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バトルなんてごめんこうむりあそばせですわ〜!  作者: みゅにえ〜る
セントマーク戦争編
13/17

王国急襲

「…そうして我が国は見事、列強国家からの後ろ盾を得た中立国の立場を手に入れる事ができたのです。」


晴れた昼下がり。

教室に流れる時間は、アシュリーにとって至極退屈な物であった。


(全く…全方位で国境紛争に興じられておられる国が何をおっしゃりますか。)


この国は、とにかく国民の目を内側に向けたがる。

国民にとっては領が国の様な物で、国は世界の様な物だった。

国外は危険な場所、以上の知識を、貴族も含め、国民は殆ど持ち合わせていなかった。

国の教育がそうさせているからだ。

今はそれで成り立っているかもしれない。

然し、嘘と隠蔽の上で成り立つ体制などそう長くは持たない。

少なくとも、アシュリーはそう思っていた。


(はぁ…こんな授業つまらないですわぁ。何かこう、刺激的な出来事でも無い物かしら…)


アシュリーはそのまま、まどろみの中で遠くからの爆発音を聞く。


「…!」


アシュリーは咄嗟に外を見る。

爆心地から、建物を破壊する衝撃波が今まさに広がり続けていた。


「おい、何だ今の音!」


「落ち着いてください。今状況を確認します。」


他の生徒や教師がリアクションを取る頃にもう、アシュリーは席を立っていた。

その顔は、満面の笑みを浮かべていた。


「きゃはははは!大冒険の始まりですわ~!」


アシュリーは廊下の窓から飛び降りる。

その背後で校舎が破壊され、爆風によってアシュリーの身体は持ち上がる。


「飛びましたわ~!」


アシュリーは、少し離れたビルの上に着地する。

アシュリーはそのまま駆け出し、ビルからビルへと飛び移りながら移動する。

その背後からは衝撃波が迫ってきており、数秒前にアシュリーの居た建物を破壊しながら迫ってくる。

クラスメイトや学校がどうなったかなど、もはや今のアシュリーにとってはどうでも良かった。

アドレナリンの赴くままに、アシュリーは郊外へと駆けていく。


「あは!あはは!きゃはははは!」


アシュリーは笑いながらビルから飛ぶ。

今度は次の建物とは大通りで隔たれており、流石のアシュリーでも飛び越える事は出来無い。

アシュリーはそのまま回転し、頭を地面に足を天に向け、迫り来る衝撃波の方向を向く。

瓦礫を伴ったそれはもはやただのエネルギーでは無く、実体を持った瓦礫の波となっていた。


蒼色の閃光。

次の瞬間には、衝撃波は横一文字に両断されていた、

上半分は建物を飛び越えてそのまま上空へ。

もう半分は下に進み建造物の壁へと衝突したが、それを破壊する力は残されておらず、波は消滅した。


アシュリーは土埃立ち込める瓦礫の上に三点着地する。

一瞬だけ顕現した蒼月白夜も、今は影も形も無くなっていた。

一拍遅れて、空からは車や道路標識、剥がされたコンクリートなどが続々と落下してきたが、アシュリーに当たる事は無かった。


「中々に楽しいアトラクションでしたわ~!」


アシュリーは落ち着きを取り戻しながら、爆心地へと向く。

そこで漸く、世界はこの大惨事に気が付いた。


アシュリーが爆心地に歩みだす頃。

町中から悲鳴があがりだした。

衝撃波による直接的な破砕を免れた建物たちが次々と倒壊を始めた。

ドーパミンに溺れたアシュリーが背後に置いてきた"時間"が、漸く彼女に追いついたのだ。


アシュリーは気分が乗ると、通常よりもやや先の世界を知覚する。

それが生まれつきなのか、幼少の頃の訓練の玉物なのか、はたまた刀の力なのかは分からない。

事象の前兆を知覚し、その予兆が何を意味するかを瞬時に理解し、行動に反映する。

アシュリーの超人的な反射神経は、そうして実現されていた。


王国の空が、爆撃機の群れで覆われる。

北の国境を守っていた戦線が、今しがた崩壊したのだ。


「この国はもうダメみたいですわね。シルクを連れてとっとと逃げてしまいましょう。あーあ、ステキな殿方に出会えなかったのは残念ですが、仕方無いですわね。」


アシュリーはその人生において、常に弱者を演じていた。

普通の少女であればきっとこうするだろうと言う行動を自分なりに考え、実行し続けて生きてきた。

しかし、弱さと言う物の本質を知らぬまま育ったアシュリーの演じるそれは、とても不自然な物となっていた。


“………”


遠巻きから、甲高い鳴き声が聞こえてくる。


「あら?」


半泣きのシルクが、瓦礫の上を走り抜けながらアシュリーの元にやって来たのだ。

そのダチョウの様な足は地を走る事に特化しており、シルクが倒壊する建物や落下する瓦礫の餌食になる事は無かった。


“ビィ〜〜〜〜〜!”


