鳴り響く凶兆の鐘
──ゴーン、ゴーン、ゴーン
まだ夜も明けぬ深夜の事、巨大な鐘の音がラドルア帝国帝都に響き渡る。
「なんだこの鐘の音は!? 」
おはようございます、きどないとです。
今も鳴り響く巨大な鐘の音で起きました。完全に不意打ちです。いきなり邪神到来を告げる鐘が鳴り響くとか、どんなドッキリですか!?
昨日の晩餐後、ヘルダー元帥達の相談を受けてる最中に気を失い、そのまま寝室に運ばれて寝かしつけられてた様です。
隣に寝ていたであろうシェルは、邪神の気配を感じ取っていたのかすでに起きている。
無言のまま俺と手を繋ぎ、以前の様な半身に溶け込む状態へ。
間髪入れず心中に声が響く。
──主様、事態が動きました
うん、わかってる。邪神だね?
──左様でございます
早速なんだが、俺はどうすれば良い?
──対邪神の戦闘となれば、今までの様な余裕は御座いません
──初手から全力で交戦致します故、御身をお貸しください
意識を飛ばすのは無しだ。シェル、一人で戦おうとするな。
──賜りました。私の目を持って事態をご覧ください
その言葉を告げると光白貝の騎士が部屋の鏡に映る。
光白貝の鎧兜を全身に纏い、顔には女神と思われる様な美しいマスク。
そのマスクには以前と違いがあった。
左目はきどないとの眼光、右目には何もかもを見通す様な青き瞳。
初めて見るその全容にきど本人は驚きを隠せなかったが、光白貝の騎士は風の様に素早く部屋を出て、駆ける始める。
おいシェル、この姿初めて見るんだけど!
──今は時間がございません故、説明は事後にて
はい、すみません。
邪神の元であろう場所へ一直線に駆けるシェル。
場所はどうやら帝国宮殿の様だ。
──私は女神の御使いシェル。皆様時が来ました。邪神の降臨です
シェルはどうやら討伐組へ語り掛けているようだ。まるで神託、女神の御使いって実感させられる。
──急な状況なので予定を多少変更します
まぁそうだよな、いきなり出現とか。
──ヘルダー元帥は宮殿へ赴き、皇帝一族の死守
──ライラはヴィクトール王国の3人をつれてエルフ達の元へ
──ジークは黒竜を伴い、一刻も早く私に同行せよ
よかったなソフィアさん、お留守番じゃないみたいだ。
◇
数分もしない内に帝国宮殿が見えてきた。宮殿上空には禍々しい暗雲が渦を巻いている。
ありゃいよいよ邪神降臨だわ、本当にそう思えるこの状況。
そんな事考えていると後方より黒竜の咆哮が鳴り響いた。
──ゴガァアアアアアアアアア
ジークさんと黒竜のお出ましである。
俺達に向かい低空飛行で近づいてくると、シェルは走りながら跳躍する。
黒竜に騎乗しているジークさんの後ろに立ったままのシェル。
そんな状況に驚きもしないジークさんと黒竜。どんだけ場馴れしてるんだ?
「御使い様、ご指示を」
淡々と話しかけるジークさん、ちょっとかっこいいと思った。男子が憧れるTHE騎士って感じだ。
──宮殿上空に渦巻く暗雲へ一直線に
「御意」
シェルの言葉を受け、全速力で空を駆ける黒竜
その様はまるで黒矢の如く
──私が離れたら帝都一帯を死守してください。
──おそらくですが、邪神の使いたる邪竜が群れを成して現出するでしょう
「承知」
短いやり取りを終えたジークさんの眼光は決意を漲らせている。
暗雲はすぐそこまで迫った、いよいよ邪神との戦闘がはじまる。
◇
暗雲が眼前に迫ると、シェルは両手をかざし開口する。
──ゲート・トリダクナ
暗雲の上下に巨大なシャコ貝の門を出現させると、躊躇いもなく自身をその中央へ飛び込ませた。
──では皆様、御武運を
シェルの言葉を聞くや、ジークさんと黒竜は急速旋回し、その場を離れる。
──クローズ
上下に現れた巨大なシャコ貝の門は一瞬にして暗雲を俺達ごと飲み込み、閉まった。
◇
私は女神の御使い様が暗雲と共に消えてからというもの、黒竜と共に帝都上空を旋回しつつ、他に異変が無いか注視していた。
御使い様の神託
伝説には在ったが、所詮伝説。おとぎ話程度にしか思わなかった邪竜。
それが群れを成して帝都を襲撃してくる、そう告げた。
私は生き残らなければならない
ヘルダー様の願い
帝国の安寧の為に
そう考えてると周辺の変化に気付く。邪竜共のお出ましだ。
渦巻く暗雲中央は御使い様が閉じていたが、周辺の曇天から十数体の邪竜が舞い降りてきた。
牽制する余裕は無い。初手から全力で掛かるしかない。
「悪いが黒竜よ、その命を私に預けろ」
──グルァアアアアアアアアアア
人竜一体
文字通り黒竜と一体化した私は全速力で邪竜の群れに向かって突進した。
すべては帝国の為に。
◇
「皆さまこちらです! 」
ライラの声が薄暗い帝都地下道に響く。
「このまま突き当たるまで一直線に進んでください」
ライラを先頭にソフィア・グリード・クレイグの3名は秘密の通路を駆ける。
「おい、ライラのねーちゃんよ!警備の兵はいねーのかよ? 」
グリードが不審に思うのも無理はない。
なにしろここまで帝国の一兵たりとも遭遇していないのだ。
「グリード様、この状況は異常です。配置されている場所に兵士がいないのですから……」
「なんだって!? 」
ライラの思いもよらぬ言葉に緊張が張り詰める。
「状況を詳しく聞きたい。ライラ殿、いかほどの兵が配置されてたのだ? 」
ソフィアの言葉にライラは駆けながら答える。
「約50名程、それもヘルダー様直属の精鋭です……皆様、速度を上げます」
「なんてことだ……わかった、急ごう! 」
ヘルダー直属の精鋭が50名も姿を消す、これ程の異常事態はライラ含め他の3名もただ事ではないと感じ取り、エルフ達の元へ駆ける速度をあげた。
今だ夜は明けないままに。




