101.ファンタジーにSF要素を混ぜることについては賛否が分かれる。
『所属不明船を攻撃目標として捕捉。マスターからの返答がないため迎撃態勢に入ります』
「いやいやいや……」
急にアラート音が鳴ってイヴから連絡があったと思ったら、軌道上に待機中のホワイトホエール号に近づく物ありと言われた。
この文明レベルで宇宙に出られる船? 神器? いや、待てよ……。
「迎撃態勢解除! 相手船をスキャン! 相手の船は神器?」
とっさにイヴに指示を出して、無茶を止めさせる。ホワイトホエール号が出てくるSFゲームって、宇宙を行く他者は基本的に敵だったから、AIであるイヴはすぐに迎撃態勢を取ろうとするんだよね。あくまで迎撃なので、こちらから先制攻撃はしないけれど……。
『……スキャン終了。相手船、神器ではありません』
「創世の力は中から感じた?」
『神器の反応多数。さらに、超神の反応あり』
「やっぱり。おそらくは、リザードマンのアププだね。絶対に相手船を攻撃しないように」
アププって、もしかして宇宙人だったのかなぁ。
あるいは、この星の古代文明が宇宙文明だったのかもしれないけど。いにしえの大戦とやらが宇宙戦争だったとしたら熱い。
「イヴ、相手はこちらに気づいている?」
『ステルスモードを取っていなかったため、気づかれているかと』
「コンタクトは取れそう?」
『いくつかの手段を試してみます』
推定アププと連絡が取れないか、イヴに指示を出してみた。
そして、数分後、イヴからコンタクト成功の報告が来た。
『光による通信でコンタクトを取っています。相手船、交戦の意思はない模様』
「よかった、神器が多数積まれているなら、戦っていたらイヴも危なかったかもしれないね」
『ホワイトホエール号はこの世界でも最大級の神器。戦って負けることなどありえません』
「はいはい」
いや、確かにホワイトホエール号はパソコンという、情報価値としては最大級の代物がもとになった神器だから、そこらの石や小枝がもとになった神器では太刀打ちできないだろうけどさ。
『相手艦、接舷を希望しています。こちらの船長と直接会って話がしたいと』
「そっか。じゃあ私もホワイトホエール号に跳んで、迎え入れようかな」
『危険です。空には逃げ場がありません』
「でも、相手はアププでしょう? 大丈夫だって」
『確かに相手船の乗組員は、アププ様ひとりのようですが……』
「いいから、いいから。考えつく限りのアイテムを使用待機状態にしたうえで会ってみるよ。イヴは、アププが神器を持ちこもうとしないかチェックね」
危険はあるかもしれないけど、それよりも私はアププと会いたいのだ。
そう、今ならば、アププから古代文明の話を聞けるかもしれない。空の上なら、アププも逃げてはぐらかすことはできまい。ふふふ、どんな謎が待っているかな……。
◆◇◆◇◆
「信じてくれるだろうか。私は八千万年前に生きていた古代人なのだ。最近になって冷凍睡眠から目覚めた」
ホワイトホエール号とドッキングした宇宙船からやってきたアププ。相手は私がホワイトホエール号のマスターという事実にとても驚いていたが、ホワイトホエール号は私の神器だと話すと納得してくれた。
そして、どうしてアププが宇宙船などというオーバーテクノロジーの塊を駆っているか、詳しい事情を話してくれるそうなのでいざ聞いてみたら、こんなトンデモな答えが返ってきたわけだ。
八千万年前! 古代人! 冷凍睡眠! 情報量が多すぎる!
そもそも八千万年前を古代にカウントしていいのかなぁ!
