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パムルゴニアの冒険者たち  作者: 不思議OHP
第二章 大襲撃の夜
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48 風と稲妻

 次々に放たれる冒険者たちの爆撃のような魔法攻撃。動きを封じられた暗黒の巨竜は、口惜しさに気も狂わんほどその身を地面に叩きつけ暴れまわった。


 残りHPはあとわずか。このままトドメを刺すのも時間の問題だ。俺の傍らで成り行きを見守るミレイも、レドさんも、まるで固まってしまったかのように声を発さなかった。


 ナンガナンガが激しく痙攣する。今までと違うその様子を警戒したのか、指揮をとるトゥーファは手を掲げ攻撃の中断を示した。


 小刻みに震えるナンガナンガは苦しそうに身悶える。その振動が地震となって大地を揺らした。何かが起こる。


 体中の巨大なウロコがパリパリと音を立てながら剥がれ落ちる。一層と首を伸ばすナンガナンガ。何千人の冒険者たちが固唾を飲む。異常な静けさの中、ナンガナンガの体の中から鳴る、何かを引きちぎるような音だけが不気味に響いた。


 やがて、息絶えたようにその動きは止まる。やったのか? いや、まだ確かにHPは残っている。その場にいる全員の頭にクエスチョンマークがよぎった次の瞬間――


 ――ナンガナンガの全身から瘴気が噴出した。


「下がれ!」


 トゥーファが叫ぶ。それが俺に向けて放たれた言葉だと理解した時にはすでに遅かった。霧のように立ち込める瘴気に、一瞬にして辺り一面が飲み込まれた。


 紫に覆われる視界。混乱の中、冒険者たちが次々と吹き飛ぶ音と悲鳴がこだまする。


 目の前を覆う影。


 咄嗟の状況に動けない俺の脇腹へ突然衝撃が走った。ミレイだ。蹴り上げられた俺は横っ飛びで宙を舞う。遮られた視界の中、俺が今まで立っていた地面が粉々に砕けるのがわかった。

 

「フジ逃げて!」


 瘴気の中からミレイの声が聞こえた。どうやらミレイは無事のようだが、視界は自分の指の先すら見えないほどの濃い瘴気に覆われたままだ。襲い来る何かから逃げるには闇雲に走るしかない。覚悟を決め、立ち上がろうとしたその時、目の前で風が巻き起こった。


 渦を形作り、瘴気を払うその嵐はどこかから吹いているのではない。まさしく俺の目の前から生まれ出ていた。空気を巻き込む竜巻のような風が、立ち込める瘴気を散らしていく。


 どんどんと開ける視界。その風の中心に立つのはやはりトゥーファだ。おそらくこれが翡翠のマントに付与されたスキル。風を自在に発生させ操ることができるのか、マントは千切れんばかりに俺の目の前ではためいた。


 開けていく視界の中で俺が見たのは、トゥーファの向こうから迫り来る巨大な魔物の姿だった。体をくねらせ、岩のような牙を剥き出しにしてこちらへ突撃してくる。


 それは首が抜け落ち、巨大な蛇の姿となったナンガナンガだ。凱旋門の傍らには、首の無い胴体がまるで抜け殻のように横たわっていた。


 形態変化。


 瀕死となったナンガナンガはその体を捨て、真の姿を露わにしたのだ。


 自由になった悦びに打ち震えるかのようにヨダレを撒き散らしながら、ナンガナンガはこちらへ一直線に突進してくる。


 トゥーファが拡声器を掲げ叫ぶ。


「このまま押し切る! 撃ちまくれ!」


 それが最終ラウンド開始の合図だった。


 魔法の一斉砲撃が再開する。爆炎の中、拡声器を放り捨てたトゥーファは二本の曲刀を抜き、ナンガナンガに向かって飛んだ。そのまま鼻先を切りつけながら、右の目に向かって刀を突き立てる。