シルクはアシュリーの胸に飛び込む。

慣性の力によって数十キログラム分のエネルギーがぶつかってきたが、アシュリーはビクともせずにシルクを受け止めた。


“ビィ!ビィ〜!”


「おーよしよし。怖かったですわね〜。」


アシュリーはシルクをよしよししながら、社交ダンスでも踊るかの様な要領で、こてこてとあちこちに移動する。

相変わらず建物が倒壊したり瓦礫が落下してきている。

だが、いつもあとミリにの所でアシュリーを取り逃がしていた。

アシュリーは必要最低限の動きで、災害を回避し続けていた。


「わたくしが居ればもう安全ですわよ〜。」


そしてそんなアシュリーの袂こそ、この世で最も安全な場所だと、シルクは本能で理解していた。


アシュリーはシルクをあやしながら、天を仰ぐ。

爆撃機はもう去った。

暫くは安全だろう。

そう思った矢先だった。


「…?」


何かを煎った様な香ばしい香りが、アシュリーの鼻をつく。

アシュリーの思考が、一瞬だけぶれる。


「シルク!息止めて!」


“ピィ!?”


アシュリーはシルクの口鼻にハンカチをあて、自分も息を止める。


(爆発が起こったのは確か北でしたわね。然し、ガスの足にしてはあまりにも早すぎますわね。東西の戦線ももうダメになってしまっておられるのかしら。しかしこの様子では、南の戦線も信用できませんわね。斯くなる上は…)


向かう先は一つ。

アシュリーは蒼い刀を抜き、目の前の空間を切り裂く。

そうして出来た青色の裂け目に、アシュリーはシルクを抱えて飛び込んでいった。



〜〜〜



レアディア帝国首都、レレスト。


アルベット・ディートリヒは、自身のデスクに広がった書類に目を通しつつ、部下からの報告を待っていた。


数年前のイラスタマイア王国の混乱に乗じて、各国は自らの息のかかった者を貴族として送り込み、或いは既存の貴族を金や地位にて買収した。

いつか、そのどれかが王国内部の者によって処罰或いは何らかの危害が加えられた時に、それを理由に全面戦争状態に突入する為であった。


表向きにはイラスタマイア王国と諸外国は同盟を結んでいたが、そう思っているのは王国のみである。

その実、世界が欲しているのは平和では無く、現代技術とも引けをとらない魔法技術“聖刻ネットワーク”と、それを実現する旧時代のアーティファクト[サーヴァレイカリバー]、それから大国間を繋ぐ貿易路にポツンと立ち、障害物でしか無かった王国の土地そのものであった。

現に、全方位が戦線になっていて尚、王国が小康状態を保てていたのも聖刻の賜物だった。

だが、それも今日で終わる。


「失礼します!」


部屋のドアの奥から、快活な声が響く。

アルベッド宛の報告を持ってやってきた、空軍参謀の声だった。


「入れ。」


アルベッドの声に応え、参謀は入室する。

その手には数枚の報告書のみがあり、参謀の表情も、まるで定時連絡でも持ってきたかの様な、余裕に満ちた物だった。


「クラキの引き渡しを条件とした宣戦布告より1時間後、我が軍はドライマト公国、ハットドニー暫定政府軍と共に北部戦線へと参戦。先ずドライマト公国機甲師団が既に王国に対し戦線を展開していたアレー旅団を援護。然し進軍するにつれて聖刻騎馬兵隊の抵抗は苛烈化し、機甲師団は停止。然しそこで、勇猛なる空の戦士たる我らが航空兵団の援護射撃により、地を這う事しか知らぬ騎士共を殲滅。そのまま暫定政府軍の重装歩兵隊、及び魔法歩兵隊と共に進軍し、宣戦布告より僅か2時間で本土への上陸に成功しました。」


「…それで。」


「我ら帝国航空兵団は当初の予定通りそのまま都市への無差別爆撃を開始、暫定政府軍は貴族の捕縛と即時処刑、公国機甲師団は東西戦線への援護に入りました。イラスタマイア王家から降伏宣言がなされましたが、我ら同盟はそれを無視、現在は我ら航空兵団と暫定政府軍が、王家陥落へと向けて凱旋中であります。」


「そうか。報告、ご苦労であった。書類は此処に置いておいてくれ。」


「は!失礼します!」


参謀はすぐさま退出し、再び部屋はアルベット一人になる。

今回の作戦の指揮権を任されたレアディア帝国軍大佐アルベットの頭の中は、戦後処理の事で一杯になっていた。

先ずハットドニーの元反乱軍を約束通り正式な政府として認める際に、確か幾らかの武器提供を伴わなければいけなかった筈だ。

ドライマト公国との国交も前よりかは改善されているとは言え、いつ後ろから刺されるとも分からない。


そして何よりサーヴァレイカリバーの扱いだ。

何処かが独占してしまっては、また同じ事の繰り返しになってしまう。

誰が何処に持ち帰るかも検討しておかなくてはならなかった。


「…たまには、こう言う楽な仕事も悪くない。」


暫定政府軍が、国際条約に違反したガス兵器を使用した。

その知らせがアルベットの元に届くのは、この数時間後の事だった。

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