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私、乙女ゲームしたことないんですけど?【連載版】  作者: たばさ
彼らとのこれから
38/41

37 ―想いの行く先― 

遅くなりまして申し訳ありません!

不定期ななりつつある話にお付き合いいただきありがとうございます。


後半別視点あります。




「恋、かぁ……」

 ふぅとため息と共にポツリと言葉が零れた瞬間、ガチャン!と横から茶器のぶつかる音。

 お茶を注ぐためのカップをソーサーに置くのに手元が狂ったようです。


「あ…」という気まずそうな声を出したのは侍従服(・・・)姿のセイ様。


「あらあら、気を付けてくださいね」

「姉上……」

「うふふ」

「え~と、大丈夫ですか?セイ様」

「うん、ありがとう。ルゥ……」

 

 私は今、サミィお姉様の休憩にお付き合いしております。

 このサロンにいるのはサミィお姉様、セイ様と私の3人。椅子に座っているのは女性陣2人。

 ……通常であれば侍女や侍従がすることをなぜかセイ様がしています。

 お茶も美味しく入れられるなんて、セイ様は何でもできるのですね。


「それで、ルーちゃん。今の言葉は何かしら!」

 キラキラとした目で――いつの間にか「ルーちゃん」と呼ぶようになった――サミィお姉様に右手をがしっと掴まれてしまいました。



 なんでこんなことになったのでしょうとこの状態に至ったことを考えてしまったのが悪かったようで、つい言葉が零れてしまったのを聞かれていたとは。

 誤魔化したいけれど……私では無理でしょうね。


 “こんなこと”とはサミィお姉様とお茶をしていることなのですが、今日は予定には全く入っていなかったのです。


  魔術院で適性審査を終えて――ディン様とアル姉様とお会いしてから早いもので5日たち、明日にはニールが帰ってきます。

 その準備のためにお母様からのお願いで医療部の温室の管理人…ルピアさんへお届け物とお願いしてあったハーブの受け取りを頼まれました。


 私の身体と頭がリンクしにくい状態は――私の精神状態が落ち着いてきたことと“前向きな考えかたを”ということが良い方向に作用したようで、とっさのこと以外はだいぶ以前のように振る舞えるようになりました――良くなってきたので、リハビリ&魔術院に慣れようとキィと共に出かけました。

 ……私の精神年齢ってどこへ行ってしまったのかと思うくらい両親やキィに支えてもらってばかり。

 恩返し出来るようにもっとしっかりしないと!



 ルピアさんにお届けと受け取りを済ませて帰ろうとエントランスホールに着くとそこでアル姉様とサミィお姉様とばったり会いました。


 そこでなぜかアル姉様とキィの言葉の応酬が始まり……どちらが仕掛けたかは申せませんが買った買われた状態で試合(ケンカ)する流れになり、それが終わるまでサミィお姉様の休憩にお付き合いすることになったのです。


 お姉様に連れられて向かった先のプライベートサロンには従僕のお仕着せを着たセイ様がいました。

 私とセイ様は目を合わせてぱちくり。

 思わず固まった私達はサミィお姉様の説明を受けてなんとか正気に戻りました。

 詳細はぼかされてしまいましたが、なにやら罰ゲームだそうです。


 弟君とはいえ一国の王子にいかがなものかと言ったのですが、サミィお姉様に「セイロンの精神力を鍛えるためだから付き合って頂戴ね」と言われ、セイ様にも「私のためを思うなら姉上に付き合ってほしい……」と半ばあきらめた様子で言われてしまえば私はそうするより他はありません。



 そうして他愛ない話をしていたのですが、先日の適性審査の話になった時にディン様に言われたことを思い出して―――。


 私もディン様のことは大切なお友達と思っているから嬉しくて、でも同時に感じた苦しいような気持ちはディン様の成長の早さに『成長著しいとはこのことなのですねぇ』と一抹の寂しさを覚えたのと自分の成長の遅さが悔しかったのだと。

