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キスで助けるなんて聞いてません

キスで助けるなんて聞いてないです

そして――距離があと1センチになった、その瞬間。


「何してんの?」


 低く、でも聞き慣れた声が店内に響いた。


 せなの肩がビクッと震える。

ナンパ男は舌打ちしながら振り返った。


「あ? 誰だよお前。今いいところなんだよ、邪魔すんな」


 その背後に立っていたのは――しゅいだった。


「きてくれたの……?」


 せなの声は震えていて、涙が滲んでいた。


「待たせてごめん。でも……まずはこいつを片付けないと」


 しゅいの声は低く、怒りを押し殺していた。


「お前誰だよ!」


 ナンパ男が怒鳴る。


「は? 彼氏だけど?」


 しゅいは一歩前に出て、せなの前に立つ。


「というか……うちの彼女にこんなことしてくれたんだ。相応の罰は受けてもらう」


「何を偉そうに」


 ナンパ男は鼻で笑い、せなの肩をポンと叩いた。


「俺の方がかっこいいに決まってんだろ。な、せなちゃん?」


「やだ……」


 せなは震えながら、しゅいの服の裾をぎゅっと掴んだ。

その手は冷たくて、力が入っていない。


「ってかさ、せなちゃん、お前のこと彼氏なんて呼んでねぇじゃん。本当に彼氏?」


「あ、当たり前だろ!」


 しゅいは焦って声を上げる。

本当は彼氏じゃない。でも、今はそんなこと言っていられない。


「嘘つけ。お前、彼氏じゃねぇだろ」


「そ、そんなわけない!」


「じゃあ……キスしてみろよ」


「……は?」


 空気が一瞬止まった。


「彼氏なら、彼女にキスできるよな?」


「な、何言ってんだよ……!」


「できないなら、彼氏じゃないってことだ」


(こいつ……めんどくせぇ……!)


 しゅいは深呼吸する。

顔は真っ赤。

でも、せなを守るために逃げられない。


「どうした? やっぱできねぇのか?」


「で、でででできるし!!」


「フェ!?」


 せなは驚きすぎて変な声が出た。


「じゃあ、今すぐやれよ」


「……分かった」


 しゅいはせなの手をそっと取って立たせる。

せなの足は震えていて、立つだけで精一杯だった。


 しゅいの顔が近づいてくる。


「ち、ちょ……! しゅい……! 無理無理無理! 心の準備が……!」


 せなの視界が揺れる。

頭が真っ白で、呼吸が浅くなる。


(やだ……でも……しゅいが……)


「嫌だよね。本当は彼氏じゃないのに……。でも、ごめん。俺はせなを助けたい」


 その言葉が胸に刺さる。

しゅいの顔が近すぎて、心臓が痛いほど跳ねる。


「止まってよ……!」


 せなは涙目で後ずさろうとするが、壁が背中を押し返す。

逃げられない。

視界がぐるぐる回る。


(ほんとに……ほんとにキス……?

 やだ……恥ずい……しぬ……! でも……しゅい……。やっぱ無理! 恥ずい恥ずい恥ずい!)


「せな」


 名前を呼ばれた瞬間、ハッと目を開けた。


 ――もう、唇が触れていた。


「っ……!!!!」


 頭が真っ白になり、せなはそのままパタリと気絶した。


「くそ……!」


 ナンパ男は舌打ちし、逃げるように店を出ていった。


「これで……一安心……。って、せな!? 大丈夫!?」


 しゅいは慌ててせなを抱きかかえる。

顔は真っ赤、手は震えている。


「って……俺、せなと……キス……した……?

 や、やばいやばいやばいやばい……!

 ど、どうすれば……! なぎとに連絡……いや、運ぶ!?!?」


 完全にパニックだ。


 周りを見ると、カフェの客全員がこちらを見ていた。


「え、っと……何があったんでしょうか?」


 店員さんが心配そうに近づく。


「えっと……いや……違くて……!

 ナンパ男が……その……キスしようとして……!

 で……色々あって……! そ、それで……気絶した……?」


「と、とりあえずこれを……飲ませてあげてください」


 店員さんは水と温かい紅茶を差し出す。


「す、すみません……! ありがとうございます!」


 しゅいは深く頭を下げ、せなを抱きかかえたまま店を飛び出した。


「くっそ……!」


 お姫様抱っこしたせなは軽いけれど、

しゅいの心臓は重く跳ねていた。


「ち、近い……!

 ってか……さっきの……思い出したら……俺の方がやばい人……?

 だ、大丈夫だよな……?

 ……でも……ちょっと……嬉しかったり……

 ……俺、気持ち悪! 何考えてんだよ!」


 しゅいは頭を振って雑念を追い払い、

せなをしっかり抱きしめ直してバス停へ向かった。

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