「太古の昔……今の時代で言う恐竜が、直立二足歩行に進化して文明を築いていたのだ。君は私をリザードマンと呼んだが、そうだな、正確に名乗るならば我々は恐竜人だ」
「はえー、すっご。確かに八千万年前って言ったら、天上界ではまさに恐竜の時代だね。それがまさか文明を築いていたとか……」
宇宙SFロマンを期待したら、別方向のとんでもないロマンの塊が御目見得した。
これにはさすがの私もびっくりだわ。
すると、アププは「ギュルギュル」と喉を鳴らして笑い、さらに私に言った。
「では、この事実も驚いてくれるかな。かつて、この惑星の隣には月が存在しなかった。月を作り出したのは、私だ」
「えっ、えっ? 月を作り出した? どうやって?」
「気になるか?」
「もちろん! それを聞かなきゃ今夜は眠れないよ!」
「そうだな。では、せっかくなので一から話そうではないか」
「お願い。できるだけ面白おかしくね!」
「努力しよう」
そうしてアププは語る。
超神であるアププが天上界からこの世界に降り立ったとき、地上には知能の高い生物は存在しなかった。
八千万年前の地上は当時の天上界と同じく、恐竜が支配している世界だった。
恐竜の中には獣神となっている者もいたが、彼らは総じて知能が低く神器という概念は持っていなかった。
そんなアププは、あるとき世界で初めて神器を作り出すことに成功した。道具を使うことすら知らなかったアププは、神器の使用を通じて知恵を付けていった。
それからしばらくして、アププは地上に落ちてきた強大な創世の力を発見した。その力からアププは、遠い空に浮遊する神器『月』を作り出した。
「月って神器だったの!?」
『なるほど、月の光が魔力を発している理由は、神器だからですか』
イヴも、どうやら月が神器だとは気づいていなかった模様。
まさかの事実に驚いている私へ、アププはさらなる情報を語った。
月は無限の魔力を発する神器であり、別に用意した神器でその魔力を制御した。
月の魔力は膨大で、アププは魔力を制御することで奇跡のごとき力を無限に行使できた。
そこまで一人で用意したアププは、自らの友として恐竜を月の力で進化させ、知能の高い新種族を生み出した。恐竜人である。
それから恐竜人は地上に広がって、文明を築いた。
「ここまでが、恐竜人が太古に存在した理由だ」
「はあー、すごいねぇ。ロマンだねぇ」
この星はファンタジー世界っぽいのに、その過去が完全にSFになってしまっている。が、それはそれでありなので構わない。ファンタジーにSFが混じるとか、大好物です。
「だが、私がなぜ八千万年の時を超えて蘇ったか、知りたくないか?」
「知りたい!」
アププのノリの良い問いに、私はすぐさま答えていた。ここまで聞いて、最後の顛末まで聞かないとかないよね。
アププが「ギュルル」と笑って、再び語り始めた。
恐竜人の文明は発展していく。次第に、天上界から降りてくる創世の力を使う者も、アププ以外に現れるようになった。神の誕生だ。
やがて神が増えてそれをあがめる恐竜人が出てくると、神が率いる者の中にアププを敵視する集団が出てきた。
だんだんと住みづらくなっていく地上にアププは見切りを付けた。アププは彼を信仰する民と共に月へと移住することを決めた。
恐竜人の技術は星を飛び出すほどまで高まっており、アププ達は月へと旅立った。
そして、月に文明が生まれた。無限のエネルギー源ともいえる月の力により、月の文明は栄華を誇った。
「ここまでは、よかったのだがな」
だが、地上の文明は月の文明を嫉妬し始めた。そしてあるとき、地上と月の間で大戦が起きる。
その結果、月を制御するための神器は、破壊の神器『大いなる牙』によって徹底的に破壊された。さらに、エネルギー源を失った月面都市は、別の毒をまき散らす神器によって不毛の大地と化した。そして、月の民による徹底的な反撃で、地上も荒廃した。
「これが、八千万年前に興った文明が終焉するまでの顛末だ」
なるほど、栄華を誇った古代文明が争いによって滅びたと。アププの手前、不謹慎すぎて言えないが……定番中の定番な古代文明ぶりで、私は大満足です。
しかし、一つ疑問が。
「神器は壊しても自動で再生するって聞いたけど……」
「『大いなる牙』は、その前提をくつがえす強大な神器なのだ。天上界の恐竜の牙が変じた、神器の破壊に特化した神器だ」
