表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、乙女ゲームしたことないんですけど?【連載版】  作者: たばさ
彼らとのこれから
40/41

39 ―こくはく― 

二話同時掲載 1/2

 セイ様と話をしている時に思い出した〔私〕が言われた言葉。


『相談するってことは相手にもそれを負わせてしまうから、相手に負荷をかけるのが心苦しい』

 いつか言われた言葉がずっと引っかかって〔私〕は相談したり踏み込んで話すのが怖くなっていた。


 それは相手を気遣っているようで信頼していなかったという事に“今”気付くなんて……。


 結局は自分が傷つきたくなかっただけ。

 嫌われたくないという浅はかな願い。


 私はそれを変えて〔私〕からちゃんとルフナ(わたし)になりたい。



 両親のように受け入れられなかったらと思うとやっぱり怖い。

 ……でも


 キィは怖がっていた私を労ってくれた。

 ニールは私に笑顔を取り戻させてくれた。

 ディン様は大切なことを教えてくれた。

 セイ様は気持ちを教えてくれた。


 自分自身が信じられないから彼らまで信じられないのは違う。

 彼らに信じてもらえなくとも、嫌われるかもしれないけれど話そうと決めた。

 彼らに〔記憶〕の事を隠したままじゃいけない。



 だから覚悟を決めよう。



 嫌われるのは怖いけど……今度は負けない。


 だからステラからもらった言葉に甘えない。


 主人公でも悪役でもなんでも私なんだもの。





 *******




 ニールが我が家へ帰って来た次の日。

 私は彼らに話を聞いてもらおうと招待……お願いしました。

 

 手伝うというニールとキィに断りを入れて一人で準備をすれば多少は落ち着くと思いましたが……ダメですね、ドキドキしっぱなしです。

 それでも表情に出さないように彼らを向かい入れて、「今日は来てくださってありがとうございます」とテーブルを挟んで座るセイ様、ディン様、ニール、キィにお辞儀をすれば彼らは困惑気に私を見ます。

 特にキィはいつもは給仕に徹しているので居心地が悪そうです。


 挨拶の言葉だけで胸が苦しくなりますが、グッと手を握りしめて背筋を伸ばします。


「皆様、本当ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

「ルゥ?それは…」

「それから、ありがとうございます」

 口を開くセイ様ににっこりと微笑んで言葉を遮ります。


「今から私が話すことは信じられないことかもしれませんが、私にとって現実で真実なことです……これを聞いて皆様がどういった判断を下すかは皆様にお任せしたいと思います」

 そう前置きすれば、彼らは困惑しながらも真剣な様子で耳を傾けてくれます。

 