 しかし、トゥーファの猛撃と魔法の波状攻撃をものともせず、ナンガナンガの勢いは緩まない。


 逃げ切るしかない。


 背を向け全速力で走る。ナンガナンガが追いつくか、冒険者たちがこのまま押し切りトドメを刺すか、どちらが先か。


 すぐ真後ろから吹き付けるナンガナンガの荒い呼吸が背中を撫でる。這ってすすむ大蛇は先ほどより動きが遅いようだが、その距離はどんどんと縮まっていた。


「フジ! こっち!」


 並走するミレイが手を広げ合図を送る。俺は腕の中のニアの頭を鷲掴み、ミレイに向かって放り投げた。宙を舞うニアをはっしと掴みミレイは風のように駆ける。


 方向を変え、ミレイへと向かうナンガナンガ。その背中をナンガナンガの牙が捉えようとした時――


「ミレイ! よこせ!」


 上空からターザンのようにロープで降下したガブが、ミレイの腕の中からニアをかっさらう。


 まるでエサに食らいつくように大蛇は巨大な口を開き、ガブの尻スレスレの空中を噛んだ。振り子のように揺れ戻るガブに向かってもう一度その首を伸ばす。


「ガブちゃん! ヘイ! パスパス!」


 地上で手を振るレドさんに向かってガブはニアを放り投げる。ニアを両手でキャッチしたレドさんはそのまま、まるでラガーマンのように冒険者の隙間を縫って駆け出した。


 それを追って人の海に飛び込むナンガナンガと、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う冒険者たち。大混乱の中、いまだナンガナンガの片目に剣を突き立てしがみつくままのトゥーファが声を上げる。


「何やってんだクソメガネ! 隊列がめちゃくちゃじゃねえか!」


「仕方ないだろおおおお! って、うごっ!」


 冒険者の一人に激突し吹っ飛ぶレドさん。取り落とされたニアはコロコロと地面を転がる。


「しまった!」


 冒険者たちの足元を転がるニアを捕まえようとレドさんは這う。が、無数の足に蹴られニアは四方八方へとまるでボールのように転がりその手をすり抜ける。背後に迫ったナンガナンガの影がレドさんたちを覆った。

 

 獲物を捉えた鎌首が、レドさんの頭上からニアに向かって食らいつく。 


 が、間一髪ニアを拾い上げ飛び退いた人影があった。その冒険者はナンガナンガに背を向け逃げるかと思いきや、逆に方向を転換し襲い来る敵に向かって勇敢にも駆けた。  


 片手には月明かりを反射し、妖しく煌めく刀。


 「八丁さん!」


 ニアを片腕に抱えたままナンガナンガへと放つ一撃。トゥーファの太刀筋が嵐ならば、八丁さんのそれは稲妻だった。


 空間を両断するように放たれた斬撃は、ナンガナンガの胸元から蛇尾に向けて一直線に

迸る。


 必殺の一撃に悶えるナンガナンガ。その隙に八丁さんは俺に向かってニアを投げよこし、そのまま飛んだ。


 八丁さんが次々と振り下ろす刀の連撃に閃光が走る。その攻撃を合図に再び冒険者たちの魔法攻撃が始まった。爆炎の中、ナンガナンガの頭上に飛び乗った八丁さんと、トゥーファの視線が重なる。一瞬、ほんの一瞬の沈黙の後、トゥーファが口を開いた。


「よお、相変わらずだな」


「……ご無沙汰……」


 トゥーファと八丁さんのそんな邂逅は、ナンガナンガの絶叫に遮られる。あらゆる元素の爆発する嵐の中、瀕死のナンガナンガはそれでもこちらに向かって這い進む。


 体は朽ち果て、全身から血の飛沫を撒き散らしながらもその目は赤黒い炎に燃えていた。


 そして――


 ――最後の絶叫。


 終わった。


 その叫びをここにいる誰もがナンガナンガの断末魔だと思ったはずだ。この長い夜の終焉を告げる声。


 しかし、その咆哮とともにナンガナンガを中心とした波のような衝撃が巻き起こった。空間を歪ませるほどの衝撃波が体を打った瞬間、接続が強制的に切れたかのような錯覚に陥った。


 体と意識を繋ぐ糸が一瞬でバラバラになる感覚。制御できなくなる体。揺れる視線。気がつけば俺は地面に尻もちを着いていた。


 なんだこれ?


 体が動かない。辺りを見回せば広場中の冒険者たちがその場に倒れ込んでいる。トゥーファも、八丁さんも、地面に投げ出されたまま天を仰いでいた。


 状況を理解できないままの俺に向かい、瀕死のナンガナンガは這い進む。


 絶望が、目の前に迫っていた。


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