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138話

 翌日からは、学園でもやっていた大勢の生徒から放たれる魔法を受け流しながら反撃を行うという訓練に移ったが──そこに加えて、クレア、ジェシカ、フレーナからも不規則に魔法が飛んでくるようになった。もちろん馬鹿正直に飛んでくる筈もなく、海水に混じって不意打ちをしてきたり、生徒達の魔法に混ざっていたりと嫌らしい形で来る。


 しかし、それらに即座に対応して対処できるようになることを求められているという事を拓郎は理解しているため文句は言わない。心の中で多少の悪態はつくが、せいぜいそのレベルである。レベル9に到達することはできたが、それでもまだ道半ば。次のレベルであり最高のレベル10に到達するまで大きな休息はない。


 そして、この訓練で拓郎は明確な被弾を何度も受けていた。流石に魔女の遠慮のない魔法を見切るのは難しく、生徒の魔法に限りなく擬態した魔法などに何度も魔法のシールドを食い破られている。が、その受けたダメージを回復魔法で回復させて訓練を続行。その姿を見て魔法を浴びせている生徒達はドン引きしているが、続けなさいと魔女3人に言われれば止まるわけにはいかない。


 結局休憩時間までに、拓郎は10回を超える魔法によるダメージを受ける事になった。普段以上の精神的な疲労が大きく、普段は人前では見せない地面に座りこんで息を必死で整える姿を見せていた。


「拓郎があそこまでへとへとになった姿を見るのはすげえ久しぶりだな」「クレア先生たちが学園に来る以前ぶりじゃない? 無理もないけどさ」「俺達が喰らったら即死する魔法を受けて五体満足でいられるって時点で凄いけどな」「そもそも魔人、魔女の魔法なんて一般人がその身に食らう事なんてまずないからなー。数少ない例外は犯罪者だけど」


 休憩中の生徒の間での会話も、拓郎の様子についての話題一色となっていた。普段の姿とは全く違うのだから当然だが、更に魔女の魔法を何度も被弾してなお訓練が中断されることは無く、休憩時間まで持たせた事も話題に上る理由を大きく上げていた。常人なら手加減されてなお一撃でも喰らえば永久に覚めない眠りにつく魔女の魔法を受けてなお五体満足というのは、一般常識にあてはめるとあり得ない事柄だ。


「ガチで拓郎のレベルアップがヤベー」「もうほぼ魔人状態じゃねえか……しかも回復魔法による回復がめっちゃ早い。かなりの深手がゲームみたいに一瞬で回復しているのを見た?」「もう拓郎は一生どこに行っても困らねえだろ……防御や回復に長けている魔法使いは世界から見てもかなりレアだろ? 防御に長けている魔法使いはそこそこいるが、回復までできるとなると一気に数が減る」


 なにより、拓郎がレベル9になった事を生徒達&教師陣も理解していた。一昨日までの拓郎ではない、と分かりやすい出来事が先ほどの訓練にいくつもあったからだ。魔法の無力化がもはや呼吸をするぐらいに自然に行われ、魔女の魔法を受けてなお倒れる事もなく、そして回復魔法の質が明確に上がっているのだから。


「あんな奴が同級生なんだもんなー……俺ももっと頑張るべきだったかなぁ。そうすればもう1レベルこの時期に上がっていたかなぁ」「いや、ちょっと冷静になれ。世間的にレベル4は一流なんだぞ。お前さんはすごいんだぞ」「気持ちは分かるけどな……あんな凄い奴をみたら、レベル3や4なんて塵だもんな」「レベル10を目指し、ここまで上がってきたって人物が目の前にいるって時点で鳥肌が立つよ」


 実際、合宿に参加している学生メンツの平均レベルは3.7である。これは一般常識にあてはめると十分にすごいレベルである。だが、この合宿を最後までやり抜けば平均は間違いなく4を超えてくる。彼らもまた一般的にはすごいと言われて尊敬を受けるレベルに入りつつあるのだが──拓郎の存在が、そういった心の芽生えを潰していた。


 だからこそ、彼らや彼女達もまだまだ伸びる。自分達はまだまだだと常に心の底から思いつつ訓練に没頭する、そこに慢心や甘えが入る隙は全くない。だからこそ、合宿の訓練のきつい経験がそのまま血と肉に代わる。彼らにとって得難い経験を、現在進行形で積んでいるのである。


「そろそろ休憩終わり~、さあ訓練を再開しなさーい」「「「「「はい!」」」」」


 フレーナの言葉に、誰もが大きな声で返答した後にすぐさま訓練を再開した。こうしてこの日は拓郎がさらにある程度被弾しながらも訓練は予定通りに進み、そして無事に終了した。



「で、拓郎。マジで大丈夫なのか?」「きついけど、大丈夫だ。流石魔女の3人だよ……俺がだめにならないぎりぎりの魔法に調整されていたから」


 訓練が終了し、晩御飯のチキンステーキにサラダ、スープにライスといったメニューを口に運びつつ、雄一は拓郎に塔かけ、拓郎の返答が上のやり取りた。拓郎は別に強がっておらず、本当のことを口にしているにすぎないのだが──


「いや、普通は魔女の魔法を喰らったらその時点で終わるんだからね? 魔女の魔法を受けても回復魔法で直して訓練続行って普通の人からすれば化け物だからね? 一応自覚してね?」


 と、他のクラスメイトの女子生徒から突っ込みが入る。彼女の突っ込みに対して周囲では何人もが頷いていた。拓郎は苦笑するほかない。


「まあ、流石にその辺りは分かっているよ。そこまで常識知らずになるつもりはないからな」


 という拓郎の返答に対して、本当かなぁ? という疑いの視線を送る人は何人もいたが……拓郎にとっては気にしない方が精神衛生上良い事になるだろう。


「でもさ、レベル10を目指すって時点で常識なんか気にしてたら負けじゃないかな? 拓郎君には明確な目的があるし、その辺りは他の人に自分の考えを押し付けないようにしていればいいんじゃないかな」


 と、ここで珠美の意見が発せられる。この一言で空気も変化を見せる。


「それはそうか……確かにレベル10を目指すって時点で常識にとらわれていたら駄目か」「必死に訓練をし続けても届かない領域だもんね。常識は捨てなきゃやってられないか」「周囲に自分の意見を押し付けず、本人がただひたすらに努力しているだけだから拓郎が恐ろしいとは思った事ないからなぁ」


 といった意見も次々と飛び出した。このタイミングで拓郎は一言口にした。


「そもそも、常識で言ったらレベル3で一流扱いだろ。レベル4や5を目指して合宿に来ている皆だって十分常識という範疇からは逸脱しているという自覚を持っておいた方が良いぞ」


 この拓郎の言葉に誰もがぐうの音も出なかった。拓郎の言う通り、ここに居るものは常識から逸脱を狙う者しかいないという事をいまさらながらに痛感させられた形となったのだ。


「そっか、そうだな」「俺達も十分、一般から見れば常識外れだもんな」「拓郎のことを言えねえわ、悪かった」「でもさ、チャンスがあったら狙うじゃん、レベル3で満足できないじゃん!」「その気持ちは誰も持ってると思うぞ? だからこそあの地獄のテスト上位30名をめぐる戦いが起きたんだからな」「でも合宿に来た甲斐はあったよな、学園じゃ見れないものがいっぱい見れる」


 という会話が行われつつ、この日の夜は更けてゆく。後は風呂に入って寝床に入れば、だれもが次々と夢の世界へと旅立ってゆく。こうして、合宿の後半も問題なくスタートした。彼らが日本に帰るまで、後二週間を切っている。

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