 それから、どなたかに恋をしているとアル姉様が言った事を思い出して――年下とはいえ精神年齢は私の方が上ですから――どうやって応援しよう考えて……


 そもそも恋ってどういうモノなのかな?という考えに到り、つい言葉が零れてしまったようです。



「ルーちゃん! 恋したの? してるの?」

「え? あの、えーと」

「姉上! ルゥが困っています。もう少し落ち着いて下さい」

 どうなの? とワクワクしているサミィお姉様の迫力にちょっと引き気味の私に気付いたセイ様がやんわりと窘めてくれました。

 が、「私もそれに関してはとても気になるから教えて欲しいな」と有無を言わせない笑顔でセイ様も言います。

 お二人の王妃様譲りの迫力と笑顔には敵いません……。



 ディン様、ごめんなさい!と心の中で謝りつつ先日の話をしたところ……サミィお姉様は「成長著しいって」と笑い、セイ様は「ディン……」と遠くを見ていました。


 なにか不味かったかしらと思いましたが、サミィお姉様とアル姉様――アル兄様にいつ変更したらいいのか悩みます――はラブラブですから何か良いアドバイスをもらえるかもしれません。



「それで、ルーちゃんは恋について気になっていたのね」

「はい。恋ってなんなのでしょう」

「そうねえ……セイロン、答えておあげなさいな」

「はい? ちょ、ちょっと姉上!?」

「セイ様が教えてくださるのですか?」

「え? いや、あの……えーっと」


 まさかの解答者の変更ですが、ワクワクしてセイ様を見上げれば困ったように耳を朱くして視線をあちらこちらに向けていましたが、サミィお姉様にニッコリと微笑まれると観念したように口を開きます


「えーと、まあ…人それぞれだと思うけれど。よく言われるのが“する”のではなくて“落ちる”ってところかな。いつの間にか好きになっていて、目が離せなくて……」

 何か特別なことを思い出すように遠くを見ながら話し始めるセイ様から視線が離せなくなる。


 銀糸の髪がキラキラと木漏れ日に反射してとてもきれい。


「相手のことを知りたい、同じ位置――心の位置かな――にいたいとか。自分のことも相手に知って欲しいとか」

「……相手に自分を知ってもらうのって怖くないですか?」

「うん、怖いね。でも……それでも知って欲しいと受け入れて欲しいと願って。相手のことを全て知りたいと思うんだ」

 もちろん相手に好きになってもらう努力もしないとかなと、はにかんで言うセイ様の姿に既視感のようであり未知に対する不安のようなものがじわじわと迫って来て……。

 頭の中にパッと思い出された言葉に息が止まって胸に手を当ててしまう。



「あ、そうだ。ルゥはディンの応援をするの?」

 私の様子をジッと見て一瞬泣きそうな顔になったと思ったら急に雰囲気を変えるセイ様。

 その様子の変化に思考の渦に落ちそうになった意識を引きもどされたのですが、彼の質問に対して疑問が浮かびます。

 サミィお姉様もちょっと訝しげな表情です。



「できればしたいです。大切なお友達ですから幸せになって欲しくて」

「友達……幸せ……かぁ」

「セイ様の力にもなれればと思うのですが」

「……ルゥには……その手伝いだけは出来ないよ。……イヤ、して欲しくない」

「セイ様? 私では力不足ですか」

「そうじゃない……」

 ふるふると力なく頭を振るセイ様に私は何もできず、また私自身も混乱しているために何も言うこともできません。


 しばらく沈黙が続いたあと動いたのはセイ様でした。その表情は意を決したようで――


「ルゥ、自分だとは思わなかった?」

「え? どういうことですか……」


「ディンの気になる人」


「え?」

「セイロン!」

「姉上は黙っていて……ねぇルゥ、ディンだけじゃないんだよ。私も……」

 サミィお姉様を一言で留め、セイ様は口を噤んで目を閉じて深呼吸すると目を開けて真剣な目で私を縫い止める。


「私が好きなのはルゥなんだ」

「セ、イ様? なにを……」


「初めて逢った時から好きだよ、ルゥ。……私から言うのは怒られてしまうと思うけれど、ディンもニルギリも君の事が好きだ……あと彼も」

「わたしは…」

「混乱させたことには謝る。でもそれ以外は悪いとは思っていないから……」

 そう言ってサミィお姉様に「頭を冷やしてきます」と言い残して部屋から出て行ってしまいました。



 私は彼らを見ていたようで見ていなかったのでしょうか……。

 セイ様もディン様もニールも私が好き? 彼って?

