20 デート
その後、何度かキスをした後に何をしたいか尋ねられたので、宮殿内の見学をしたいと申し出たら、ルシファー様に寒くないよう外套を着せられて、部屋の外に出た。
一応、安静を言い渡されている身なのであちこちは行けなかったけれど、彼が私を抱きかかえて温室に連れてきて下さった。
リーディア達は街へ行ったようだった。皇帝陛下は、執務のため使い魔のベルと共に既に首都の皇城へ出発されている。
宮殿の侍女がお茶の準備をして下がって行った。
「春にはオーダーしたドレスも出来上がるので、また遊びにおいで」
ルシファー様の言葉に、私は頷く。
「アルカナへの訪問予定はないのですか?」
そう尋ねたら、考えるように答えがある。
「私はまだ国内のあれこれが残っているから‥‥だけど、あなたが通っている学園に留学するのも楽しそうだね? 年齢制限はあるのかな」
「国内の学生にはありますが、留学生にはないと思いますよ?」
「だが、そもそも私は精霊魔法が使えないな」
「アルカナの文化を学びたいと言う理由で十分かと」
彼は、確かめるようにこちらを見た。
「‥‥私に、留学してほしいの?」
その言葉に、素直に頷く。
ルシファー様は嬉しそうに笑って口付けた。
「あなたのお願いなら、聞いてあげたいから‥‥検討しておくよ」
そう言えば、尋ねてみたい事があった。周りに人がいないのを確認して話しかける。
「‥‥ルシファーは、ベリーがいる場所には、移動できるのですか?」
一応声を落として尋ねる。そうだったら、会いたい時にいつでも会えるのに‥‥それが分かったのか、彼はふと笑った。
「その通りだけど、ベリーの体にかなり負担がかかるから、あまり使いたくないかな?」
確かにそうだ。あの小さい体から殿下が出てくるなんて、無理がありすぎるわ。
納得していると、ルシファー様が席を立って私を抱え上げた。
「カミラ、私の能力については秘密だと言っただろう?」
そのまま歩き出す。
「お仕置きしようかな」
えっ、何を? と若干恐れていたけれど、特に何もなくて、宮殿内の景色が綺麗な場所を巡っただけだった。
でも、他者には秘密にしておきたい能力を、なぜ私に教えて下さったのかしら? そう言えば、誘拐犯が“名前負けの皇太子”って揶揄してたわ。確かに魔王と同じ名前だけれど、陛下が付けて下さった大切なものだし、私は十分実力がある事を知っている。
部屋に戻り、ベッドに下ろされたので、なぜご自分の能力を私に見せたのか聞いてみた。
「どうしてかな‥‥あなたには知っていて欲しかったからかな」
私の頬を撫でながら、彼は楽しそうに続ける。
「それとも、秘密を知ったあなたがどんな行動を取るか見たかったか、誰かに話したあなたをお仕置きしたかったか」
「‥‥ルシファーって、意地悪なのね?」
そう評価すると、彼は金の瞳を細めた。
「まあ私の中には、悪魔の血が流れているからね」
そんな風に言われても、もう好きだから憎めないし、彼にはたくさん助けて貰った。
蠱惑的な瞳が近付いても、目を閉じて受け入れてしまう。なんかもう手遅れだわ。
明日でお別れなのねと思うと、離れがたい。
彼も同じ気持ちなのか、色んな話をしながら、リーディア達が戻るまでずっと一緒にいた。
そして、出立の日になった。