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第一パーティ 二

 ちっとも大丈夫じゃなかった。そう突っ込みを入れておこう。

 それは、一瞬。扉を開けて数瞬後のこと。モンスターの不意打ちの一撃が、横からレックを捕らえていた。視界に赤い色が散り、レックは血飛沫と共に床に叩き付けられる。

「レックっ!」

 私は考えるより先に、身体が動いていた。

「あああああああっ!」

 水を固めたような人型のモンスターに切りかかる。目の前に突き出す水の腕に向かって切り込み、そのまま振り切って落とした。逆の腕をバックステップでかわし、引いた体勢から再び腕に切り込む。

「くっ……!」

 不完全な体勢のため、切断には至らず、大きく腕を振られて、その勢いで離される。

だが――。

「疾っ!」

 一瞬、がら空きになった懐に飛び込み、胸に剣を突き立てた。鈍い手応えと共に、剣が半分程埋まる。

「……っ!」

 足を上げて蹴り飛ばすと同時に剣を引き抜くと、相手がその勢いで傾き、鈍い音をたてて床に倒れる。止めに容赦なく、首元に剣を突き刺した。そして、完全に動かなくなったことを確認する。これで終わりだ。

「レック?」

 慌てて振り返ると、レイナの声が答えた。

「大丈夫」

 見ると、レイナが土術法で治療してくれたらしい。光と土の余韻がその場に残っていた。

 レックは目は閉じているものの、出血は止まり、息もしている。

「良かった……」

 この子に何かあったら、私のせいかも知れない。その思いが、頭の片隅から消えない。私はレックの横に座り込み、つぶやいた。

「……ずっと、気になってたんだ。どうして、レックがここに来たんだろうって」

「え?」

 レイナが聞き返す。

「まさかと思ってた、でも――」

 甦る、掌の、布の感触。

「私、この世界へ来る瞬間、レックの服、引っ掴んだ気がする……」

 レイナは黙って話を聞く姿勢を見せ、私は言葉を続ける。

「もしかしたら喚ばれたのは私で、私が引っ掴んだせいで、レックがこの世界に来たんだとしたら。もし、この世界で、レックに何かあったら――私の、せい」

「お姉ちゃん――」

「私は、この世界は楽しい。でも、レックは帰りたがってる。だから……」

 私は少しだけ言葉を切って、顔を上げた。

「レイナ、ありがとう。レックを助けてくれて」

「ううん。……」

 レイナはしばらく黙った後、訊いた。

「キョウダイなの? レックと」

「え? いや、レックには他にキョウダイいるし、違うけど」

 改めて、レックに視線を落とす。

「だけど、同じ世界から来た大事な相棒……そうだね、家族みたい……かな」

 そう言うと、レイナは少し暗い表情を見せた。

「……レイナ?」

 うつむいたレイナの前に膝を落として、顔を覗きこむ。

「……レックを攻撃されて、怒ったの?」

「怒った……と言うか」

 先程の感情をもう一度辿り、言葉を探す。

「怖かった、のかな。目の前で失くすことが」

「私は……許せないの」

「レイナ?」

「私がもっと小さい頃、私の住んでた所は、闇に……滅ぼされたの」

「えっ」

 初めて聞く話だ。

「父さんも母さんも死んで……おばあさまはいつも哀しそうだったわ。だから決めたの。どんな闇も払える位、強い光を使える術法士になるって」

「レイナ……」

 そんな事情があったのか。小さいのに、凄い覚悟だ。

「でも……闇の術法士を倒すことは、人を……殺すことだわ」

「!」

 確かにそうなる。幸い自分は未だ人間と殺し合いをしたことはなかったけれど……。

 息を詰めた私に構わず、レイナの言葉は続く。

「私は……解らなくなる。闇は憎いわ。でも本当は、ただ人を闇から助けたいだけ」

「そっか……」

 多分それがレイナの本当の気持ちなのだろう。

「許すなんて、出来ないけど。闇だけじゃなくて、助けられなかった光も――」

「それって……アレストのこと?」

 最初にコーリスの村でレイナに出会った時の、アレストとのやり取りが思い出される。驚きと怒りを持って、アレストに食ってかかっていたレイナ。レイナは小さくうなずいて続ける。

