堅物侯爵
王城の執務室にて一人の男は動揺を隠せないでいた。
侯爵家に代々使えている影で動く伝達係のような者は、それだけ伝えると姿を消した。
「なに…帰ってきているだと…」
侯爵家の当主であるルークの父親は自身の妻の行動に頭を抱えている。まさか、彼女が戻ってきてくるとは。
「屋敷へ戻る準備を」
政略結婚のようなもので結ばれた関係のため、彼女には不満が多いだろう。だから、子どもが授かった後、実家へと帰ってしまった。何が駄目だったのか男には分からず、家族のためにひたすら働いた。いや、もしかしたら目を逸らしたかったのだろう。
馬車を急がせて屋敷へつくと、着飾った妻が待っていた。
「あら、お帰りなさいませ…」
「あぁ…今日は全員分の夕食の用意を……ルークとセレーナを呼ぶように」
執事長は「かしこまりました」と一礼すると使用人が動き出す。
「夕食後、少しお時間はあるかしら?お話したいことがあるの」
「…あぁ」
話とはなんだろうか。男は眉間にシワを寄せた。
───────…
セレーナに絵本を読んでいるルークは使用人から夕食の時間を知らされる。時間になりいつも通り席に座っていると、ドアが開いた。
は………?なぜここにいるんだ。
俺の隣に座った母親は、何か決心したような顔である。
上座に父親が座ると食事が運ばれてきた。
「ほら、、、セリィ」
「あーーーむっ!」
「美味しいか?」
「あい!」
「「………………………」」
両親がいようがいまいが、ルークは変わらない。
セレーナの頬がプルプルと動く。口の周りについたソースを布ナプキンで拭いた。
「ルーク明日は予定あるかしら?」
これは断れない感じか?なんとか適当に…
「…………家庭教師が来る予定がありまして…」
「では、その後は私の部屋に来なさい」
「………はい」
何を言われるのか分からないが、不安しか無い。
食事が終わると、ルークとセレーナは部屋を出ていった。その背中を見つめるのは、ルークの母親である。
「あなたにお話したいことがあるのだけど、今で良いかしら?」
「あぁ…」
「はぁ…もう潮時ね…。離婚しましょう。ルークは私が連れていきますがいいですよね?」
「………………それはできない」
「あなた!!」
「エレオノーラ、君にその決定権はないはすだ。婚約時の契約書にもそう記載されている。」
「……わかりました。あなたがそうなら、こちらにも考えがあります。」
そう言って出ていったエレオノーラを引き止めることができなかった男は頭を抱えた。眉間のシワにさらにシワがよる。
エレオノーラは別居中に実家で愛人でもつくったのだろうか。そんな事を考え、男は「はぁ…」と息を一つ。ふと寝室にある2人揃っての肖像画がに目がいく。有名で予約が1年先まで埋まっていると言われている画家が描いたものだが、どちらも顔も表情は暗かった。