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対人恐怖症な俺の異世界リハビリ生活  作者: 春眠桜
ヴィクトール王国への帰路
32/123

邪な計画は水泡に帰すと相場は決まっているものだ

俺は考えた。いかにしてエルフの女王ミルレードさんと会話の時間を多く確保するかを。


それは真剣だった。日本にいた頃、そう、某企業でバリバリの営業だった時を思い出す。


大口取引を成立させるためのプレゼン、心境的にはそれに近い。


邪魔になる外因を排除し、メリットとサプライズを織り交ぜた交渉。


なめるなよ? トップをひたすら走り続けてきた営業力を。それが原因で心を壊しちゃったのだけどもだ。


まずはシェルを含めた腹ペコ4人+御者3名の口を閉ざす。


俺は大量のハンバーガーを巨大バスケットと共に用意する。飲み物はノンアルコールの炭酸ジュースだ。


ジュースのサーバーをテーブル上に置く、コップもすでに配置済みだ。好きなだけ飲むが良い。


なぜノンアルコールのジュースか? だって?


そりゃこの場で酔っ払って絡まれたら元も子も無いからだ。


油断してはならない。腹ペコ軍団はハンバーガーごときでは満足しないであろう。


特大の大皿にミートパスタ(山脈盛り)も用意しよう。配膳は各自の皿にセルフでやってもらう。


ふふふ、単純なヤツらだ。目をキラキラ輝かせておるわ。だがまだ食べるなよ? いただきますはみんな一緒だ。


──時は来た


満を持して俺はエルフ達の食事を用意する。


すでに好みはリサーチ済みだ。


まずは主食


オーガニックな食事を好む傾向とみた俺は、新鮮な山菜のパスタを用意した。


飲み物は高級ミネラルウォーターと果実のジュース


そして果物満載のスペシャルデザートの品々


隙は無いはずだ。


「まぁ、素晴らしい! 」


ミルレードさん笑顔が眩しく輝く


もらった。これは交渉成立な予感!


「女王さまぁ! すっごくおいしそうな食べ物ですぅ! 」


ん、なんだ? 女王ミルレードさんの側近か? ちびっこいのがテンション上げまくってるが……


「プニルの言う通り、素晴らしい品々ですね」


おや? 二人目の側近が……それもミルレードさんの両側に座っている。


まさかの鉄壁ガードが自然に発動してたとは……不覚!


だが隣がだめでも近くに席を取ればなにも問題はないはず! あきらめるな、俺!


──


───


────


と、思ってた時が俺にもありました。現実は非常なものです……


配膳が済んで頂きますを言う時に気付いたんだ。


俺の席がミルレードさんから離れすぎていた場所に確保されていた事を。


よりにもよって主賓席


それも、シェル・俺・ソフィアさんの並びだ。なぜか二人共ニコニコしている。


「ナイト殿、なにか不満でもあるのか? 」


ソフィアさん、それ、知ってて聞いてるでしょ?


「……」


『ないとはふまん? ないよー! あい! 』


シェル、なぜ外堀を埋めた。


「そうか、なら良いな! ではみんな食事を頂こう! ナイト殿の故郷の習わしにしたがって言わせていただく」


ソフィアさん、強引に進めてません?


「頂きます! 」


──頂きます!


こうして楽しい昼食が始まった。




                   ◇




「ナイトのにーちゃんよぉ、この飲み物もわるくねーが、あんときのエールはだしてもらえねーのか? 」


「だめです」


「おいおい、随分そっけねーな!なにか嫌な事でもあったんか? ワッハッハッハ!」


グリード、貴様、わかってるみてーじゃねーか!


「グリード、ナイト殿は現状を考慮してエールを出さなかったのだぞ。まだ帰還途中だ、酔いつぶれてしまったら万が一の時に対応できないだろう」


ソフィアさん、好意的解釈ありがとうございます。本当はミルレードさんとの時間を酔っ払いに邪魔されたくなかっただけなんですがね。


「おー、さすがナイトのにーちゃんだ!あっはっはっはっは! 」


ぐっ……なんだこの敗北感は……


「それにしても……」


ん?どうしたんだクレイグさん。かじったハンバーガーを見つめて喋りだしたぞ。


「この【はんばーがー】はなんて素晴らしい食べ物なんだ。アツアツの肉、シャキシャキの野菜、それらに絡まる甘辛いソース。そして挟みまとめるフワフワのパン、完璧ではないか……」