 聞いてさえもらえないかもと思っていたので、少しほっとしました。



 私には違う世界の人生の記憶があってお菓子を作ったりできたのは彼女=〔私〕のおかげだということ。


 〔私〕と〔サエちゃん〕のこと。


 〔ステラ〕との邂逅。


 この世界はその彼女の世界での“乙女ゲーム”と呼ばれる話に似ていて、私達は登場人物だということ。


 それから……私が眠ってからの行動について。

 つい最近まで自分でも分からなかった感情。

 ちゃんと人と向き合うこと

 自分が傷つきたくないために内に抱え込んでいたこと。


「……私は自分よがりで卑怯な人間なのです」


 そう言い終えて冷めてしまったお茶を一口飲めば思いのほか喉が渇いていたようです。

 お茶を淹れ直そうとするとキィがスッと立ち上がり「私が」と言っていつもの手捌きで美味しいお茶を淹れてくれました。



 やっぱりキィの淹れるお茶は好きだなと思いつつも彼らの反応が気になり視線を向けます。



 セイ様は右手を顎に当てて視線を下に向けたまま思案しているようです。

 ディン様は「あーうー」と机に突っ伏しているかと思うと起き上がってたまに頭をガシガシとかいたり。

 ニールも「う~ん」と上を向いたり左右の人を見たりしています。

 キィは……キィだけは薄っすらと微笑んで私の方を見ていました。



 私も声を出せず、そのままの時間がしばらくたったころディン様が「分かんねー」と一言。


 その言葉をきっかけにみんなの口も開きはじめました。


「なぁ、ルゥ。この世界はそのゲームと似た世界で……オレ達が登場人物?」

「はい…そう言われました」

「俄かには信じられないよ……」

 ディン様の言葉にそう頷けばセイ様は困った顔で言います。


「お嬢様、そのゲームには結末と言うものはあるのですか?」

「それが、その……私はそのゲームはしたことなくてですね……」

「ルゥ?」

「その……だから過去も未来も知らないんです」

「それじゃあ姉様はどういった人物なの?」

「そうですね……多分ですが悪役かなと」

「ルゥが悪役!?」

「それはないね」

「姉様には無理だよ」

「ありえませんね」


 ……全員に否定されると自分でも無理かな~と思っていましたがなにか釈然としないものがありますね。


「それで、お嬢様はどうなさりたいのですか?」

「え?」


 “私がどうしたい?”

 まさかそんな質問が来るとは思っていなかったので動揺してしまいます。

 

「私たちはそのゲームのように振る舞えばよろしいのでしょうか」

「ち、違います!」


 ゲームの内容も登場人物の性格なんて知らない。

 変わって欲しくない……あれ?


「……今のままがいいです」


 私は本当に馬鹿だ。

 答えはとっくに出ていたのに、一人で慌てて泥沼にはまって皆様を巻き込んで。



「そうだね、私も今のままがいい。とは言ってもこれからは先に進みたいけれど」

「セイ様……」

「今回の件は少し堪えたけど、分かったこともあったし、良かったのかもしれない」

 ニッコリとセイ様は何か楽しそうな微笑みを浮かべます。


「う~ん、結局変わったのか変わるのか分からん。でもま、これでルゥが元気になるんならいいんじゃないか? それに主人公でも悪役でもルゥだし……てか、悪役は無理だろ」

「……ディン様」

「うん、姉様は姉様だよね。でももし姉様が悪役なら僕も一緒に悪役になるから心配しないでね!」

「ニール? それはそれでダメだと思うの」

「そう? 僕は姉様と一緒なら大丈夫だよ?」

「……あ、ありがとう?」



「お嬢様、もう一つおっしゃりたいことがあるのでしょう?」

「キィ……良くわかりますね」

「貴女の従者ですから……私は」

「……ありがとう」



 和やかなムードになりつつあったのを引き締めて――もう一つ言いたいこと……言わなければならない事を伝えるために――椅子から立ち上がって彼らの方へ歩きます。


 彼らも椅子から立ち上がって私の前に来てくれました。


 さっきよりも心臓がばくばくする。

 けど、ちゃんと言わないと。



「私は……皆様が私のことを気にかけてくれていることに気が付かなくて。ごめんなさい。謝って済むようなことじゃないのは分かってます」


 彼らからの視線を見たくなくて頭を下げたまま上げられない。


「セイ様から聞きました。皆様が……あの、えっと、わ、私のことを好きでいてくれているということを……。私は、それが良くわからなくて……。でも今はちゃんと知りたいと心の中から思うから。我がまま言っていると思います」


 嫌われることに逃げないって決めたのに下を向いたままじゃ弱いまま。

 最後はちゃんと彼らの方を向く。


「でも答えは出します、必ず。……待っていてくれますか?」




 そう言えば、先程よりも戸惑いをみせるセイ様とディン様とニール。

 キィは予想がついていたようで表情が変わった様子はありません。


 カチカチと時計の音だけが響く室内で私は彼らからの返答を待ちます。

 私にとっては永遠のような時間が過ぎ――



「そう……君はそう言う答えを出したんだね」

 ポツリとそう目を伏せてそう言うセイ様の顔は見えません。怒るのは当然ですよね、自分に都合の良い事しか言っていませんもの。呆れてられて距離を置かれてしまうのは私が悪い。

「ルゥ、オレは……」

「姉様……」

 ディン様もニールも言葉が紡げないようです。


「お嬢様…いつまで待てば宜しいのですか? 明日? 明後日? 一週間? それとも一年ですか?」

「キィ……」

「貴女はヒドイ方だ。そうやって私達を翻弄する」

「キームン!」

 言葉を止めようとするディン様にキィは手で制止させ、私へと視線を戻します。


「悩んで、苦しんで…貴女がルフナ(あなた)として答えを出すのであれば何もいう事はありません」

 私は気が長いのでいつまでもお待ちしますよと言ってふんわりと笑うキィ。

 いつものように「意地悪です」と言いそうになるけれど、涙が出そうになる。



「姉様…僕は嫌だよ」

「……ニール」

「姉様が苦しむのは嫌だ。離れちゃうのも。僕は姉様の傍に絶対いる」

「あのね、ニール……」

「そうだよな、オレもヤダな」

「ディン様……」

「それにさ、それってなんか変なの?」

「ディン?」

「だってさ、今とあんまり変わらないじゃん」

「ディン、君は何言って……」

「ルゥって鈍感じゃん?」

 セイだって分かってるだろ?とにかっと笑うディン様にセイ様は「あぁ」と納得したような顔……です!?


