6歳の12月(1)
6歳の12月(1)
11月から始まった雨季は12月になってさらに雨の回数を増やす。
2日に1回は雨が降っているが、感覚的には毎日が雨が降っている心象。
特に気温が上がる午後に雨が降ることが多いせいなのか、暑さは先月よりも和らいでいる。
でもお日様が一年で1番高く長く大地を照らすのもこの12月。
時折午前中に眩しいお日様が顔を出すことがあり、そんな時には人も動物も鳥も、みんな身体や服や物を乾かすなど、お日様を有効活用するために慌ただしくなる。
そんな貴重なお日様を浴びるお昼の休憩時間、リルカ探検隊はいつも通り学校近くの丘の上で集まっていた。
「お金が必要だわ!」
リルカ探検隊の定例会議が始まると同時に、勢い良く立ちあがり力強く宣言する私。
驚きながらも訝しげな目を向けてくるお兄ちゃんたち。
「おいら、金なんて持ってないぜ。」
オニカは大胸筋を盛り上げながら自慢するように答える。
デデはオニカの隣で私を見ながら少し俯き加減に何度も頷いている。可愛い。
「自分も金はないのである。」
カイサは興味なさげ。一言返事をするとすぐに手入れしている弓に目を移す。木で作られている弓は雨季になると湿気で飛び方が変わるからと、メンテナンスに集中している。
「わては借金しか無いだす!」
昨晩も補給部隊の本部で扱き使われたらしいフマは、岩の上にぐったりと寝そべったまま頭だけあげて怒ったような口調で吐き捨てる。
「俺も金はないぞ。ふ~。そもそもリルカの家は金持ちじゃないか。何に使うんだ?」
アディルはまた面倒な事を言い出したといった感じで、ため息混じりに問いかけてくる。
「みんなのお金なんて当てにしてないわよ。みんなで探検隊の活動資金を稼ぎたいの!」
「そうか活動資金か。探検の装備、水や食料、それぞれの武器や防具。お金はいくらあっても足りないな。」
アディルは合点がいったように顎に手を当てて、遠くを見つめるように頷きながら考え始める。副官だけあって、いつも色々と考えてくれている。副官に任命しておいてよかった!
「じゃあ、おいらが今度こそハチミツを……」
「「「「やめるんだ!やめるのである!やめるだす!やめて!」」」」
オニカの提案は、オニカ以外の全員一致で即座に却下された。
デデがオニカにすがりつくようにイヤイヤと首を振って止めている。可愛い。
オニカは残念そうな顔で口を尖らせて上腕二頭筋をアピールするがこれだけは譲れない。
「もっと安全な方法でお金を稼ぎたいわ!」
「金になるような動物や素材を安全に狩れる装備はないんだ。狩りはダメだ。」
アディルは腕組みをしてしかめっ面になってぼやく。
「商売を始めるにはまず元手になる金で物を仕入れる必要がある。元手の金も無いから商売は無理であるな。」
喋りながらもカイサはこちらに目も向けない。片目を瞑って弓の歪みを丹念に見ている。
デデは皆を見ながら困ったように首を傾げている。可愛い。
「おいらたちじゃ補給部隊の本部を手伝ってもフマみたいに特別なお金は貰えないぜ。」
そう言うオニカはアピールしていた上腕二頭筋が気になったのか、力こぶを触りながら色々なポーズを試している。
オニカが言うとおり、フマは補給部隊の隊長ミンに特別に処理能力が高いのを買われて借金の肩代わりをしてもらい、働いて返すことにしてもらっている。でも他の幼年兵が手伝いに行ったところでやり方を教わりながらになって他の人の仕事を邪魔するだけになってしまう。それでは普通の研修と変わらないのでお金がもらえるわけがない。
「残念だが今のところ他に金を稼ぐ方法は思いつかないんだ。次回まで色々考えてみる。」
アディルが少し俯きながら悔しそうに言う。副官の責任を感じているようだ。
「自分は金稼ぎに興味ないのである。じゃ、今日は解散であるな。」
カイサが淡々と解散を宣言して、弓から目を離さないまま立ち上がって背を向けると、続いてアディルも立ち上がる。
もうすっかり会議が終わった雰囲気。
「待ってよ。もうちょっと考えようよ。みんなで考えたらきっと良い方法があるわよ。」
カイサとアディルの手を掴んで引き留めると二人とも大きなため息をついた。
