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第一幕 1ー3

◇◇◇


 作戦はこうだ。騎士隊を二組に分け、それぞれ町の入り口を張らせる。警備隊もそれぞれほぼ均等に半分に分け、入り口の警備に当たらせる。普段、夜番として立たせる兵士以外で、夜間に詰所に詰めている兵士はそれほど多くない。だが、今夜はいつもとはわけが違う。町に常駐する警備兵のほとんどを入り口の警備兵に当たらせている。

 ノエルは普段の警備もそのくらい人数を増やして待ち構えていれば、夜になって出てくる魔族を迎え撃てるのではないかと思わなくもなかったが、どうもそう簡単な話でもないらしい。人数を増やしたところで、襲われる瞬間でさえその魔族は姿を現さないらしい。そして、人数を増やせばそれに比例して、その晩の犠牲者は多かったと。人数が増えたところで犠牲者が増えるだけなら、と早々にその策は諦めてしまったらしい。

 だから、半分に分けた警備兵は数が必要な状況になったときに備えてもらう。前線に立つのは騎士隊の役目だった。

 作戦を話し合う中で、騎士の中の誰かが疑問を口にした。今までと様子が違うことは、魔族側も勘づいているのでは……。斥候役の魔物は一匹たりとも逃がしてはいないが、やつらは帰還せずとも、こちらの様子を把握する術があるはずだ。その中で私たちが待ち構えているところに、都合よく姿を現すものか――と。

 警備隊長はこれに対し、確信はなさげだったが、それでも来るだろう、と答えた。彼が言うには、いまこの町を襲っている魔族はどうも()()()()()()()()らしい。ただ無秩序に人間を喰らうのではなく、何かの目的があって動いているような気がするのだという。その目的は皆目見当もつかないが。

 たしかに、話を聞いていれば、町を一晩で喰らい尽くすのは容易に見える。……目的は人間を喰らうことではない?

 ノエルは昼間の作戦会議を思い出しながら、外套の下で腰に提げた剣の柄を撫でた。そして、前の人生での出来事に考えを巡らせる。ノエルが騎士団長であった期間はそれほど長くはなかったが、それでもその間、父が騎士団長であった期間の騎士団での魔族との戦闘報告書は、できるだけ目を通すようにしていた。ノエルは前の人生では、今日のような作戦に参加した覚えはなかった。けれどクロノスが言ったように、起こった出来事に対する因果が強力であるなら、自分が関わらずとも、前の人生でも同じことが起こっていた可能性が高い。

 警備隊長が言った、何かを狙っている魔族。普通の捕食被害の報告書なら、溢れるほど読んだ。もはや記憶に残っていないものも多い。けれど、なにかを狙っているというなら、普通の捕食被害ではなく重要事案として報告書が挙げられた可能性が高い。

 だが、作戦開始の時刻になっても、未だにそれが思い出せない。自分が死んだときの光景だけは忘れもしない。だが、二度目の人生を繰り返す今、ノエルにとっては数十年も前のことのように感じられて、朧気となってしまった記憶も多い。

 せめて、作戦に有利になるような情報が思い出せれば――ノエルが難しい顔でそう思案をしている様子を、リュファスは慣れた表情で眺める。

ノエルが前の人生の記憶を探るとき、決まって難しい表情を浮かべる。愛想笑いの一つも浮かべない、怒っているわけではないのに気難しそうな表情が、いつも以上に強張るのをリュファスは何度も見てきた。それこそ出会った頃のような年端も行かぬ子供時代から、ノエルはそういう表情を浮かべることがあることにリュファスは気づいていた。

 ノエルは何かを抱えている、それも幼馴染の自分にも打ち明けられないような、重大なことを。あまりに深刻そうな様子でいるものだから、自分にくらいは話してくれていいのに……などと思うが、決まってノエルは「なんでもない」と返すのだ。

 今日もきっと話してはくれないのだろうな、と思いつつもリュファスは難しい表情を浮かべるノエルの顔を覗き込む。

「またいつもの出てんぞ。今度はどうした?」

「……、いや。なんでもない」

 リュファスに声をかけられて、ようやく思考の海から浮上したノエルは、いつもの調子でノエルの顔を覗き込んでくる翡翠色の瞳を暫し見つめた後、ふい、と町の外に広がる森へと視線を向けた。

