38 ―精霊と〔瞳〕と最後の一歩―
別視点あります。
あの後、セイ様は戻って来ずキィとアル姉様が試合を終えてサロンまで来てくれました。
時間を決めての試合だったので勝敗は着かなかったそう。
試合の後は指導を頼まれてしていたそうです。お疲れ様でした。
サミィお姉様とアル姉様に退出の挨拶の時にまた励ましていただいて――
「何かあれば私に言って頂戴ね、ルーちゃんをいじめるのはぶちのめして差し上げますから!」
「サミィ、口調オカシイから」
「あら、おほほ」
「でも本当にちゃんと言ってね。私達がお仕置きするから」
「……はい、ありがとうございます。サミィお姉様、アル姉様」
と、とても心強いお言葉をいただきました。
キィと共に帰る途中に以前ディン様に教えてもらった池のある東屋を通りかかり、本当に心が休まる場所だなぁと足を止めて見ていると
――― ―――
何か聞こえたような気がして辺りをきょろきょろと見回しても私達以外はおらず、何も変化はなさそうです。
「お嬢様? 如何しましたか」
「キィは何か聞こえなかった?」
「特には」
「そうですか、気のせいで――『 テ』―― え?」
「まさか……?」
「キィ?」
「ルゥ様にも聞こえたのですか?」
――『タスケテ』――
また聞こえた。小さな子供のような消え入りそうな声。
「はい。この声は?」
「おそらくは精霊…しかも消えかけていると思われます」
「助けないと!」
「しかし、弱りすぎていては今の私には……」
キィにも無理なの? どうにかしたい。
「方法はないのですか?」
「……回復方法は何とかなると思いますが……見つけるのが」
「キィにも見えないのですか?」
「このままではどうにも……精霊に戻れば見えますが……すみません、今の私では無理なのです」
申し訳ありませんと頭を下げるキィに顔を横に振って気にしないでと伝えます。
他の方法は……。
「あの、以前見せてもらった精霊の光を見る方法ではダメですか?」
「準備不足ですね。確かに『場』を整えれば見えますが、あれは精霊の力を借りているので最悪の場合それだけで消えてしまうかもしれません。ここに高位のものいないようですし」
弱った精霊に負担をかけずに見つける方法……あ、忘れていました。
「私の〔瞳〕なら見つけられますよね?」
「ですが……」
キィが言葉を濁すのは私を守るため。
彼にコントロールの補佐をしてもらうと結界を張ったとしても維持が出来ない。
そうなると誰かに見られてしまうかもしれないと懸念しているのでしょう。
一人で発動させることが出来ればキィの不安は解消できるけれど…失敗すれば時間がないかもしれない。
自分のために、助けられるかもしれないのにそれをしないのは嫌です。
「キィ、結界は張らなくていいですから発動を手伝ってください」
「ルゥ様!?」
「できる事をしたいの……知られてしまっても一緒にお父様に怒られてくれる?」
本当は知られてしまったらどんな迷惑をかけてしまうかと思うと怖い。
でもそれを隠すようにへにゃりと笑えばキィは苦笑いで答えてくれます。
「……まったく、私のお嬢様には敵いませんね。でも大丈夫ですよルゥ様。今の貴女なら少しのサポートで発動できるでしょう」
「え?」
「周りを見てください。世界が換わりはじめていませんか?」
キィの言葉で周りを見れば世界の色が重なり合って見える。思わずキィを見上げれば眩しそうに私を見ていました。
「ルゥ様の瞳が発動した時の煌めきを宿しはじめているのです」
だから大丈夫ですよと少し泣き笑いのような表情で教えてくれます。
それならばとキィに結界を張ってもらってから彼の手を取り発動を試みます。
祈るように目を閉じて意識を瞳に集中させ深呼吸すれば、パリンと何かが割れたような気配を感じて目を開けば世界の色が換わっていました。
今まであんなにも苦労していたはずの〔真実の瞳〕があっさりと発動し、普段は見られない景色に心を奪われそうになりますが、慌てて辺りを見回します。
すると水の精霊が、以前ディン様が教えてくれた池の上でクルクルと何か合図をしているように舞っています。
教えてくれているんだ!とキィを見上げると月白色の髪が仄かに光り、銀の瞳で柔らかく微笑む姿が本当に綺麗で一瞬息が止まります。
顔が熱くなったような気もしますが、急いで説明して向かうと池の中に沈んでいる睡蓮のような花の上に樹と闇の精霊が見えました。
水面は揺れていないのに精霊だけが揺らいでいるようです。この状態が消えかけているということなのでしょう。
「キィ、水の中のアウランティウムとメランアーテルの精霊が揺らいでいるのが見えます」
「揺らいで? ……その状態で今の私に見えないという事は相当弱っているのでしょう」
「そうなのですか?」
「はい。しかし水の中にアウランティウムとメランアーテル? ……いえ、まずは回復させましょう。ルゥ様、古語のおまじないを覚えていますか?」
「古語のおまじないですか? 」
「はい。昔……私を助けてくれた時のあの言葉と今のルゥ様の状態であればあちらの世界に干渉できます」
にっこりと微笑む精霊の姿のキィを見て……キィとの出会いが思い出される。
あぁ、キィはあの時から私を守ってくれていたんだ。
暴走しないように。押しつぶされないように。
なんで覚えていなかったのかと涙が出そうになるけれど、感傷に浸っている時間はない。
「思い出しました。……でも今回は制御できるでしょうか」
あの時は暴走しかけたのをキィに助けてもらったはず。だから少し怖い。
そんな私の考えを見通しているキィは「今回もお手伝いします」と私の右手を握って一緒に水の中へ入れて微笑みかけてくれます。
深呼吸を一回。
そして思い出した……懐かしいおまじないを唱えます。
「〈〈いたいのとんでけ〉〉」
あの時の様に白磁と漆黒の粒子が舞い、精霊たちに向かって降りて行き彼らに吸い込まれていきました。
揺らいでいた姿が巻き戻されるように鮮明になっていく。
粒子が消えると精霊たちはお互いを見合わせてからこちらを向き、――『アリガトウ』――とニッコリ笑って花の中へ行ってしまいました。あの花はお家なんでしょうか?
