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予想外と変態

爽やかな朝。鳥の鳴き声とセレーナのソプラノな可愛らしい声に癒される中、使用人達の慌てた様子にルークの眉間に皺が寄る。


 この優雅な時間を邪魔されたくはない。今は一生懸命に口と手を動かす天使を愛でていたいのに。




「おにぃしゃま?」




「少し席を外す。何かあれば俺を呼べ。」




 直ちに問題を片付けてゆっくり朝食でもと考えていたルークだが、そうはいかないらしい。問題の元凶は玄関から入ってくる。




 誰だアレはと記憶を辿るが、滅多に屋敷から出ないルークには分からなかった。


 絹のような艷やかな髪を手で払う女に、使用人達は頭を下げ道を開ける。




「お帰りなさいませ 奥様。」




 まさか母親が登場するとは思ってもいなかったルークは、見つかる前にとセレーナの元へ急いだ。


警告音が響く中、打開策はないか考えを巡らせる。唯一の助けである父親は仕事のため不在。やはり、あの女がセレーナを虐げる最悪のルートは回避できないのか。


 セレーナを連れて逃げてしまいたいが、今のルークにはそんな力もない。




「セリィ、朝食は後で今からお兄様と隠れんぼをしよう。」




「かくれんぼ?」




「怖いオークが来るから逃げるんだ」




「シェリこわいでしゅ、、、おにいしゃまじゅっといっしょ?」




「あぁ、俺から離れるなよ?」




 この世界なら誰もが知っているオークは顔が醜く豚のような鼻と牙をもつ。人を食うこともあり恐れられているため、大抵の家庭では子どもを叱る際「悪いことをしたら森からオークがやってきて食われるぞ」と叱るそう。そんなことは知らないルーク。セレーナはというと怒られたことがあるのか、ビクビクと震えている。




「セリィ、声を出すと気づかれてしまう。静かにできるか?」




「あい!」




 セレーナの小さい口は小さい手で隠される。ルークは小さなセレーナを抱き上げると広い庭へと足を進めた。


 草をかき分けると池があり、大きな木には子ども2人が入れるほどの穴が空いている。




「ここにするか…」




 薄暗く程よい涼しさの中でセレーナはこくりこくりと船を漕ぐ。振動で揺れるプルプルの頬と頬をピタリとつけると、ルークはゆっくりと目を瞑った。




 このままでいたいが、そうもいかない。


 今日は父親が帰ってくる日であるため、母親の滞在時間は短いはず。とは言っても夕方まではいるだろう。




「ルークさまぁああ!!ルーク様!!!!!見当たりません…どちらに行かれたのでしょう?」




 メイドの声でセレーナのアホ毛が立った。このアホ毛は感情によって動くらしい。




「おにぃしゃま…こわいでしゅ…」




 震えているアホ毛を撫でると、セレーナはルークの胸に顔を埋めた。




「ルークは?どこなの!?」




 この声は母親か、、、足音が近づき、とうとうオークに見つかってしまった。




「ルーク!!探しましたのよ!!!!」




「……それはそれは。俺はずっとここにいましたが?」




 なにか悪いことをしたか?という顔でルークはセレーナを撫で続ける。母親らしき人はルークから視線を落とし小さなセレーナへと向けた。その視線は憎悪ではなく悲痛のような眼差しである。




「その子は…」




 その震える声に、なんとなくだが夫に浮気されたことにショックを受けているように見えた。母親も浮気をしているではないかと思うが、実際のところ浮気というのは噂に過ぎない。確定ではないが、今考えられることを述べた。




義妹(いもうと)だそうです。父上にはまったく似ておらず、可愛らしい子です。」




「そうね…たしかに、あの人に似ていないわ」




「そろそろ父上が帰ってくる時間ですね。俺はセリィと一緒に部屋へ戻ります。」




「そう…」




 話を切り上げると、急ぎ足で部屋へと戻る。


 母親はなぜあんなに悲しい顔をしていたのだろうか。プライドがへし折られたからか?いつも浮気しているのはあの女だ。




「良くわからんが、セリィは標的にされないようにしなければ」




「うゆ?おにいしゃま?」






───────…


 一方、ルークの母親はその場から動けずにいた。


 あの人と同じ顔の息子の後ろ姿は少し大きくなったように思えた。怖くて近づけず、目を背け続けた結果、ルークの瞳は子供らしさが消えている。




「結局、真実を知ることは怖いのよね」




 恋愛結婚より政略結婚の方が利益があるため、貴族の間では両家は政略結婚をだと言われている。しかし本当は利益のためではない。ずっと、、、




「無理矢理だったから、あの人は振り向いてくれなかった」




 愛が欲しかった。幸せを思い描いていた。現実はどうだ?夫である男は他の子供を連れてきていた。妻である自分の承諾もなしに。もう潮時かもしれない。




「ルークは私の子よ。あの子だけは私が───」




 決心がつくと心は軽くなった。母親はルークの後を追うように屋敷へと戻った。






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