「恨むのはいけないことだって言うけど、それでも……私は解らなくなる。どうしたって、許せないこともあるのよ……」

 それは……自分もそう思う。そして、それを正直に口に出せるレイナを少しだけ羨ましく思った。

「レイナはそうやって、正直な感情をぶつけてくれるね。そういう所、私は……気に入ってるんだよ」

「え?」

 レイナは意外そうにまたたいた。

「相手に気を遣って、自分の本当の気持ちを押さえて、表面だけ上手くやってるだけじゃ、駄目な時だってあるんだよね」

 元の世界にいた時の自分のように。私は本当の自分は許されないと感じていた。

「私、元の世界より、こっちにいる時の方が、自分に素直な気がする」

 ガイや、レイナ達にも、なぜか自分を偽る必要性を感じなかった。

「そうなの?」

「うん」

 私は少しだけ、声の調子を明るく変えて、続ける。

「……いいんじゃないかな。無理に許さなくても。自分に嘘を、つく位なら。私には、レイナのこと、解るなんて言えないけど」

「お姉ちゃん……」

「ん?」

 レイナは視線を落としたまま少し言い辛そうに言葉をつづった。

「私は……この『目』に映るものだけを信じて、振り回されそうになるの」

「え?」

「フィアレスって人のことも、術法力だけじゃなく、その元となる光や闇の素質さえ視えなくて、何も視えない、得体の知れない、何だか解らないものにしか視えないのよ」

 そこには苦悩の色が混ざっていた。

「そっか……そんな風に視えてるんだ、大変だろうけど、すごいと思うな、レイナは。だけどフィーレは真っ直ぐで強いよ。無愛想だけど。例え視えなくても、会って、話して、一緒に行動してみて、どんな奴か解るっていうのもある筈だから。守護石を護ろうとする姿勢に、迷いも嘘もない。それが解るから、私はそれだけでいい」

「お姉ちゃんから見て、そういう人なのね? 頭では解ってるの。私の目に映るものだけが全てじゃないって。シフさんのことも」

「だったら、今はそれで十分だと思うよ」

 するとレイナはますますうつむいて恥じ入るように口を開いた。

「それで、アレストお兄ちゃんのことだけど……本当は羨ましかったの。あの『光の素質』が私の欲しかった『能力』だったから……。だから、視えないってことが信じられなくって。どうしてあの村で何も出来なかったの、って……そう思っちゃったの」

「レイナ……そうだったんだ。だったらアレストに言ってあげたら? アレストには光の素質があるって」

「え?」

 意外そうに聞き返すレイナに言葉を続ける。

「アレストは気付いてないみたいだし、私じゃレイナみたいには視えないから。でもレイナが言えばアレストは受け入れるかも。光を戦う手段に加えるかも知れない」

 そう言うと、少しの沈黙の後、レイナは小さくうなずいた。

「……そうね、考えてみるわ」

「うん」

「所で私達のことはどんな風に視えてる?」

 ちょっとした好奇心をかき立てられてそう尋ねてみると、レイナはあっさりとした口調で答えた。

「普通に光と闇の素質が視えるわ」

 どうやらガイとは視え方が違うみたいだ。

「ふぅん、そうなんだ」

「話が長げーっての。いい加減にしろよな〜」

 突如レックの呆れたような声がした。

「あ」

 振り返ると、レックが丁度起きあがってこっちをジト目で見ていた。

「ったく人が寝てると思って……ホントこっちの奴に甘いんだよな」

「そうかな……。でも、生きてて良かった」

「まぁな」

 私は決意を込めて、レックに告げる。

「ねぇレック。例え、誰が、誰をこの世界に喚んだのだとしても――。絶対、あんたを元の世界に連れて帰るからね」

「俺だってそのつもりだよ」

「うん、そうだね」

 そして私達は、立ち上がって再び探索を始め、階段を見つけて上へと向かった。


「あ、いた!」

「……」

 最上階で、見慣れた三人の姿に私が声を上げると、フィアレスは相変わらず無言で僅かに視線を向けただけだった。

「アイル達か、無事か?」

 アレストは走り寄りながら、そう尋ねてくれた。

「何とか」

「俺はあんまり無事じゃなかった」

 レックの言葉にアレストが目を留める。

「ん? 怪我したのか。――裂傷だな」

「平気だよ、もう治ってるし」

「そうか……うん、レイナも平気か?」

「……大丈夫」

「そっちは平気そうだね、やっぱ」

 私はアレスト達を見渡して言った。

「剣の腕が段違(ダンチ)だもんなぁ」

 レックがぼやくと、アレストも似たような調子で口を開いた。

「……チームワークはなかったけどな」

「ま、フィーレだし? 仕方ないよ」

 私から見ても、フィアレスにチームワークを望むのは無謀なのだと思う。

「そうか、俺としては少々物足りないが――」

 私はアレストの言葉に少し微笑む。

「アレスト、いい人だね」

「そうか? サンキュ」

「この先のようだな」

 奥の大扉を見据えたシフの言葉に、アレストが全員を促す。

「ああ。行こう」

「うん」

 レックに視線を向けてうなずきかけると、向こうもうなずき返してくれた。そう、この局面を乗り切れば、全てが解決して自分達もきっと元の世界に戻れるようになる。少なくともこの時私はそう思っていた。

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