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空襲ですべてを失った少女は家族を奪ったはずの敵兵と恋に落ちる  作者: にんじんさん


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第29話生き抜くため

「おやめなさい。お前がしていることは、お前自身を破滅させる……」


 洞窟の外から、風に乗って聞こえてきた診療所の先生の低い声。そして、村の人たちの「憲兵隊が来る」という騒ぎ。

 すべてがバレたのだと悟った瞬間、私の心臓は嫌な音を立てて激しく波打った。やはり、陽子を巻き込んでしまった。私のせいで、彼女の優しい手が非国民として後ろ手に縛られ、冷たい監獄へと引っ立てられてしまう。それだけは、自分の命に代えても阻止しなければならなかった。


 蔦を激しくかき分けて、泥だらけで涙を流す陽子が洞窟へと飛び込んできた。

「お願いだから、今すぐ逃げて……!」と、私の衣服の袖を掴んで叫ぶ彼女の小さな手は、見たこともないほどにがたがたと震えていた。


 逃げる? 完治しかけているとはいえ、まだ万全ではないこの足で、軍用犬を連れた憲兵隊から逃げ切れるはずがない。山を降りればすぐに捕まり、陽子が私を匿っていた証拠を突きつけられてしまうだろう。


 道は、一つしかなかった。

 私は彼女の逃げろという訴えを遮り、陽子の両肩をその大きな手で静かに、でも力強く包み込んだ。


「私を信じて、陽子」


 私は、わざと世界で一番穏やかな笑顔を作って、彼女の目を真っ直ぐに見つめた。

「この洞窟に隠れていれば、彼らは気づかずに通り過ぎる。だから陽子、ユーは今すぐ診療所へ戻るんだ。ユー自身の身を、第一に考えてくれ」

 それは、彼女を今すぐこの危険な場所から遠ざけるための、精一杯の嘘だった。


(陽子、ごめんね。嘘をついて、ごめんね……)


 彼女の額にそっと触れた私の手は、本当は恐怖と焦りで、彼女以上にがたがたと震えそうだった。

 犬の鼻は誤魔化せない。憲兵たちは必ずこの洞窟にたどり着く。私は捕まるだろう。最悪の場合、その場で一突きにされて殺されるかもしれない。

 私の言葉を信じて、何度も何度も頷きながら、後ろ髪を引かれる思いで山を駆け降りていく陽子の小さな背中を見つめながら、私は洞窟の奥で激しく奥歯を噛み締めた。


(嫌だ。こんなところで、死んでたまるか……!)


 陽子の姿が見えなくなった瞬間、私の胸の奥から、煮えたぎるような強烈な執念が湧き上がってきた。

 最初は、ただ彼女に迷惑をかけずに自分が身代わりになって死ねばいい、そう思おうとした。けれど、私の心が、本能が、それを全力で拒絶した。


(ここで私が死んだら、大好きな陽子に、もう二度と会えなくなってしまうじゃないか!)


 昨日、あの満天の星空の下で、私は彼女のことが好きだと、この命をかけて彼女の未来を守るのだと誓ったばかりだ。戦争が終わったらここを抜け出そうと、心の中で約束したばかりだ。まだ何も伝えていない。彼女の優しい笑顔を、まだ一度も見ていない。そんな状態で、ここで簡単に諦めて死ぬなんて、絶対に嫌だ。


「……絶対に、生きてやる」


 遠くから近づいてくる軍用犬の遠吠えを聞きながら、私は衣服を狂ったように脱ぎ始めた。

 ただ隠れるんじゃない。憲兵たちを完全に騙し、彼らに『私は死んだ』と思い込ませるんだ。そうすれば、憲兵たちは追及をやめ、山を降りた陽子の身の安全も完全に守られる。そして私も、生き延びて、もう一度彼女の前に立つことができる。


 私は引き裂いた飛行服を、岩場の奥にある深い谷底へと人間の形に見せて投げ落とした。

 生きるための、そして大好きな彼女にもう一度会うための、命がけの賭けだった。憲兵たちの足音が洞窟の目の前まで迫る中、私は息を殺し、ただ陽子の名前を心の中で何度も何度も叫びながら、生き抜くための暗闇の中に身を潜めた。


読んでいただきありがとうございます。

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次回もお楽しみに。

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