そうですかそうですか。お気に召していただけましたか。


隣ではシェルがパクパクハンバーガーを食べてるし、ソフィアさんもモリモリミートパスタを食べてる。


他の方々も皆おいしそうに食べてるのは良かった。


エルフの皆さん、キラキラしてますね。笑顔が眩しいです。お話したいです。


『ないとー! 』


「もがっ」


お転婆娘め、ニヤニヤしてた俺の口にハンバーガーをつっこんできやがった。


『おいしー? 』


ニコニコしながらなぜ殺気を込めて聞いてくるのかな? おかしいよね? シェルさん?


炭酸ジュースで流し込み、注意しようとした時、反対側から攻撃が飛んできた。



「ナイト殿、このパスタもおいしいぞ? 」


「もがっ」


ソフィアさんが、器用にフォークでまとめたパスタの塊を口に叩き込んでくる。パスタって武器だったのか……


「モテモテだなナイトのにーちゃんよ! 土産話がまた増えたぜ、ハッハッハ! 」


グリードさんよ、違う、そうじゃない。誤解を産むゴシップをばらまかないでくれ。




食事の最中、何度か招かねざる客が来た。


様々な魔物たちだ。


その全てをクレイグさん一人で屠っていたのだが。


その動きがやばかった。


ハンバーガーを左手に持ち、右手に剣を構えて敵を切り裂いていた。


「崇高な食事の邪魔をした代償は大きいですよ」


あっという間に全滅させると何事もなかったかのように席に着き、優雅に食事を再開する。


他の皆さんも魔物の気配を察知していたのだが、気づいたらクレイグさんが切り伏せてまして、2度目以降まったく気にしなくなってました。


聖剣クレイグ、なんて恐ろしい子なの!




                   ◇




食事を終えた俺達は各自馬車に乗り込み、ヴィクトール王国へと道を進めた。


「今晩までには国境の港町ソローに着く予定だ」


馬車の中でソフィアさんが説明してくれた。それにしてもソフィアさんて一応王族だったよな?


こんな長期間、しかも敵対していた帝国にいるってやばいよね?


「ちょっと気になることがあるのですが」


「ん? なんだ? 」


「ソフィアさんてヴィクトール王国の王族ですよね?長期間国を離れて大丈夫だったのですか? 」


「あぁ、その事なんだが」


邪神討伐が済んで、三日後にはジークさんが黒竜にのって単身ヴィクトール王国へいっていたらしい。


帝国皇帝の親書と共に今後の予定を国王に報告して、一週間もしない内に戻ってきたとか。


やっぱ竜で空を移動すると早いんだな。


「なるほど、なら安心ですね」


「一応な。だが憂鬱の種ならあるのだが……」


ソフィアさんの憂鬱?絶対触れたくない。よし、話題を変えよう。


「あ、そうだ。ヘルダーさん達が色々と大変だったと言ってましたけど、具体的にどんな事があったのですか? 」


「あ、あぁそうだな。報告しなといけなかったな」


自分の憂鬱の種を言いたかったのか、ソフィアさん若干不機嫌になりつつも話をしてくれた。


「簡単に言えば今後の帝国の方針と、権力闘争についてだな」


「なるほど」


「死神は邪神討伐について功績第一なのは間違いないのだが、それを良しとしない帝国の諸勢力が色々と難癖を付けてきててな」


「まぁこういってしまったら身もふたもないのだが、御使い殿が全員黙らせて、死神の地位と領土は安泰。エルフ達の帰還も了承といった運びになったんだ」


そりゃ大変ですわ。あとでシェルのご機嫌を取るか。


『めー! っていったの! あい! 』


「シェル、よくできました」


『あい! 』


「それで、ヘルダーさんから何か伝言はありませんでしたか? 」


「それなんだが、当初の危機は去ったので感謝の言葉を伝えてくれ、と。それと、暇が出来たらいつでも足を運んでくれと言っていたな」


「ライラさんからは何かありませんでしたか? 」


「たぶん無かった」

『たぶんないよー』


「……」


絶対あっただろ。


そんな中ガラガラと音を立てて馬車は進む。国境はとうに超えたみたいだ。


いよいよヴィクトール王国へと足を踏み入れる。

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