「あの、ディン様……」

「ルゥはさ、オレ達の事考えるって言ってくれたけど受け身じゃ絶対に分かってもらえないぞ。絶対!」 

 ……ディン様、それはちょっとヒドくないですか!?私だってちゃんと……あれ?


「確かに、そう言われればそうですね……」

 キィまで!?


「そうだね、僕達は姉様が好きで振り向いて欲しいんだもの」

 ニールもなの!?


「ルゥはそういう人だよね……。ディンに先を越されるなんて」

「セーイ…。お前いっつも一言多い!」

「あはは、ごめん。うん、今まで以上に頑張らないといけなそうだ」

「オレだって負ける気はないし」

「そうですね…お嬢様の鈍さは変わりそうにありませんし」

「うん、姉様大好き」

「ちょっと、待て!ニルギリ!?」

「ヤダ」

 え~と皆様?私は置いて行かれたような気がするのですが……。

 きょろきょろと見回すとぱっちり目が合ったセイ様が「ルゥだけに頑張って知ってもらうのは不公平だよね?」と私の前まできてにっこりと微笑みます。



「ただ待つなんてそんな事しないよ。ちゃんと知ってもらうよ、ルゥ」

「セイ様?」

 彼は私の前で片膝をつき、私の右手を取り口付けて微笑みます。


「私はセイロン・プリミアス・ラバーズリープ。君のことを愛してる。だから諦めないよ」

 そう言って立ち上がりまた一歩近づいて私の耳元で「私を選んでもらえるように手段は選ばないから覚悟してね」と言い終えるとちゅっと耳にキス!?


 慌てて飛び退くと背中から腕が回ってきた手が私を優しく抱き留めます。

誰?と振り向き見上げるとキィのふんわり笑顔。


「先を越されてしまいましたね……。ルゥ様、私はキームン・エディアール。貴女が助けた貴女の精霊(もの)です。ですので私はいつまでもお待ちしますよ。それに……」

 私の右手を取り手首にキスを落として「私も貴女をもっと知りたいと思うので……全て教えて」と囁く。


 もうなんだか分からなくて、力が抜けるとキィは私を椅子へ座らせます。

 

 すると手に暖かさを感じ、視線を上げれば太陽の様な笑顔のディン様。

床に片膝をついて私の右手を自身の頬に当てるように添えます。


「オレはディンブラ・スタッセン。ルゥが……ルフナが好きだ。君を教えて。オレを知って。ルゥが迷うなら一緒に答えを探すから……ずっと隣にいて欲しい。」

 そう言うと私の右手の掌にキスを落とし、不公平はダメだもんなニカっと笑って横に移動します。



 姉様。と呼ばれ、視線を向ければにっこりと微笑むニールの姿。

 手を差しだされて条件反射のように思わず手を乗せれば引っ張られて立ち上がります。

 ニールはどんどん背が伸びて2歳差があるはずなのに私目線があまり変わらない。

 感心しているとニールは私をそっと抱きしめてから頬にキス。

 思わず手で押さえれば「あの時と一緒だね」と笑う。


「ルフナちゃん、覚えてる?初めて逢った時の事。ルフナちゃんは僕にキラキラをくれて世界に色を付けてくれたんだよ。だからね、姉様。姉様が不安なら僕が守るよ。いなくならないで、傍にいて」

 いつものにっこり笑顔で笑って一歩下がるニール。


 どうして? 何故? とその言葉しか出てこない私の頭に、いつか聞いた〔サエちゃん〕の言葉が響きます。



『逆ハーって見てる分には面白いけど、現実だったら大変』と。



 〔サエちゃん〕、乙女ゲームの逆ハーってどうやって対処すれば良いのですか?



 私、したことないんです! お願いですから教えてください~!!






いつもお読みいただきありがとうございます。

次のエピローグで一応の終わりとさせていただきます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