128話
すみません、スランプで更新が遅れに遅れました。
それから三日が経過し、夏休みはもはや目と鼻の先。だが、生徒はだれもが夏休みの予定を口にしなかった。今この一瞬を逃さないように必死だったからだ。理由はフレーナという新しい魔女が登場して、風魔法を始めとしたさまざまな新しい魔法の知識を生徒達に与えているためであり、学園の生徒達はまた一段と成長を遂げる。
それは外部から来ている生徒達も同じであり、風魔法に関する知識が増える事でよりスムーズかつ消費する魔力を抑えて魔法が発動できるようになっていた。数日の指導でここまで変わる事は外部の生徒達にとって驚愕の事実であり、後わずかな時間しかこれが学べないという事実がより外部生徒の心を苦しめる。もっと学びたいのに、取り上げられてしまう事実に耐えられないのだ。
そして、拓郎の訓練にフレーナとの直接指導も加わっていた。直接戦う事もあれば、生徒達に囲まれた状態で防御、反撃する訓練の中にフレーナの魔法が混じるようにもなった。拓郎にはより綿密な判断力と魔力運用が求められることになったが、拓郎はこれもまた自分をレベル10に導くための道程として受け入れていた。
更に、そんな拓郎を始めとした学園の生徒達の訓練を見学したいと申し出る警察、ならびに警備会社の申し出もひっきりなしだ。日本で一番実践的な魔法が学べる場所としての地位を図らずしも得てしまった学園は、こういったお客を受け入れなければならない状況になっていた。むろん、生徒達の訓練に邪魔が入らないように校長を始めとした学園の教師や関係者は尽力しているが。
この日もまた、警察と警備会社が見学していた。見学しながら、お互いの意見も交し合っている。
「見た目はとんでもないですが、しかし実に実践的です。あれが出来れば、太刀打ちできる魔法使いはそうはいませんよ」「魔女と戦える生徒がいるとは聞いていたが、想定以上だ。あそこまでの実力をあの年で身に着けるとは、何ともはや」「彼の影響で、他の生徒達が己をより磨いていく流れが生まれている事が良く分かります。彼の魔法を見て、それを手本として己の魔法を変えていく。言葉や教材では代替できないですね」
などの言葉が交わされる。魔女を見て、拓郎を見て、そして生徒を見る。魔女と拓郎の戦いを見て経験を得る、そして拓郎の魔法を味わって己の魔法に足らないところ、改善すべき所を知る。そして改善を行ったらまたすぐに拓郎の魔法を味わってさらに先に進む。これを繰り返す事で、時間は短くても得られる魔法に関する経験値が莫大になっている事を、警察や警備会社の見学者は理解している。
更に理論的な疑問が生まれれば、すぐさま魔人、魔女の教師がそれを説明して理解を深めている。何故こうなる? どうすればあのような魔法が使える? といった疑問の熱が冷めないうちに説明を受けて理解できるという鍛えが入り、すぐさま試す事が出来るという磨きを行える。まさに、理想と言っていい環境がここにはある。
「学生の時に、この環境が欲しかった。なんてことは誰もが思うでしょうが」「生徒達もそうでしょう。もっと早くに出会えればもっともっと上に行けたと思う生徒は多い筈です。故に、今年入学してきた一年生は非常に運がいい。この環境を三年間享受できるのですから」「むろん、運だけではなく入学するための狭き門を超えてきたの事実ですが。しかし、我々にはその可能性すらなかった」「魔人、魔女に直接教えを乞える。非常に贅沢で、非常に素晴らしい話ですな」
訓練内容を記録しながらも、彼らは次々と言葉を発していた。この環境が自分の時代に在ればという羨み、そして妬み。それらを口にしなければやってられないという所もあるのは仕方がないだろう。そして話はこの学園の教師の方に向かう。
「ですが、この学校で魔法の能力を伸ばしているは生徒達だけではないという事もまた重要な話ですな」「ええ、レベル4魔法使いの教師が放ったファイアボールを、レベル2の魔法しか使えないこの学園の教師が容易く防いだという話を初めて聞いた時は耳を疑いましたよ。それまでの常識を覆す話でしたからね」「しかし、それは事実であったと判明したときの反響はすさまじいものがありましたからな。こういった場に身を置くことで、教師もまた学び、鍛えられる事でレベルを超えた実力を持つに至る可能性がある。この学園にて魔法を一から学びなおしたいという大人も多数いますからね」