でも、元気になって良かった。
ほっとすればいつの間にか私を立たせて手を乾かしてくれたキィの銀の瞳と目が合います。
キィの表情はいつものようにふんわりと笑ってくれているはずなのに何故か寂しそう……?
いつもと違った様子に疑問が浮かびますが今はキィにお礼が言いたい。
「キィ、ありがとう。今まで〔瞳〕の練習に付き合ってくれて。おかげでちゃんと発動できるようになれました」
「……いいえ、ルゥ様の努力の結果です。私は何もできなかった。あの時も今も」
「キィ? それはどういう……」
段々と苦しそうな表情に変わっていってしまう彼の様子に戸惑うことしか出来ません。
「ルゥを守っているようで守られていたのは私の方で……貴女はどんどんと先に行ってしまう」
「キィ、それは違うわ。私の方がずっと守ってもらっていた」
「いいえ、私は守りたいのに傷つけて……だから何も言って下さらないのですか?」
「キィ?」
「お願いだから私を……俺を置いて行かないで、否定しないでください」
「そんなこと! 私は……」
すっと私の前に跪き、真剣な、でも泣きそうな表情でキィは銀の瞳で私を射抜く。
「ねぇ、ルゥ。君を守りたいんだ。君が口を噤んでしまうほど不安にしているものは何? 相談できないくらい俺は頼りない?」
何も言えない私をずっと見つめているキィの姿が段々といつもの黒髪と深緋色の瞳へと戻っていく。
いつものキィの姿に安心感を覚えて笑みが戻る。
彼だけじゃなく彼らに〔私〕のことを言えなかったせいでみんなを傷つけていた。
笑顔にしたい人たちを悲しませてしまった。
それなのにみんなは優しくて。
変わりたい。だから――
「キィ、そうじゃないの。……私は怖かった。でもちゃんと言うから」
「ルゥ?」
「待っていてくれますか?」
キィは一瞬目を見開いて驚いたようですが、いつものふんわり笑顔で「ルゥ様の仰せのままに」と優雅な礼をしてくれました。
―― side Keemun ――
あの時、ルゥに拒絶されたと思った時は自分の存在が否定されると思うくらいの衝撃だった
どんなに苦しくても傍にいると決めたのに
守りたいと思っているのに
怖かった
彼女が眠りにつく原因の4人は特に彼女は触れられなかった
自分のせいだと悔やんでも悔やみきれず……消えてしまいたいとさえ思った
でも、それでも傍にいたくて触れたいのに触れられない
苦しいけれど彼女の方が辛いと思えば耐えられた
それと彼女と少し離れてニルギリ様を送って行くときに話したのが良かったのだろう
同時に人の成長の早さに恐ろしさも感じたけれど、力になった
彼女は段々と前のように振る舞っていたけれど、何かが違う
それでも近くにいられてこのままでも良いと思い始めていた
でも……
何かを想う姿が以前より辛そうに見えて――
それなのに彼女は一人で抱え込み前へ進もうとする
それが“私達に心配をかけないように”という事が、もっと自分を頼って欲しいという心と矛盾を起こして動きが取れなくなる
そんな彼女をもっと先へ進ませた王女殿下に嫉妬して
聞こえてしまった彼の告白にも焦って
彼らが好意を寄せているのは分かっていた事なのに
苦しくて 抑えられなかった
ただ、頼って欲しかった
君の唯一になりたくて
ねぇ、ルゥ。君は何に怯えているの?
私には話せない?
そんなに俺は頼りない?
君を守りたいんだ
お願いだから離れていかないで――傍にいさせて
憂いを晴らせるなら何でもするから
どうか教えて、君のコトを――
そんな想いをぶつけてしまった
拒絶されるかという恐怖は彼女の笑みで消え去り
ますます彼女に惹かれていく
ルゥ 知っているかな?
精霊は一途なんだよ
いつもお読みいただきありがとうございます。
最後までお付き合いいただければ幸いです。




