんは一国の姫様であって、しかも英雄だ。
どのこ馬の骨ともわからない俺が婿とか普通無理だわ。
へたしなくても罪人扱いで即刻処刑だろう。
第一俺、貴族でもないし
あーやだやだ、憂鬱だ。いっそ逃亡すっかな。あ、森の家があるんだった、うん、森に引きこもろう。
こんな事ならライラさんの方が楽だよなぁ、鎌おじさんの部下って肩書だけだし。
ん、そういえばなぜシェルはライラさんに近づけなかったんだ?
「この際だ。シェルよ色々と教えてくれ」
『あい? 』
「なぜソフィアさんは良くて、ライラさんはダメなのだ? 」
『んーとあんまりおしゃべりしてなかったから! 』
『あとそふぃあおねーちゃんがおうえんしてっていってたから! 』
「ならば言うが、ライラさんが優しくておいしいハンバーグを作ってくれたらどうなんだ? 」
『らいらのおねーちゃんもけいやくするのー! あい! 』
「なるほどな」
いつもライラさんの話題を出すだけで嫌がる二人。その原因はどうやらソフィアさんが外堀をコツコツ埋めた結果だったらしい。
既成事実が成った今、勝利者の余裕と言うのかソフィアさんは満足気な趣で抱き着いたままだ。
「でも色々と無理があるぞ。ソフィアさんは分かってると思うけど」
王都へ着きました、逮捕されました。処刑されましたじゃ笑えない。そこらへんをどうするのか尋ねる意味でソフィアさんに聞いてみた。
「うむ、抜かりはない。すでに手は打ってある、安心して婿になってくれ。それと……」
「それと? 」
「ソフィアさんって呼び名は止めてほしい……ソフィアかソフィと呼んでくれないか……」
「だめ」
「な、なぜだ! 」
「そりゃそうでしょう。まだ婚姻前だし、あと今回の事は腑に落ちないからね、反省するように」
「うぅ……ハッ、まだ婚姻前って言う事は、結婚する気は残っているって事なのか! 」
「まぁ、けじめはつけないといけないから」
「ありがとう……ナイト……」
なにやら秘策があるみたいだし、とりあえず乗っかってみるか。
「ちなみになんだけど、野暮な事だが聞いて良いか? 」
「ん、ナイト、気になることがあるのか? 」
「何回したの? 俺達」
「……10回」
『こづくりさくせんせいこうなの! あい! 』
なんだその作戦名は。色々と先が思いやられる。それはともかく
時間はとっくに昼を過ぎていた。
そろそろ起きださないとゴシップをばらまかれて大変になりそうだし。風呂でも入って飯食うか。
強くなる日差しは夏の気配を少しづつ運んでいる、そう感じる港町の午後であった。