 私にはそんな資格はないと呆然とドアの方を見ているとふわりと私を抱きしめるサミィお姉様。



「ごめんなさいね、セイロンを嫌いにならないであげて。ちょっと混乱しているのよ」

「……お姉様、わたし」

「大丈夫、時間はたくさんあるわ。ルーちゃんが話せるようになったらでいいのよ。私で良ければ相談にも乗るわ」

「サミィお姉様!? あの、その」


 サミィお姉様の言葉にまさか両親から聞いたのかと血の気が引いていきそうになります。


「安心して、誰にも何も聞いていないわ。アルと私の独断。ルーちゃんが何かに悩んでいてあの4人に相談していないようだと思ったから、もしかして女性同士の方が相談しやすいかと思って」


 違ったのだと分かって安堵しホッと息を吐く私を見て、「アルが作戦立てたのに失敗だわ」と頬を膨らませるサミィお姉様につられて笑みが零れます。


「そう、笑って。笑顔になって前を向いて、貴女は貴女よ、ルーちゃん」

「……お姉様」

「私はルーちゃんが何に悩んでいるかは分からない。……でも」

 と言葉を濁したサミィお姉様は少し逡巡してから先程のセイ様のように真剣な目で私を見ます。


「……一つ確信したことがあるの。ルーちゃんは相談するのが怖い?」

 一人で答えを出すのが多いでしょうと言うサミィお姉様の言葉に愕然とします。

 そんなことはないと言いたいのに言えない。真実だから。

 〔私〕は否定されるのが怖くて嫌われたくなくて……変わるのが怖くて深いところまで関わらなかった。



「相談するって難しいわよね…まずは信用しないと始まらないし。だからルーちゃんが自分も彼らも信じられないなら、私を信じて」

「どうして……ですか」

「うふふ、私は次期女王よ。私が国民を信じないで誰が信じると言うのです?」

「……お姉様」

「と言うのは大げさかもしれないけれど、私も光の精霊の加護持ちなの」

 と微笑むサミィお姉様は“感覚的に信じられる物事が分かる”ということだそうです。


「だから貴女が思う道を進みなさい。一人が怖いなら……」

「いえ、大丈夫です。私一人じゃないと意味がないです」

「ふふ、そうね。でも、何か力になれることがあったら言って頂戴ね」

 どんな事があってもルーちゃんは私の妹ですからと悪戯っぽく微笑むサミィお姉様に元気をもらいました。



 今ならサエちゃんの気持ちが分かるような気がする。

 それじゃあダメだという事。


 どうすれば良いか……答えはもうすぐ出せると思う。

 









―― side Ceylon ――



あの時、“サクラ”という花の話をした時のルゥの笑顔が儚くて……

 消えてしまうような錯覚に陥った。



 それ以前にも彼女はたまに、ここではない何処か遠くを焦がれているような

 まるで郷愁の念にかられている表情をしていた。


いつか私達の……私の傍からいなくなってしまうのではないかと

 離したくなくて焦った



赤とピンクは『愛情』と『前向きに』

オレンジと黄色は『元気になって』『無理をしないで』

白は『希望』を込めて

半分は自分達に向けての意味が大きかったけれど、どうしても自分の好きな花を贈りたかった


 諦めるつもりはないそう誓った

 だけど今の私には恐怖のほうが強くて……



*******



 急に姉上がルゥを連れて来て驚いたけれど嬉しかった。

 できれば普通の服で逢いたかったけれどルゥは姉上に意見してくれたからどうでもよくなった。

 私のことを考えてくれるのがまた嬉しかった。

 ずいぶん久しぶりにルゥの姿を見て幸せだったのに――


 この状況で恋の話なんて姉上は私に答えさせるし

 ディンと先に会っていたなんて。

 しかもアールグレイは何を言ったって?

 

 どうしてルゥは気付かないの?

 

 悔しくて切なくて余裕がなくて……

あの表情で胸を押さえて何かを思うルゥの姿に――


 思いのままに言っていた


 姉上たちから負担をかけないように言われていたのに……



 彼に……彼らに負けたくなくて

 気付いて欲しい、自分を見て欲しくて――好きだと言っていた。



 逃げるように外に出て頭から水を被って落ち着いた先にあったのは自己嫌悪。


 探しに来たディンに怒られて一発くらい殴られるかと思ったら「先に会ってセイに言わなかったからお相子」だなんて…甘いなぁと思いつつも彼らしいと納得した。


 これで負けたと思いたくないし、負けるつもりも諦めるつもりもなくて


 ディンと共に彼女の判断を待つことにした。

 願わくば彼女の信頼が消えていない事を――。








展開が早いと思いますが、あと数話で終わりますのでお付き合いいただければ幸いです。

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