──彼らの言う通り、この学園で魔法の訓練に参加したいという大人の数は増える一方だ。学園側はさすがに受けれる余裕がないという事で断っているが。警察や警備会社なども許されるのは基本的に見学までにとどまり、訓練に参加は許されない。流石に大人が混じれば生徒達もやりにくくなるだろうという校長の考えがそこにはある。
「一縷の望みで夏休み中にこっちに教えて貰えないかと要望も出しましたが、そちらもすでに埋まっているという話でしたからね」「ああ、合宿に行くという話でしたな。合宿に参加できない生徒達も、学校にて学ぶ場所を用意されるという事で、こちらに回す余裕は全くないと断られましたから」「魔女が先導する合宿、ぜひ見学したいものですが──そちらは完全に拒絶されましたからね。実に残念です」
という事で、夏休みならば空き時間があるのではないかと考えた警察などが要望を出したが学園はそれらを全て断っていた。学園が嘘をついているわけではないのだが、もっと情報を外に出してほしいという要望は後を絶たない。そんな要望など生徒達は知らないまま、今日も訓練に必死に打ち込み続ける。
「さあ、残り5分は私と一対一よ。始めましょうか」「よろしくお願いします」
拓郎が行うこの日の訓練時間のしめは、フレーナとの一騎打ち訓練となった。挨拶を交わした1秒後には、お互いの魔法がお互いの魔法を食い破らんと激突していた。フレーナは魔法のレベルを拓郎に合わせたレベルにまで落としているとはいえ、それでもレベル8だ。結界が無ければ周囲はあっという間に凄惨な事になるだろう。
フレーナは特製の風を中心にいくつかの魔法を放ち、拓郎はあらゆる属性でそれらに対抗する。それらがすべて相殺されて爆発や衝撃を結界内にいるフレーナや拓郎に襲い掛かる。それらを両者共に魔法障壁で受け流しながら次の魔法を放つのだ。ある意味互いを信頼しているからこそできる魔法のぶつけ合いだ。こいつはこの程度の魔法奈なら傷一つ追わない、という物騒な信頼だが。
「良いわね、魔法の乱れもない美しい魔法だわ。その調子で続けて頂戴?」「了解です」
魔法を撃ちあいながら、そんな会話も時折混ざる。そんな二人に学園の生徒は苦笑し、外部受け入れの生徒は頭を抱える。まさにレベルは高いが何とか理解できるのと、全く理解できないの差がその反応の違いを生み出している。外部受け入れの生徒からしてみれば、何度見ても拓郎が殺されるつもりか? とぶっ飛んでいるようにしか見えないからだ。
一方で学園の生徒達は、レベルは高いが拓郎ならば耐えられると信じている。そしてこの魔法を通してのやり取りから学べることは非常に多いという事をよく理解している。なのでフレーナと拓郎の魔法発動をよく見て、自分にも取り入れられる所は無いかと貪欲に先を求める。その姿勢こそが、この学園の生徒のレベルを底上げするのだ。
そしてそれは生徒達だけではない。教師たちもまた必死で学んでいる。魔法のレベルはもう上がらなくても──魔法の力を高める事は可能であると知ったから。なので、参考にできるものはある意味生徒以上に貪欲に学ぶ。魔力をしっかりと練り上げ、無駄なく展開。そうすれば他の高レベル魔法使いが放つ魔法であっても対抗できると経験したから。
「実に理想的な流れがここにはあるね」「ええ、私もそう思います。誰もがこの一瞬から何かを得ようと真剣になっている。とても良い事です」
そんな状況を見て、ジャックとメリーは微笑む。今後も彼らは伸びていく未来が見えるから。そしてその未来をしっかりと自分達が支えようと改めて心に誓ったから。こうして夏休みを迎える直前まで、様々な人々の思惑が入り乱れる。そしてついに夏休みへと時が進み──最後の外部受け入れの生徒達は内心で血の涙を流しつつ学園を後にする。
そして当然ながら、合宿に参加する生徒達は7月中に課題を全て終わらせるために毎日机にかじりついて取り組むことになった。8月前に課題を終わらせて提出することが参加条件なのだから、当然なのだが。拓郎は7月の25日に全てを終わらせて学園に提出。他の参加する生徒達も大体その前後に退出していた。一部、30日に提出とぎりぎりになったが、全員が無事提出を終えて、学園から認められた。
そして、8月1日。合宿に参加する生徒達が学園の前に集まる。いよいよ合宿がスタートだ。