森の奥はもはや、町の明かりも届かない。少し先まで進めば、辺り一帯は闇だろう。目を凝らしてみても、その先に魔物の姿は見えない。けれど、ノエルには分かる。――来る。

ざわ、と異様な音で森がざわめき立つ。リュファスもとうに気づいていたようで、その手にはすでに抜刀された状態の剣が握られていた。

 森の奥の闇に向かって刺すような視線を送る。まるで、こちらは気づいているのだと威圧するような――。やがてその暗闇の中に無数の光が浮かび上がる。その数は昼間に見た魔物の比ではないだろう。

「……なんか、やけに多くないか?」

 リュファスが目の前に現れた魔物の集団を目にして、手に握った剣の柄をじり、と握り直すのがわかった。

「普段の様子とは違うようだな」

 ノエルは一息の内に鞘から剣を抜き去り、正面に切っ先を向けて視線を周囲に巡らせた。警備隊長の話では、晩に姿を現す魔物が大群であったことはなかったというが。

 後方でぱっと上空に閃光が打ち上がる。もう一人の騎士が信号弾を打ち上げたのだ。と、ほとんど同時に町の反対側からも閃光が打ち上がる。こちらが打ち上げた信号弾と同じ白い光だ。ということは、反対側でも同じように魔物の侵攻があったのだ。

 信号弾を打ち上げた騎士が「あっちもか」と毒づきながら、遅れて抜刀する。

「……今、大軍でこの町を攻める理由があるのか。考えられるとしたら……私たちか?」

「ノエル、考え事はあとだ!」

 ノエルがまた思考の海に沈むと思ったのか、リュファスが即座に叫ぶ。

それにやや気分を害したように、ノエルは「わかってる!」と叫び返して魔力を練り上げにかかる。

先手を取られる前に、まずは数を減らす。ほんの数秒の間にノエルは魔力を練り上げ、魔法を発動させる。正面の広範囲を薙ぎ払うように、炎が迸る。膨大な熱が森の奥から姿を現した魔物を焼き尽くす!

「うお、すげえ……」

 目の前に迸った熱から目を庇うように腕で遮りながら、リュファスがつぶやく。

「惚けてる場合か。まだ終わらないぞ」

 今度はノエルが叫び返して、再び戦闘態勢を取る。

 魔法による炎は――術者の力量にも大いに左右されるが――普通の水では消火することは困難だ。未だ魔物たちの戦列を焼き尽くす炎のすぐ後ろで、後列の魔物たちが怒り狂ったように鳴き喚く声が響く。来る、と思ったと同時に、焼けて悶える仲間の死体を踏みつけながら燃え盛る炎を突っ切って、獣たちが飛び出してくる。後列の魔物たちもノエルの魔法に少なからず焼かれているようだったが、まるで痛みなど感じていないかのように突撃してきたのだ。消火が困難な炎に体毛を焼かれながら突撃してくるその姿は異様そのものだ。

 3人の騎士たちはこれを殆ど一刀のうちに斬り伏せて対処する。リュファスは持ち前の素早さと手数を活かして、次々に魔物たちの壁を切り裂いて進んでいく。悪態を吐いていた騎士でさえ、一振り、あるいは二振りで迫りくる魔物を屠っている。さすがに魔物討伐は慣れたものだ。ある程度の多数対一の勝負にも、経験を積んでいるだけある。問題があるとすれば、体力が続くかどうか――。これほど大規模な魔物の群れは想定していなかったので、配置されている人数がどうにも少ない。持久戦となれば分が悪いのは明らかにこちらだ。魔族が出てくるまでに持ちこたえられるか――。

 と、ノエルは過った不安を意識外に追いやって、突出しかけているリュファスに目を向ける。ともすれば孤立しそうな状況に、自ずと魔物の目がリュファスに向いている。

「リュファス! 出すぎだ、抑えろ!」

 ノエルが声を張り上げたところで、漸くリュファスの歩みが止まる。

「数が多すぎる! ノエル、数を減らしてくれ。リュファスと俺はノエルの援護だ!」

 もう一人の騎士が迫りくる魔物を斬り伏せながら、ノエルの周囲を固めるように陣取る。リュファスもそれに倣うようにして、それぞれ両翼を固めて立つ。



どこで切っていいかわからんすね

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