「リルカ、無理をするとまたこの間のハチミツの時みたいにひどい目にあうぞ。」
「ハチミツより危険じゃない方法だってきっとあるわ!それにお金があれば、みんなで美味しい物も甘い物も好きなだけ食べられるのよ!?」
「欲を出すとろくなことがないのである。楽で安全な金儲けなんて、そんな美味い話はないのである。」
つれない返事と共に二人ともまた背を向けてしまった。
しかし、美味しいご飯という言葉に反応した“あの男”が動き出す。
「みんな待つだす!わてに任せるだす!」
いつの間にか起き上がったフマの言葉にみんなが驚いて振り向く。
「いやいや、フマはまだこの間のハチミツ騒ぎでの借金を返し終わってないのである。」
「そのとおりだ。やめておけ。それにフマが言うと悪い予感しかしないぞ!」
慌ててカイサとアディルがフマを諌めるが、フマは不敵な笑みを浮かべながらそれを片手で制する。
「元手も危険も必要ない商売だってあるだす。わてにかかれば何もない所からだって金を作るだすよ!」
「フマあにじゃ!流石ね!」
「ふひひ!」
「それで?フマあにじゃどうするの!?どうやって稼ぐの?」
「まあ、慌てないで聞くだす。」
フマに促されてアディルとカイサも不承不承に座り直す。
カイサの弓を指差して自信溢れる口調でフマが話し始める。
「カイサの弓の腕前なら、鳥なんて百発百中だすね。」
「なんであるか?急に褒めるなんて気持ち悪いのである。だが確かに鳥くらいなら簡単であるな。」
カイサは居心地が悪そうに片方の眉を上げて答える。
「アディルのスリング(紐を使った投石術)もカイサに負けないくらい当てると聞いただすよ!」
「流石にカイサの弓には負けるだろうが、小動物が相手なら十分通用するぞ。」
アディルは特に表情も変えず、腰につけていた紐を取り出して回し始める。
「じゃあ、弓とスリングの名人であるカイサとアディルには鳥を沢山獲ってきて欲しいだす!」
「子供でも獲れる鳥なんて、いくら獲ってきても大した金額で売れないのである。」
「鳥くらいなら狩りに危険は無いが、それじゃ金稼ぎにならないぞ!」
眉を顰めて食って掛かるカイサとアディルを、ニヤリと悪そうな顔で制してフマは言葉を続ける。
「もちろんそれだけじゃないだす。次にオニカとデデは薪を集めて、その後、オニカは竈を作って欲しいだす。そうだすね、竈の場所は町の中の酒場の前が良いだす。デデは薪の一部を割って、このくらいの細くて短い棒を作って欲しいだす。」
フマはデデに向かって15cmくらいの長さを指で示しながら棒の形を指示する。
「そのくらい軽いぜ。おいらの筋トレにもなりゃしない。」
デデはフマと同じように指で棒の長さを示して、ニコニコしながらコクコク頷いている。可愛い。
「私は何をすればいいの?」
「リルカはわてと一緒に鳥の下ごしらえだす。」
「フマあにじゃ、どういうこと?料理するの?」
「まだ解らないだすか?獲ってきた鳥を捌いて棒に刺して焼いて、料理として売るだすよ!この棒を“串”と呼んで、串に刺さった鳥を焼いたものを“焼鳥”と呼ぶだす!」
「「「「おおおー!」」」」
みんなの感嘆の声に気を良くしたフマは得意げに説明を始める。
「鳥を狩ってそのまま売るのでは金にならないだす。何かを仕入れて調理して売るのも仕入れの元手が無いだす。でも!わてらで狩って仕入れて、わてらで調理すれば立派な商売になるだすよ!」
「何度でも言うわ!フマあにじゃ流石ね!」
「ふひひ!もっと褒めるだす!」
「じゃあ、私はおタマさんやおスミさんに鳥の捌き方から教わってくるね!」
「おいらは竈を作って薪を集めるぜ。」
「自分は軽い矢を増やして鳥を狩る準備をしておくのである。」
「俺の投石だけじゃ売るほど沢山の鳥を狩れないが、任せろ。考えがあるんだ。」
デデは串の長さを指で示したまま、ニコニコと頷いている。可愛い。
「それじゃ、来週までにそれぞれ準備をして始めるだすよ!」
「「「「おおおー!」」」」
フマはお金儲けの天才ね。
お金があればこの世界を探検してまわる夢に一歩近づくわ!
でも鳥を1から捌くのも調理方法もおタマさんとおスミさんに習わないと。
忙しくなるわね。




