暗影の終焉
『落とし前? 神崩れ? 道化師? クックック、面白い、面白いぞ、名も知れぬ者よ。さぁみせてみろ、貴様の力を! 』
言われなくても見せてやるよ。お前は敵だ、俺と家族の敵だ。
『王の命である。対の真珠貝アコヤよ、眼前に真なる姿を現せ』
俺の命令が下ると、虹色に輝く両手の部分がキラキラと剥がれ落ち、交わり、その姿を見せた。
──王令ニ従イ、対ノ真珠貝アコヤ御前ニ
その姿は中性的な顔立ち、華奢な体躯であるが、何物にも触れさせぬ雰囲気を纏っていた。
『対の真珠貝アコヤよ、この時空に溶け込み仇なす全てを喰らい尽くせ』
──仰セノママニ
返答したアコヤは静かに、そして空間に溶け込む様に姿を消した。
だが、変化の兆しが無い。それに業を煮やしたか、邪神は苛立ちを込めながら口を開いた。
『何をしている? なにも起こらぬではないか。興ざめだな、ならば貴様を喰らい現世を恐怖で埋め尽くすとするか』
邪神アークは無数の鎖を放ち、キドナイトを喰らおうとする。
だが、鎖はキドナイトに届かない。
キドナイトが身を動かしている様子は無い。
ならばなぜ届かない?そう思う邪神は鎖を止める。
『なんだ、これは。なぜ我が鎖がとどかぬ? 』
困惑する邪神に向かってキドナイトは吐き捨てる
『喰らっているだけだ。紛い物の神崩れ』
その言葉を理解出来ぬ邪神アークは沈黙するばかりだ。
『わからないのか? なら、わからせるだけだ』
『対の真珠貝アコヤよ、俺の望みを叶えよ。喰らえ、喰らい尽くせぇえええええええええ』
その瞬間現れる顔、顔、顔。
上下左右、それだけに留まらず、邪神の体、鎖、果てはその内面にも無数の顔が現れた。
そして一斉に目を開け
口を開く
──貝口
『!? 』
邪神アークはなにも出来なかった。
痛みも感じず、声も出せず
ただ視界が粉の様に散り、消えていくのを見ているだけだった。
否
それだけではない
邪神の存在すら消え始めているのだ。
本来依り代を使い、現世に降臨する邪神
その依り代が朽ちても、その存在は消えない。
だが、対の真珠貝アコヤはその存在すら喰いはじめている。
時空を超え、次元を超え、ありとあらゆる因果の果てすら喰らい続けるアコヤ。
それすら気づかない、いや、気づけないまま邪神アークはその存在を喰われ、消えた。
◇
防戦一方のソフィア達は、徐々に消耗していった。
前線ではクレイグが剣を振り続け、落としきれない鎖をソフィア・グリード・ライラの3名が必死にかわし続ける。
「おやおや、皆さんお疲れでしょうか? かわしきれず全身が切り傷だらけではありませんか? 」
ニタァっと口を歪ませ、瀬々笑うトート。
それに対し、反論する余裕もなく4名はひたすら鎖に対応していた。
このままではまずい、とくにクレイグが限界に近付いている。
落としきれない鎖の数が徐々に増え始めているのだ。
「そうそう、皆さんには聞きたい事があったんですよ。いえね、わたくしここにいるエルフ共を回収しにきたのですが、どうもエルフが結界を施したらしくてですね、回収できないのですよ」
──知った事か
返事をする余裕の無いソフィアは心で叫ぶ
「もし、もしもですよ? エルフ共の回収に協力していただけるのであれば、鎖を止め、貴方たちの命を見逃しても良い、と思っているのです」
──くたばれバケモノ
言葉を聞いたグリードが心で叫ぶ
「そうですよね、返事もしたくない程拒絶されますよね。わかりました、そろそろこの茶番をお終いにしましょう。それでは皆様サヨウナラ」
広間のそこかしこから鎖の刃が現れ、ソフィア達へ飛び掛かってきた。
それをかわす余力もない
グリードが叫ぶ
「クレイグ! 悪いがライラのねーちゃんを頼むぞ! 」
その声に呼応したクレイグは最期の力を振り絞り必殺の剣を繰り出し駆ける
ライラ周辺の鎖を一掃し、壁際までライラと跳躍。壁と自身の体の間にライラを置き
「後始末はまかせました」
と言ってライラに背中を向ける。
グリードは大槌を床に叩きつけ、大穴を作り、周囲の鎖を衝撃で散らすとその大穴にソフィアを放り込み
「すまねえ嬢ちゃん、親父によろしくいっといてくれ」
と言葉をはなつと自ら大穴の蓋になった。次の瞬間、クリード・クレイグの体に無数の刃が突き刺さった。
◇
帝都上空の狂黒竜は全ての邪竜を屠るとゆっくりと地上へ墜ちていく。
その体はボロボロで、翼を半分捥がれ、片腕は無く、脇腹を引き裂かれていた。
すでにジークフリードとしての意識も無く
黒竜としての意識も無かった
ただ狂黒竜は満足して墜ちていった
◇
「元帥、これはどうしたことか」
ラドルア皇帝は驚きを隠せぬまま言葉を出した。
無理もない、皇帝一族の身体に刻まれた邪神の呪い
ラドルア帝国の暗影足る生贄の紋章が消えていったのだった。
誰一人の例外もなく
「あぁ……御使い殿、成し遂げたのですな」
ヘルダーは皇帝の返事をする前に思わず言葉にした。
暗影の終焉と、これから始まる帝国の騒乱
喜びと憂いが混ざり合う不思議な気持ちを抱えて、只々窓辺から見える暗雲の晴れた空を見上げるのであった。