それはまた怖い神器もあったもんだ。
そういった類の神器を使われると、ホワイトホエール号でも落とされるかもしれないのか。念頭に置いておこう。
「かつて月で文明を築いていた私の信徒達の生き残りは、月の地下にある施設で眠りについている」
恐竜人の生き残り! さっき言っていた冷凍睡眠か……。
それから続いてアププが言う。
「八千万年ぶりに眠りから醒めた私は、荒廃していた地上が緑に覆われていたのを見て、移住できないかと調査に来ていたのだ」
リザードマンあらため恐竜人は、アププ以外にもいたわけだ。幻獣とはまた違う異種族として。しかしだ。
「今、地上へ移住するなら、人間の国に土地を確保する必要が出るだろうけど……」
今の地上の支配者は、人間だ。月から地上に降りて、今から住みますよと言って簡単にできるものではない。そう思って私は言った。
すると、アププは「いいや」と否定の言葉を口にする。
「移住はこのままでは無理だ。今の地上は、恐竜人が生きていける環境ではない。肉体変化の権能がある私ならば生きていけるのだが……」
「環境……? 地上って、昔は恐竜人が住んでいたんでしょ? 今の地上に、何か駄目な要素でもあるの?」
「空気がな。空気の中には火を燃やすための成分があるのだが、その濃度が著しく低い。今の地上の濃度では、恐竜人は呼吸が困難なのだ。我々の所持する技術でそれを解決しようとすると、屋内に閉じこもる必要がある。それは健全ではない」
「あー……酸素濃度かぁ」
そういえば、太古の地球は酸素濃度がとても濃かったって何かで見た記憶がある。
地上に移住するには問題があるが、そもそもこのままでは移住すらできないと。
「で、どうするの?」
「さて、どうしたものか。エルフの『ティル・ナ・ノーグ』のような環境改変型神器を手に入れて、地上か月に生きていける環境を作ることが一番なのだが、地上を回ってみたもののどの神器にも所有者がいた。地域に根ざしており、他の神器との交換も不可能だった」
ああ、アププが『ティル・ナ・ノーグ』にこだわってエルフのところにずっと滞在していたのは、そういう理由か。確かにあの神器なら、一定範囲内の酸素濃度を上げることくらい軽くできそうだね。
「月の生き残りに専門家がいれば、神器に頼ることなく新しい技術を考え出して解決できたのだろうが。残念ながら、科学者や技術者は大戦で真っ先に狙われて死んでいる」
「古代人って言っても、専門家は残っていないんだ……技術の継承が途絶えちゃったんだね」
「そうだな。専門書の結晶板は残っているので、長い年月をかければ技術も少しは復興するだろうが、それをするにはまず地上か月に住環境を整備する必要がある」
高度な道具だけが残っている状態なのね。八千万年の時を経ても壊れず使える道具って、考えてみるととんでもない高度なことをしている気がするけど。まあ、月に住むくらいの文明レベルだと、それくらいできるのかな。
「幸い、恐竜人達は今すぐ起こさなくてもよいので、気長に地上で創世の力が落ちてきて神器を作るチャンスがくるまで待つ時間はある」
「なるほど。神器を得られないなら、新しい神器を作るってことね。でも、地上で待つべきなのに、なんで宇宙に飛んできたの?」
「神器の作成を助ける道具を月まで取りに行こうと思っていたのだ。……ふむ、せっかくなので、君も月に来てみるか?」
「いいの!?」
月にある古代文明の跡地に行けるとか、なにそれ素敵。
「ああ、君は前々から、私が持つ技術に興味を持っていただろう?」
「うん、高度な技術を持った古代文明とか、大好物」
「今の地上に住む神々の中に、我々の存在を理解し受け入れる者を作ることは最重要課題だ。君は他の地上人と違って、宇宙への理解があるうえ、エルフへの態度を見る限り異種族に対しても寛容だった。今後を考えて、君には我ら恐竜人のことをよく知ってもらおうと思う」
「なるほどね。だから、ここまですんなり事情を教えてくれたわけだ」
「うむ。では、月へ向かうとしようか。ああ、月の表面には空気がないので、宇宙服は自前で用意してくれたまえ。地下も空気の成分が地上と違う。この船を見る限りだと、宇宙服程度は用意できるだろうが」
もちろん用意できるよ! ホワイトホエール号のアイテムショップには宇宙探索用のアイテムがたんまり売っているからね!




