潮風舞う辺境の港町ソロー
潮の香が心地よく舞う辺境の地ソロー
人口は約1万人の港町だ。
帝国国境にもっとも近く、大小様々なトラブルに見舞われやすい町。
その為か、住民は下から上まで胆力が強く、豪快な気性の人々が多い。
事情を知らない人間がこの町に入れば、共通の思いを巡らせるであろう。
ここは海賊のリベルタリア、そして自分は迷い込んだ彼らの餌と。
どうもきどないとです。
日が落ちる前に港町ソローへ着いたみたいなのですが、なんですかね? この町
街中から常に【ヨーホーヨーホー】とか聞こえてきそうな雰囲気、と言いますか、実際そこらかしこで聞こえてくるんですよね。
酒樽を抱えて寝込む髭面の大男や、店前で手招きする娼婦であろう美人なおねえさん達。
日が陰っているのにもかかわらず、そこらかしこで海賊ごっこをしている子供の集団。
店、道端、港から聞こえる屈強な男たちの歌声。
あれ? ヴィクトール王国管轄の町でしたよね? 海賊の占有する領地ではないはずですよね?
そんな思いを他所に馬車は街中をガラガラ進んでいく。
「ソフィアさん、この町はヴィクトール王国管轄の町ですよね? 」
「あぁ、そうだが? 」
「こう言ってはあれなんですけど、海賊の根城みたいなのですが」
「あっはっは、そうかそうか。ナイト殿は初めて来たのであったな。この町に来る人間は皆同じ事を言うのでつい笑ってしまった。許してくれ」
「はぁ」
そりゃこの町の光景をみれば誰だってヤバイと思いますよ。
右手に見える港には、複数の巨大な船が止まっていて
掲げられてる旗は全て骸骨旗
それにここの住民の容姿が拍車をかける。
海賊じゃありませんよーって言う方がおかしい。
「驚くのはまだ早いぞナイト殿。ここの領主と対面するまで期待しててくれ」
なにそれ、フラグですか? 俺、海の神の生贄にでもされちゃうの? 怖いんですけど……
三日月状の港を沿う様に馬車は進む。
その先端にある切り立った崖を背に、城……いや、要塞に近い建物が姿を見せる。
まさかと思いますが、ここが領主の館、ですかね。
馬車は門の手前で止まり、ソフィアさんが一人で馬車を下りていく。
おいおい、大丈夫かよソフィアさん。屈強な大男が二人門番の様に立ちふさがってるし。
すると耳を劈く男の大声が響いた。
──我ら海の男は大海を駆け
──必ず手にするであろう
なんだなんだ、あれか? 謎かけか? 開け胡麻か?
するとソフィアさんが町中まで轟く様な激を飛ばした。
「7つの秘宝と酒場の酒を! 」
その瞬間、町から城塞から大歓声が轟いた
すごいよ、本当にすごい。歓声でビリビリ空気が震えるって普通無いでしょ。
「「英雄姫のご帰還だぁああああああああああああ! 」」
──ギギギギギギギ
門番の大男達はそう叫ぶと、巨大な門を開け始める。
3台の馬車は招かれるままに、城塞へと入っていった。
◇
馬の世話をする御者3人を残し、俺達5人とエルフ達9名は案内役に従い城内へ入る。
「がっはっは、相変わらず楽しい町だぜ!なぁ、ナイトのにーちゃんもそう思うだろ? 」
ご機嫌なグリードさんが聞いてくる。
「いやいや、初めて来た人なら楽しいって思う前に終わった、と思いますよ普通」
「がっはっは、違いねぇ! 」
バンバンと俺の背中を叩きながら笑うグリードさん。たしかにグリードさんのキャラにピッタリの町だなぁと思う。豪快と陽気の塊みたいな町だ。ただし、慣れればの話だが。
応接室らしい大きな扉の前に着くと、案内役が声を荒げる。
「お頭ぁ! 英雄姫とご一行がお着きになりましたぜ! 」
間違いない、海賊だ。お頭言ってるし、領主といっても貴族じゃないだろ絶対。
「通せブッティーラ! 」
「へい! 」
室内からしゃがれた声がする。間違いなく酒焼けした声だ。
扉が開かれ、領主の姿が現れる。
真っ白な多量の髪と髭、まるで白髪の獅子だ。
齢を感じさせない覇気と眼光、それに鍛え抜かれた巨躯
そして左目にかかるお決まりの眼帯
はい、大海賊のお頭様です。
そんな風貌の領主は、ソフィアを見るに顔を緩ませ声を出しドコドコと近づいてきた。
「ソフィ! 」
え
なにこの好好爺さん、一瞬海賊って忘れてほのぼのしちゃったよ!
