第3章 使徒パウロ
一同が『寵軍の門』での生活に慣れた頃、王国からの留学生であるハヅキ達を、1人の男が迎えていた。
それは王国から陽王朝への正式な大使、使徒パウロである。
使徒はその存在とは裏腹に、その役割はあまり人々に知らされていない。この時代ではその使命を大きく代え、聖教会を治める教皇の一派からは距離を置き、その活動は教皇よりも国王の勅命によって制御されている。
それはカナン王の政治力の成果であり、使徒の力が教皇の支配が及ばない程に強大である事も意味する。天使との眷属契約を必要としない使徒は、その名によって救世主の力を行使すると言われている。
「やあ、よく来てくれたね。マギアの諸君。」
パウロの前にはハヅキ、七袖、セレステの3人が跪いている。
「パウロ様、お目にかかれて光栄ですわ。」とセレステが答えた。
「頭を上げなさい。君たちに会うまでに時間がかかり、すまなかったね。異国の地で勉学に励む事は君たちの人生にとって良い糧になるだろう。何か必要な事があればぜひ私に言うと良い。この国は長いものでね、大体の事は知っているつもりだよ。」
パウロは長身だがその物腰は柔らかく、そして纏っている白い衣とは対照的な褐色の肌をしている。それは使徒として長年世界を旅した印なのだろうか。
「パウロ様、早速ですが例の件についてお話をさせて頂きたいのです。」
七袖がミツキの件をパウロに話そうとした時だった。その件は前もってカナン王により、パウロに知らされている筈だった。
「例の件とは…?」
とパウロは不思議そうな顔をして尋ねた。
慎重な七袖はその場でミツキの事を話すのを躊躇した。もしかすると、使徒との謁見はすでに陽王朝の密偵にマークされているのかもしれない。七袖はすかさず話題を摺り替えた。
「ら、来月の皇帝陛下への謁見についての件にございます。」
「ああ、多忙な方だからね。くれぐれも粗相の無いように。」
そう言うとパウロは他に取り止めもない話をした後、『寵軍の門』の宿舎へ帰る3人を見送った。
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パウロと別れた後、「何か違和感がありましたね。」とセレステが呟いた。
「ああ、その違和感の正体は分からなかった。」と七袖が首を傾げる。
ハヅキは2人の顔を不思議そうに見つめた。
「えっ、ナナちゃん。どう言う事?」
するとセレステが代わりに答えた。
「私にもわかりませんでしたわ、ハヅキ様。何か、パウロ様に…、あの方…」
「セレステ。」と七袖がセレステを制した。
「私がこの王朝に住んでいた頃、母上が良く言っていたのだ。ここでは誰が何を聞いているか分からない。だから慎重に行動しろと。」
するとセレステも真剣な表情で頷いた。
「そうね。確信のない話をするのは止めましょう。」
こうして3人は使徒との会合を後にした。
第4部ではいよいよ使徒の1人、パウロが登場です。第1部からなので、どんだけ引っ張ったんだっつー。