「ホールデン小父様! 」
ホールデンと呼ばれた領主は、ソフィアを子供の様に抱きかかえると、クルクル回り始めた。
「さすが我が親友の孫娘! ヴィクトールの誇りにして秘宝よ! 」
「お、小父様。ソフィはもう大人です、恥ずかしいのでおろしてください! 」
「ワッハッハ、連れない事を申すな! 儂は今うれしくてうれしくて、仕方の無い事なのじゃ! 」
なんだろう、すごく心が暖まる光景だ。ソフィアさんも嬉しそうにはにかんでるし。
「みろみろナイトのにーちゃん、あれがお嬢の素の顔だ。気を張っている時と違って、カワイイもんだろ? ガハハ! 」
グリードさんの言う通り、なんだかんだ気を張り続けてたんだろうな。その緊張が一気に緩んだ、そう思わせる笑顔だ。
「な、ぐ、ぐりーど!余計な事を言うな! 」
「おぉ、グリード! 久しいの! よくぞソフィを守り通した。今宵は腰が抜けるまで飲みあかそうぞ! 」
「久しぶりだなキャプテン・バルバロス! 今日こそは飲み倒してやるからな! 」
「抜かせ小僧! 100年はやいわ! お前の親父、【盾】がどうなったかお前も見てるだろう? ガッハッハ!」
「ガッハッハッハ! ありゃ傑作だったわ! 」
この人たち、常に酒が付きまとうんですね。それとオースロックさん、酒で潰されたのかな?二人共どんだけザルなんだよ。
「おぉ、【剣】もおるではないか! なにをかしこまっておる! 」
「お久しぶりです、バルバロス・ホールデン辺境伯」
え、クレイグさん? 辺境伯って言いました? 貴族? この大海賊のお頭が!?
ソフィアさんを下してから、ホールデン辺境伯はエルフの女王ミルレードへ近づき跪く。
「女王ミルレード様、100年の間ご不憫をかけました。今は亡き親友ヴィクトールに成り代わり謝罪申し上げます」
「お顔をお上げください。救出していただく為に尽力された事を感謝申し上げます」
「もったいないお言葉、全ては我が親友の孫娘ソフィアの功績にて。これからはどうか健やかにお過ごし有らん事を」
「ヴィクトールは旅立ちましたか……」
「はい……」
話を聞いてると、どうやらこのホールデンさんと先代国王は親友で、ミルレードさんも関係者みたいだ。
人に歴史在り、今回の救出が少なからずヴィクトール王国に影響がでそうな予感がする。
しんみりしている二人にソフィアさんが声を掛けた。
「小父様、立ち話もなんですから」
「おぉそうじゃった。皆席に着いてくれ、申し訳ない」
円卓に各自が着席する。それにしても大きな部屋だなぁ、まぁ辺境伯ってくらいだから相応の事かな。
「小父様、先程ソフィの功績と申されましたが、それは違います」
「どういう事だ? 先陣を勤め、ラドルアとの交渉に持って行ったのは其方ではないのか? 」
「あくまで切っ掛けに過ぎません、本来の功績者はこちらの御使い殿とナイト殿……です」
なぜか頬を赤らめて俺達を紹介してくるソフィアさん。嫌な予感がするのですが
「ほう、詳しく話を聞かせてもらおうか」
露骨に覇気を垂れ流し、プレッシャーをかけてくるホールデン辺境伯
なにこれ、まるで娘さんを下さいと言いに来た男に対し、ぶち殺すと言わんばかりのお父様みたいな空気じゃないですか。
言葉を違えれば一触即発
願い事が叶うのなら願いたい。
誰か俺と代ってください、お願いします。




